レーヨン長繊維/存亡かけた正念場へ
2000年05月31日 (水曜日)
クラレが来年三月末でレーヨン長繊維事業(年産能力約一万トン、九九年度実績約七千トン)を撤収することを決めた。六〇年には業界全体で年間十一万五千トンが生産され、戦後の繊維産業成長のけん引役を務めた同繊維だが、六三年東レ、七一年帝人・東洋紡、九四年ユニチカと撤退が相次ぎ、残るは旭化成工業一社となる。旭化成も今年三月末で設備能力を年産約一万トンに半減している。素材間競合に勝てず、世界的にも需要減少が続く中、小型繊維として生き残りを図る。
「ポリエステルがあれだけ安くなると、とても太刀打ちできない。将来的にも事業採算が見いだせないと判断した」。松尾博人クラレ社長は撤収の理由をこう語る。
クラレの撤収と旭化成の設備半減で国内の供給能力は三分の一になる。クラレからOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受けていたユニチカファイバーもテキスタイル販売から手を引く。〝残存者利益〟を享受できるはずの旭化成だが、「プラスかマイナスかと問われればプラスなんだが…」と勝山繁雄副社長には手放しで喜ぶそぶりが見えない。「ポリエステルは品質が上がり、価格は下がる。この格差は大きい。レーヨンの素材としての特長を前面に打ち出せるかどうかに掛かっている」からだ。
国内の市中相場は、84T(75D)のポリエステル糸が一キロ三百円弱、レーヨンの中心銘柄である133Tは九百円前後。糸段階で三倍の価格差に見合う商品価値をユーザーから認められればならないのだが、そううまくいかないのが実態。
国内で生産されるレーヨン長繊維は、輸出・国内向けが四対六、国内向けの衣料・非衣料がほぼ半々という需要構造になっている。
衣料用途の場合、裏地では頂点素材のキュプラを別格にして、かつてレーヨンが一定のシェアを持っていた中級ゾーンは差別化ポリエステルにほぼ席けんされた。婦人アウターでも「フェミニン」の流れからシルキータイプのポリエステル長繊維織物に脚光が当たっているが、〝元祖シルキー〟のレーヨン100%では物性面を含めて勝負にならず、複合相手として、部分的に使われるにとどまっている。
非衣料も資材、金銀糸、ネームリボンなど伝統分野が主力で将来性は乏しい。輸出も円高などの影響で減少傾向が続く。
クラレの場合、西条工場での生産を停止し、年間能力一万トンに縮小した効果で九五、九六年度は黒字を確保したが、九七年度は収支トントンになり、九八、九九年度は赤字。「赤字は若干だが、将来黒字にする展望が見いだせなかった」(松尾社長)という。
旭化成も九九年度は赤字だが、衣料用途に向けモノフィラメントタイプの新原糸を投入し、織物では防縮・防シワ性を付与する「TWIN加工」の対象を拡大。原糸輸出は主力市場の韓国などでユーザーに技術指導し、ライバルの中国、ロシア糸では品質的に不可能な高感度テキスタイル分野での需要を確保する考え。
キュプラ、トリアセテートのように、希少繊維として生き残れるか、レーヨンにとって存亡をかけた正念場はこれからだ。