東レ・先端材料は環境配慮型製品「エコドリーム」で倍増計画

2007年08月09日 (木曜日)

 東レは2006年10月からスタートした中期経営課題「IT―2010」において「先端材料で世界のトップ企業」を目指している。その基本戦略で高収益企業への転換を掲げ、重点4領域(情報・通信・エレクトロニクス、自動車・航空機、ライフサイエンス、環境・水・エネルギー)を設定。成長する4領域に向けて先端材料を中心に事業拡大を推進している。中でも環境・水・エネルギー分野は基盤事業である繊維が大きくかかわるところ。PLA(ポリ乳酸)などの非石油系原料による商品開発、用途開拓を加速する。

 同社は安全・防災とともに環境保全を最優先の経営課題に位置づける。同時に環境配慮型製品やリサイクルの推進など事業活動における地球環境の積極的改善にも取り組む。

 こうした持続可能な循環型社会発展に向けて省資源・地球環境保護への先進的な活動の総称を「エコドリーム」と名づけ、“クリーン&レスエナジー”というコンセプトのもと・地球温暖化防止、環境保全への貢献・環境配慮型製品の拡大・リサイクルの推進・環境社会活動の推進――などを強化する。エコドリームは環境配慮型製品の総合ブランドでもあり、これらの事業拡大を目指す取り組みがエコドリーム計画だ。

 グループの環境配慮型製品(リサイクル製品を含む)売上高は2005年度1530億円。連結売上高の約11%を占め、連結営業利益では240億円と26%。これを10年度には売上高3400億円、営業利益560億円と2・3倍に拡大する。

 同社の環境配慮型製品は幅広い。エネルギー削減という観点でみれば自動車や航空機の部材に使われる炭素繊維複合材料(CFRP)やエンジニアリングプラスチックがその代表格になるが、繊維では炭酸ガス削減や空気浄化、リサイクルなどに貢献するものが多い。

 炭酸ガス削減ではバイオテクノロジーを駆使した非石油原料系素材の開発もその一つだ。

 とうもろこしなど植物由来原料によるポリ乳酸(PLA)繊維「エコディア」は生分解性にとどまらず、二酸化炭素の発生量を削減できるカーボンニュートラル素材。3GT繊維「フィッティE」はソフト性、ストレッチ性、耐久性に優れた3GTの特徴をそのままに、植物バイオ法により、原料の37%(1・3プロパンジオール)がトウモロコシ由来になる。「アミノス」も大豆から抽出したタンパク質を原料とする。

 溶融紡糸セルロース繊維「フォレッセ」はセルロース繊維でありながら、溶剤が不要であり、様々な断面形状が可能という画期的な繊維であり、その他、バンブー(竹)繊維「爽竹」など非石油系原料による素材は豊富だ。もちろん、ペットボトルリサイクル繊維「リサイクロン」などもラインアップする。これら環境配慮型製品は先端材料でもある。その拡大こそが、IT―2010における繊維事業の課題でもある。

PLA繊維 「エコディア」/基本物性改良で車本格化へ

 とうもろこしなど植物を原料とするPLA。生分解性だけでなく、焼却しても地球温暖化の原因となる炭酸ガスを増やさないカーボンニュートラル素材でもある。

 同社はポリ乳酸原料を製造する米ネーチャーワークスと包括的契約を締結して本格的な事業化に取り組んでいる。PLAによる製品は繊維のほか、樹脂、フィルムなど幅広い。このため、ポリ乳酸事業拡大推進会議を設けて展開する。

 「PLAのフロントランナー」として市場をけん引する同社だが、PLA繊維「エコディア」では本格事業化に向けた商品開発を加速する。エコディアの2006年度の販売量は300トン。内訳は寝装品4割、農業資材3割、生活資材2割、自動車資材1割。07年度は500トンの計画で、ボディタオルや水切りネットなど生活資材、幼齢木ネット、植生ネットなどの農業資材の拡大を見込む。しかし、まだまだその規模は小さい。

 事業拡大には現在、1割を占める自動車資材をいかに増やすかが大きな課題になる。森本和雄産業資材・機能素材事業部門長は「08年度には最もスペックが厳しい自動車資材で技術を確立し、衣料を含めて用途を拡大していきたい」と話す。

 PLA繊維が環境配慮型素材であることは誰しもが認めるところ。同時に耐湿熱性はじめ基本物性の改質には課題も多い。産業資材・機能素材事業部門機能新素材Gの佐々木康次課長(エコディア繊維推進メンバー)も本格展開には「基本物性の改良」を第一義に挙げる。

