高機能繊維特集/炭素繊維だけじゃない スーパー繊維も右肩上がり
2007年08月09日 (木曜日)
高強力、高弾性が特徴のスーパー繊維をはじめ日本が誇る高機能繊維が絶好調を続けている。右肩下がりの合繊業界にあって、高機能繊維は別格の存在。玉不足が顕在化する中で、設備増強が相次ぐ。引き合いが強いのは日本以上に海外、とくに欧米市場だ。ボーイングやエアバスの次世代航空機に採用され、何かと言えば炭素繊維に脚光が当たるが、日本が誇る高機能繊維は炭素繊維だけではない。右肩上がりの高機能繊維の世界を探る。
営利220億円の稼ぎ頭/帝人アラミド繊維
「強くて切れにくい」スーパー繊維や「高熱に強くて燃えない」特徴を有する耐熱繊維など、日本が誇る高機能繊維が拡大している。代表格は帝人のアラミド繊維事業。前3月期、同事業の連結売上高は767億円(13・8%増)、営業利益221億円(20・8%増)と2ケタ%台の増収増益を達成、第1四半期でも13・1%増収、8・6%増益を確保した。
パラ系「トワロン」は昨年末に年産2万3000トンへの増設を完了したが、さらに15%増強を明らかにしている。「テクノーラ」(年産2000トン)も5割増強を検討中で、メタ系「コーネックス」(年産2700トン)も倍増設を視野に入れた計画を策定中だ。帝人に代表されるように、高機能繊維は好業績で、増設が相次ぐ。
将来構想は1万トン/クラレ「ベクトラン」
クラレの高強力ポリアリレート繊維「ベクトラン」も中期計画初年度の前3月期、利益計画を上回るなど勢いが増す。NASAの火星探査機のエアバッグで、世界的に注目されたベクトランは90年に年産400トンで事業化。当初は延縄用が主体であったが、徐々に新規用途開拓が実り、販売量を拡大。その後、ボトルネック解消で600トンにまで生産能力を拡大してきた。
転機は05年。米セラニーズ・アドバンスド・マテリアル(CAMI)からのベクトラン事業買収。クラレアメリカの新規事業部として運営を始めてから、米国の最終用途などを把握。一気に販売量を拡大した。
今年10月には400トン増の年産1000トンに増設するが「中期的には3000トンが目標。将来的には1万トンを目指す」と繊維資材事業部の梶田栄機能素材部長は意気込む。
増設分も現在、7割を占める米国輸出の拡大を中心に埋める算段。水分をほとんど吸収せず、湿潤時の物性変化がない特徴を生かした海洋ロープ・ケーブルのほか、FRP(繊維補強プラスチック)の拡大にも取り組む。
昨年4月にはFRP開発チームを発足、評価機器も整備し、ビニロンも含めた形で同分野の開拓により、3000トン体制の道筋を付けたい意向だ。
同時に、摩擦材用パルプにも再挑戦。「合理的な生産方法も確立した」と言う。さらに紡績糸も再度力を入れ、防護手袋などの開拓を進める。耐熱性があり、耐磨耗性、耐切創性などに優れるほか、漂白剤などにより強度劣化しない強みを生かして食品加工場向けなどを狙う。
開発面では強度、弾性率など物性を高めた“NEW”ベクトランの技術開発も進めているが、3000トン体制時には新技術を盛り込む考えだ。
2015年に売上高300億円/東洋紡機能マテリアル事業
高強力ポリエチレン繊維「ダイニーマ」、PBO繊維「ザイロン」、さらに活性炭素繊維使いの製品を扱う東洋紡の機能マテリアル事業総括部は2015年に売上高を倍増の300億円を計画する。
すでに、ダイニーマは08年3月に6割増の1600トンに拡大するが「次の増設(500~600トン)を視野に入れる」(佐野茂樹機能マテリアル事業総括部長兼スーパー繊維事業部長)。とくに、ロープ・ネット、釣り糸などで玉不足が続く。好調な造船業界を背景に大型船舶の係留索としてワイヤー代替需要が活発。さらに、薄手の防護手袋向けも好調に推移する。土木(トンネル補強)・建材(壁装材補強)など新用途に拡販したいものの、現在玉不足のために供給できない状態のため「増設分は垂直立ち上げが可能」と見る。
防弾チョッキの訴訟問題から耐熱用途に絞った形で再スタートを切っているザイロンは08年度中に収支トントンにまで持ち込む意向。耐熱フェルト、タイミングベルト、消防服など「柱になりそうなものはあるが、それでも全体の半分を占めていない」のが実態。いかに柱用途を育成するかが大きな課題と言える。
高強力だが、リーズナブル/旭化成せんい「サイバロン」
ベクトラン、ダイニーマが第2世代、ザイロンを第3世代のスーパー繊維とすれば、第4世代に位置づけられるのは、旭化成せんいが09年度、本格事業化を進めるポリケトン繊維「サイバロン」(年産2000トン設備を導入予定)。現在、量産化技術の確立などに取り組んでいる。
サイバロンは既存のスーパー繊維に比べ“リーズナブル”な点が特徴。初期段階はパラ系アラミド繊維並みだが「将来的には安くなる」と福田康男サイバロン事業推進室長は言う。
現在はパイロット設備(年産20トン)による有償サンプルを行うが、ゴムとの接着性の高さからタイヤなどのゴム資材を主力としており、高強力レーヨン代替もその一つになる。
また、防護手袋、FRC(繊維補強コンクリート)、FRP(繊維補強プラスチック)やスポーツ資材でも開発が進む。6月にはパルプ化する加工機も導入した。
エチレンと一酸化炭素を原料とするサイバロン。基礎技術はあくまでも日本で行うものの、生産はこだわらない意向も示す。消費地に合わせた形で、本格設備を海外に導入する可能性もゼロではなさそうだ。
ろ過布で競争/耐熱繊維/PPSで新規参入相次ぐ
熱に強く燃えにくい耐熱繊維の市場も拡大している。帝人のメタ系アラミド繊維「コーネックス」、東レのPPS(ポリフェニレンサルファイド)繊維「トルコン」、フッ素繊維「テフロン」「トヨフロン」、東洋紡のPPS繊維「プロコン」、ポリイミド繊維「P―84」などがある。
すべてバグフィルター(ろ過布)が主力になる。このうち、PPS繊維は火力発電所、石炭ボイラー向けを中心とするが、欧米、中国企業のPPS繊維への新規参入などもあって競争が激しくなる可能性が高い。
海外勢では米FIT(ファイバー・イノベーションテクノロジー)、欧州のディオレン、ネクシスが新規参入したほか、中国では少なくとも2~4社が事業化したとされる。
PPS繊維の世界需要は推定ながら年間3000トン。年率5~10%成長しているものの、東レ、東洋紡ともそれぞれ年産3000トンと2社だけ世界需要の2倍の供給能力がある。そこに新規参入が加わった。2社では先発企業とし、ノウハウなどを強みに競争に打ち勝つ構え。東レは先行する中国市場の開拓を推進。東洋紡はポリエステル短繊維事業とも関連するが、欧米、中国では提携するインスペックファイバーズとの連携による技術サポートなどを武器にして、拡販を目指す。