安全・安心機能繊維特集/人を守る防炎・難燃素材

2007年08月31日 (金曜日)

高齢化社会に必要不可欠

 「安全で安心な社会生活」を過ごすうえで、機能繊維の貢献度は少なくない。自然災害や火災、不慮の事故などで多くの人命が失われるなかで、被害を最小限に抑えることに、繊維素材は大きく寄与できる。防炎・難燃素材は、その代表格の一つといえる。火災で最も多い死者は逃げ遅れによるもの。避難できる時間を少しでも長くするうえで、防炎・難燃素材が活躍できる。炎に接する作業現場では、防炎・難燃素材の着用が事故の発生も抑える。繊維の力は大きい。

 (注)LOI値(限界酸素指数)=燃焼に必要な酸素濃度。通常、大気中の酸素濃度は約20%なので、LOI値20の繊維は、大気中で燃焼し続けることになる。LOI値26~27の繊維を難燃繊維と呼ぶ。

ダイワボウノイ「ダイワボウプロバン」/綿100%の難燃素材

 ダイワボウノイの防炎加工「ダイワボウプロバン」は、工場・外食関係者、一般消費者への難燃素材への認知度を高め、安心・安全な職場環境や家庭環境作りを応援。ワーキングウエアから派生して前掛け、タオル、カーテン、シーツ向けなども展開している。

 ダイワボウプロバンは火がついても炭化して自己消化するのが特徴。綿繊維を難燃剤がすっぽりと包んでいる。火に遭うと難燃剤が分解し、コットンの分解を遅らせるほか、難燃剤は分解すると五酸化リンを作り、綿繊維を脱水して炭化。五酸化リンは炭化した綿繊維を覆い、酸素を遮断するため、燃え広がらないという仕組みだ。

 また、ポリエステルのように溶け落ちて、肌に付着しやけどすることもない。後加工のため汎用性にも優れる。綿100%の難燃素材であるため、コットンが持つソフトな風合いや吸汗性も兼ね備え、帯電性が低く、静電気の発生もほとんどない。

 同社グループでは、ダイワボウポリテックもオレフィン樹脂に難燃剤を練り込んだ難燃ポリプロシート(輸送機用、店舗用シート)や、空調フィルター向けのノンハロゲン難燃オレフィン繊維「ミラクルファイバー(FG)シリーズ」をラインアップする。

クラボウ「ブレバノ」/難燃性と着心地両立

 クラボウは防炎素材「ブレバノ」を、ワーキングでは消防用だけでなく一般企業向け、寝装では病院向けだけでなくホテル向けなどでの拡販を狙う。

 「ブレバノ」は難燃性に優れるモダクリル繊維「プロテックス」と綿の混紡素材。高い防炎性能を有するとともに、綿が持つ吸水性や快適な着心地感を持つ点が特徴だ。火に触れても燃え広がらず、素材自体が自己消火する。着火した場合は「プロテックス」が燃えずに炭化すると同時に不燃性物質が発生する。それが綿を炭化させて燃焼スピードを抑える。そして炭化したプロテックスが綿の表面を覆って空気を遮断し、自己消火するという。難燃性を表すLOI値(限界酸素指数)は29~32。素材難燃のため、洗濯による機能低下の心配もない。抗ピリング性や発色性などにも優れる。

 販売量はこの5年間で2倍に拡大した。ワーキングユニフォーム分野では、とくにここ4~5年で引き合いが増えている。寝装分野でも販売量は安定しており、今後は主力の病院向けだけでなく、ホテル向けなど新たな用途への提案を進めることで拡販を見込む。

 ワーキングユニフォーム分野では、防炎機能と制電機能を併せ持つ「ブレバノ プラス」を中心に展開。制電機能を兼ね備えることで静電気による発火を未然に防ぐほか、肌にまとわりつかない快適な着心地を実現する。未利用綿を使用した環境配慮型素材「ブレバノ エコ」は「エコマーク」に対応する他に例のない難燃素材だ。

ダイワボウレーヨン「FRコロナ」/全米規制で需要急増

 今年7月、全米で施行されたベッドマットの防炎規制「TB603」。もともとは2005年1月からカリフォルニア州の規制としてスタートしたが、これが全米に広がったもの。この規制をクリアするために、ベッドマットは新たな防炎性が求められた。これに対応したのがベッドマットのウレタンと側地の間に防炎レーヨン短繊維を使った不織布を挟み込んだもの。

 その防炎レーヨン短繊維で先行するのがダイワボウレーヨンの「FRコロナ」。FRコロナは無機物を練り込んだレーヨンで、燃焼しても無機物が骨格として残るため、炎により穴が開かないのが特徴。穴が開かないためウレタンに引火せず、延焼を防ぐというわけだ。

 全米規制の施行に伴い需要が急増。これに対応するため、同社では設備改造を行った。従来、FRコロナは1系列しか生産できなかったが、残る2系列でも可能となるように改造した。

 しかし、世界的なレーヨン短繊維ブームもあって、現在は月500~600トンしか供給できない状態にある。引き合いはその倍以上もある。

 また、「FRコロナ」の進化版である「FRXコロナ」も開発中だ。既存のFRコロナは洗濯耐久性不要ながら、将来的に規制内容がさらに強化される動きもあるため、洗濯耐久性を有する新タイプの開発を進めているもので、ほぼ完成に近いという。

カネカ「プロテックス」/複合素材で効果向上

 カネカのモダクリル繊維「プロテックス」は、100%使いだけでなく綿やレーヨンなどセルロース系繊維と混紡することで難燃性が若干向上するといった特性を生かし、衣料用途で高い評価を得る。他の難燃性高機能繊維と比較した際の圧倒的なコストパフォーマンスも魅力だ。

 プロテックスの最大の特徴は、その汎用性の高さだ。とくにセルロース系繊維との相性の良さが光る。例えば同社のデータによると、プロテックス100%の場合、LOI値(限界酸素指数)は34だが、綿と混紡すると混率50%で35~36まで上昇することが明らかになった。これは、難燃ポリエステルが100%でLOI値33のものが綿20%混率で22まで落ちることと比較すると、その性能差は歴然だ。

 混紡で大きな力を発揮する特徴を生かし、作業服など衣料用途での需要が高まる。直接肌に触れる分野では、綿やレーヨンと混紡することによる風合いの良さが生きるからだ。同様の理由で、耐熱防火服の裏地などでも活躍する。

 もう一つの特徴は、コストパフォーマンス性の良さ。アラミド繊維など高機能繊維と比較すると、耐熱性では劣るものの、価格面で圧倒的な強みがある。このため、アラミド繊維ほどの高機能を必要とせず、同時に後加工と違い、素材自体の難燃性を求めるユーザーにとっては、最適な素材となる。

 現在、米国では寝具や子供服分野で難燃基準が強化されつつある。このため同社では、主に米国基準に合わせた原綿改良も進めており、耐熱性や強度の向上を目指して開発を進める。また米国の難燃基準強化は今後、日本にも波及する可能性があるだけに、プロテックスの活躍の場は、ますます広がりそうだ。