ポバール/旺盛な需要変わらず
2007年05月09日 (水曜日)
懸念はコストアップの再燃
織布のサイジング糊剤として使われるポバール(ポリビニルアルコール)の需要が旺盛だ。酢ビ・ポバール工業会がまとめた06年のポバール出荷高は21万6893トンで、前年実績を5%上回った。04年以来3年連続して20万トンの大台をクリア、景気回復に伴う既存商品の需要拡大と用途開拓の進展を裏づけた。
アスベスト代替として脚光を浴びるビニロンが建築資材中心に引き続き好調なほか、一般市販用も堅調に推移した。また、05年は国内需要を優先した供給面の事情から、後退した輸出が大幅に増加したことも06年の特徴。この結果、日本国内の生産だけで海外の需要にも対応していた2000年以前に匹敵する高水準の出荷となった。
繊維分野への販売は00年から7年連続の減少となったが、インド、パキスタン、中国などへの輸出は繊維用が多く、国内外を含めた繊維用はむしろ増えているとの指摘もある。繊維用はビニロンと並ぶポバールの開発当初からの分野。国内市場は小さくなったが、これまで国内で蓄積したサイジングに関する技術やノウハウが海外で発揮されている。
一般市販用ではフィルム用も減っているが、これは繊維製品の包装が中心。不振分野は繊維関連に集約された格好にもなっている。
ポバールの旺盛な需要は今年に入っても全く変わっていない。1月の出荷高は1万9458トンで、前年同月を15%上回った。
しかし、問題は採算だ。一時落ち着いていたナフサの価格が上昇に転じており、再びコストアップの転嫁問題が浮上している。ポバールの値上げ問題は昨年秋までに一応の決着をみたものの、メーカーからみると、コストアップの転嫁は十分にできておらず、再びコストが上昇に転じると、採算の悪化が急速に進む懸念がある。
クラレ/原料価格の動向注視
クラレ・ポバール樹脂カンパニーは昨年に引き続き価格問題を最重要課題として取り組む。服部次男ポバール販売部長は一時落ち着いていたナフサや石化製品の価格が再び上昇に転じていることを指摘、「原料価格の動向を見ながら」得意先に再度値上げを要請していく考えを明らかにしている。
同社が原料価格の動向を注視しているのは、昨年秋に値上げ交渉がいったん決着したものの、コストアップ分を十分に転嫁できなかった経緯がある。原料が上昇すれば、さらにその分だけ採算悪化が進む。
ポバールの需要は依然旺盛で、服部部長は繊維用と繊維製品の包装が主体のフィルムを除くと、高水準な需要の「基調は変わっていない」とみる。コンピュータ化の進展を背景にした紙とブチラール樹脂の接着剤用途がとくに好調で、「供給に追われる状況」が続く。
同社は日本のほか、シンガポール、ドイツでポバールの拠点を構築。それぞれの地域の需要に即した生産と販売を行う。海外の両拠点とも需給は極めてタイト。シンガポールではインド、パキスタンを中心とした繊維用の需要増がタイト感に拍車をかける。
同社が価格改善と同様に力を入れているのが、差別化品の拡大と新規分野の開拓。中国向け中心に販売する塩ビ用は差別化品の代表的な存在だが、これをさらに拡大するとともに、新たな差別化品の開発に取り組む。
繊維用は日本国内では減り続けているが、中国向けに展開する中国品との混合タイプは着実に伸びている。国内で蓄積した技術とノウハウを駆使し、中国市場では繊維用の拡大も図る。
日本酢ビ・ポバール/用途開拓、商品開発推進
日本酢ビ・ポバールは昨年来積み残しとなっているコストアップ転嫁のための売り値改善と併せて、用途開拓、商品開発の推進に力を入れる。
同社のポバール販売は自動車のフロントガラスなどに使われるブチラール樹脂や輸出がとくに好調で、生産即出荷の状況が続く。サイジング糊剤を中心とする繊維分野への販売は綿織物業界の不振から、依然減少傾向にあるが、インド、パキスタン、中国向けで繊維用の販売が伸びており、国内外合わせた繊維用の販売は増えている。
しかし、採算は厳しい。原油価格の上昇に伴い、ナフサなどの原料が高騰しているためだ。昨年春に打ち出した値上げは取りあえず決着したものの、コストアップを完全に吸収するには至っていない。また、販売する分野や用途によって値上げの浸透状況に開きがあり、値上げが遅れている分野の底上げも課題となる。
さらに問題となるのが、今後の原料価格の動向だ。辻本修介大阪営業部グループ長・部長は1トン当たり4万8000~4万9000円に下落していたナフサが4月以降、5万円台を回復する見通しにあることを指摘。原料高転嫁の値上げが今年も重要課題として継続するとの見方を示す。
だが、既存商品だけでは採算の改善は難しい。用途開拓や商品開発によって、付加価値の高い商品群を拡充し、平均単価を押し上げる取り組みも重要となる。同社では今後の事業計画のなかで、増設も検討課題に挙げているが、用途開拓の進展は増設の有無を決める大きな要因となる。