 PLAの長所を生かしながら欠点を克服するため、同社ではナノテクノロジーなど様々な要素技術を活用した研究開発に取り組んできた。例えば磨耗性の向上には、表面摩擦係数を下げる滑剤を練り込む手法を取る。染色加工などで問題とされる加水分解に対しては、末端基封鎖技術を用いる手法などポリマー改質技術を駆使する。

 仮撚加工など高温下での力学特性を向上するため、繊維の構造制御技術を用いて、高捲縮化に応用。さらに、耐磨耗性の向上ではPLAと他ポリマーとの複合技術を駆使する。こうした様々な改質技術による基本物性の改良が進んでおり、本格展開に向けた素地は出来上がりつつある。

 同時に東レ合繊クラスターでもPLA分科会があり、エコディアを使った高次加工での開発が進む。これも大きなアドバンテージになる。

 二酸化炭素ガスの排出削減が消費者の生活レベルでの話題になるほど、環境問題はかつてないほどの高まりを見せる。しかも、政府がバイオマスニッポン総合戦略を打ち出しており、その中で、植物由来の製品の積極活用を促進していることも追い風になるだろう。

 森本産業資材・機能素材事業部門長が「物性とコストが合致するならば、産業資材はすべてエコディアに変えていきたい」と意気込むように、PLA時代の到来が徐々に近づいている。

耐熱繊維が空気浄化に貢献/キラリと光る機能素材事業

 環境配慮型素材とは地球環境に優しい先端材料という意味だけではなく、もっと直接的に環境保全に貢献するという側面もある。繊維の中ではPPS(ポリフェニレンサルファイド)繊維「トルコン」、フッ素繊維「テフロン」「トヨフロン」など耐熱繊維はその代表格でもある。連結売上高は07年度で70億円を見込んでおり、目標である100億円乗せも現実味を帯びてきた。田辺靖彦機能素材事業室長は「PPS繊維、フッ素繊維は基盤事業である繊維の中で先端材料の一つであり、ナンバーワン事業。当然、環境配慮型事業でもあり、キラリと光る事業に育成したい」と意気込む。

PPS繊維 「トルコン」/中国市場拡大が着々

 PPS繊維はエンジニアリングプラスチックであるPPS樹脂を繊維化したものだ。耐熱性(融点は285℃)、耐薬品などが特徴で、とくに連続使用可能温度190℃という耐熱性を武器に、石炭による火力発電所やボイラーの高温用バグフィルター(ろ過布)の素材として使用される。

 同社は1998年から本格生産を開始するとともに、2001年には世界シェア5割の米AFY(アメリカン・ファイバーズ&ヤーンズ・カンパニー)から営業権を買収。現在、世界シェアの6割を握る。

 PPS繊維最大市場は欧州だが、この数年は中国市場が急速に拡大している。同社でも東麗〈中国〉投資(TCH)に早くからトルコンの専任担当者を置くとともに、東麗繊維研究所〈中国〉(TFRC)にはトルコンチームを置いて、現地での技術サポート体制も整備した。需要増に加えて、販売体制の整備が奏功し「中国で高いシェアを獲得できたことが、トルコン成長の原動力になった」と田辺機能素材事業室長は分析する。すでに、トルコンにとって中国が4割を占める最大市場になった。

 また、TFRCはバグフィルターの評価設備を置くとともに、バグフィルターを構成する様々なニードルパンチ不織布、さらに高次加工品も生み出した。

 高次加工品では、すでにスクリム(バグフィルターの補強材、PPS紡績糸織物)を中国で事業化。現地企業に生産委託する形でスクリム販売を開始している。これにより、PPS繊維だけの供給にとどまらず、スクリムを含め一括した供給体制が整った。

 同社によると、PPS繊維の世界需要は年間3000~4000トン。最大規模の欧州は成熟市場であるため、年率3~5%成長にとどまるものの、中国はまだまだ大きな伸びが見込めるとみる。

 トルコンの中国向けはまだ年間600トンだが、4年前はゼロだった。今後は小型の石炭ボイラー向けの需要増を見込むほか、中国の内陸部や民間企業の自家発電所など「成長余力は十分にある」と意気込む。同時に、米国でも2ケタ%弱の伸びが見込める。

 課題は8割を占めるバグフィルター以外の用途開拓であり「大型商品は難しいが、小さくても付加価値のある用途開拓に取り組む」。その上でも原料からの一貫生産は強みになる。

フッ素繊維 「テフロン」 「トヨフロン」/都市ゴミ焼却場で高シェア

 フッ素繊維の「テフロン」「トヨフロン」も耐熱性(融点327℃)、耐薬品性に優れた高機能繊維。フッ素樹脂を繊維化した。常温最高使用温度が260℃とPPS繊維よりも高く、すべての薬品に強い特徴を生かし、都市ゴミ焼却場のバグフィルター素材として使用される。フッ素繊維の世界市場は約1500~1600トンで年率3~5%成長を続けるが、そのナンバーワンが同社になる。

 米デュポンから買収したテフロンは04年にトーレ・フロロファイバーズ〈アメリカ〉(TFA)の設備移管を完了し、自社生産を開始した。トヨフロンは東レ・ファインケミカルが生産を担う体制だ。

 国内では都市ゴミ焼却場の新設が一巡しているため、今後は取り替え需要の対応が主体となるが、他素材との競争もあるため、主力の「テファイヤー」(テフロンとガラス繊維の混綿不織布)の廉価版「テファイヤーHG」も投入しながら、シェア拡大を図る。同時に、欧米で先行する摺動材などバグフィルター以外の用途開拓も進める。

 フッ素繊維はテフロンの名からも分るように、摩擦係数が低く、すべり易い特性がある。この特徴を生かした用途展開は、自動車やOA機器、一般機械のベアリングなどの部品。米国ではさらにフッ素樹脂を含浸させたパッキン材、シール材などもあり「今後は付加価値の高い用途開拓にも取り組む」方針だ。

東レ・デュポン 「ケブラー」/アラミド繊維の代名詞

 パラ系アラミド繊維の代名詞である「ケブラー」。米デュポンが1965年、世界で初めて開発したスーパー繊維だ。

 同じ重さの鋼鉄に比べて5倍の引っ張り強度があり、軽く、伸び難く、熱や摩擦、切創、衝撃にも強い。電気を通さないなどの特性も備えるケブラーの国内販売は東レとデュポンの合弁会社である東レ・デュポン(東京都中央区)が担当する。

 91年からは東海工場(愛知県東海市、推定・年産2500トン)で、ケブラー生産を始めたが、上妻正博常務ケブラー事業部門長は環境・安全を切り口にした事業拡大に手ごたえを示す。

 けん引車として期待するのはタイヤコード。国産ケブラー最大用途で、環境ビジネスとも言える。

 同社は米デュポンから輸入するケブラーのパルプ(繊維をすり潰したもの)を、ブレーキパッドなど摩擦材やクラッチ、ガスケットなどのパッキン材に販売する。これはアスベスト代替であり、環境ビジネスの最たるもの。タイヤコードはパルプとは切り口が異なる環境ビジネスになる。

 ケブラーをタイヤコードに使用することで、タイヤの軽量化、そして自動車の軽量化につながるからだ。そのタイヤコードにおけるケブラー使用量が「年率10%弱で伸びている」。

 これまでは特殊なタイヤ、例えば世界のトップレーサーがしのぎを削る高速レース用や大型オートバイ、航空機用が主体だったが、ここに来て乗用車向け高性能ラジアルタイヤでの採用が進み高速操縦性や静粛性面で大いに寄与している。航空機用も次世代型の登場で、さらなる拡大を見込める情勢になってきた。

 タイヤコードに次ぐ期待分野は構造物補強。これは「安全」を切り口にしたビジネスになる。ケブラーを一方向あるいは二方向に配列してシート状にし、これをエポキシ樹脂で含浸させながらコンクリート構造物に貼付すると、鋼板と同様の補強効果を発揮する。同社では96年に業界各社と共同でアラミド補強研究会を発足。その成果が実ってきた。

 3つ目は防護衣料。これも安全に連動したビジネスだ。ケブラーの強靱で耐熱性に優れる特徴を生かした用途展開で、手袋はその一つ。ケブラーは高価格ながら、綿や皮製に比べて耐切創性が高く、それが高く評価され、自動車の組み立てラインやガラス、食品加工などに広がりを見せる。

 こうした環境・安全に直結するケブラーだが、同社では2004年、新事業推進室を設置し、環境に優しい機能性複合材=「FUNCOM(ファンクショナル・コンポジット・マテリアル)」をコンセプトにした技術開発も行う。

 そこにもケブラーがかかわる。従来からの吸音不織布「RUBA(ルーバ)」に加え、新たに同新事業推進室ではケブラーによるコンポジットの開発にも取り組む。経済産業省による戦略的基盤技術高度化支援事業に採択されたもので、テーマは「自動車向け近赤外線照射対応アラミド等基布製造技術及び熱可塑性樹脂積層体製造技術の開発」。

 耐衝撃性の低さから特殊用途に限定されている炭素繊維複合材料の弱点をカバーするものだ。これも環境ビジネスの一つになる。

 誕生から42年。国内生産を開始して16年。ケブラーは新たなステージに入ろうとしている。