商社のアパレルビジネス/〝モノ作り〝に懸ける
2000年08月03日 (木曜日)
大手商社繊維部門はアパレルビジネスの強化に向けて、商品企画から素材提案、そして生産・物流まで請け負う体制の強化に取り組んでいる。既存取引先であるアパレルがSPA(製造小売り)化に走り、モノ作り機能のアウトソーシングが進展してきたうえに、専門店チェーンなど小売り業態との取り組みが深まるにつれ、その受け皿としてモノ作り機能の強化が商社にとって避けられない課題となってきたためだ。(1)機能分社と一体運営(2)子会社が変身(3)一気の分社化――という三つに分けて、アパレルビジネスにおける取組強化の実情をレポートする。
商社が子会社を含めてこの種の機能補完会社との一体運営や分社化を進める背景には、アパレル対応が依然労働集約型であることがぬぐえず、商社本体の高コスト体質では顧客対応が困難という構造問題がある。
それと同時に(1)アパレルのSPA化が進み、アパレルは販売を強く志向し、生産など後方支援業務を商社に丸投げする傾向が強まった(2)専門店チェーンなど新業態の成長とともに同業態との取り組みが深まり、小売店が弱点とするモノ作りを商社が担う形が一般化した――ことなどが挙げられる。
しかも、「従来の単純なOEMだけでは商社の存在をも否定されかねない」(国嶋信裕住金物産取締役)との危機感も強い。その住金物産は今年四月、トレンドや需要予測からスタートし、企画提案、バルク生産まで担うアパレル企画生産会社「ファッションネット」を全額出資で設立した。
ファッションネットは元々別の名称でアパレル業態の会社だった。それを業態転換したものだが、同社の社長を兼ねる国嶋氏は「(住金物産)本体でもかなりキメ細かく最終製品企画までフォローしているが、トレンドや需要を予測し何から何までとなると限界がある」と悩みを隠さない。この弱点を補うファッションネットの機能に〝二十一世紀の商社像〟を見ている。
また、伊藤忠商事の子会社で、素材から二次製品までを扱う小型商社の性質を持っていた伊藤忠モードパルもアパレル企画生産会社に業態転換した会社の一つだ。対SPA(型アパレルを含む)に的を絞り、「企画から素材提案、製品組み立てまでの攻めのOEM」(宮脇俊夫社長)をコンセプトに置く。
そして、アパレルビジネスのこうした性質から、さらに一歩踏み込んで衣料部門を分社するケースが増えてきた。その草分けでニチメンのアパレル分社であるニチメンプルミエは、「分社によるデメリットはほとんど感じない。逆にリスク判断を含めた即断即決のスピード経営が増した」(浜田誠紀社長)と評価する。
新業態が次々と登場するアパレル市場は、商社にキメ細かな対応とスピードを要求する。小売市場の激戦はアパレルの〝店頭重視〟を促し、生産・物流など後方を担う存在に対するニーズは高まる。しかも、なまじっかでは売れない時代だけに的確な企画、生産を要求される。機能補完的役割を果たすこうした企業や一段の〝専門商社化〟が商社に求められる。
「機能分社と一体経営」の事例をみると、三菱商事とトリフォーレ、トーメンとトーメンホットラインの関係が分かりやすい。
三菱商事の古田正信繊維本部長は「恵比寿に(アパレル部の一部を)移してホントによかった」と振り返る。同社は昨年四月にアパレル部のSPAなど新業態向けを担当するスタッフを〝固いイメージ〟が残る丸の内本社から周辺にアパレル企業などが集まるJR恵比寿駅ビルに移して「恵比寿分室」を設けた。
同時にアパレル部の機能補完子会社でモノ作りに関するスタッフをそろえた「トリフォーレ」も同分室に集結させ、本社と子会社が役割分担しながら足並みをそろえて顧客に対応する体制を建物ごと敷いた。
トリフォーレはデザイナーやパタンナー、素材や縫製の分かるスタッフなど生産ソフトの拠点として設立され、その後、アパレルや商社に勤務していたスタッフを業務委託などの形で契約して陣容を拡充、スタッフは百人を超える。現在では本社が与信や物流などの商社が持つ「総合力」、実際の「モノ作り」はトリフォーレという役割分担の体制を確立した。
東京に続き大阪、名古屋でも〝ホットライン化〟を進めたのがトーメンだ。衣料本部のモノ作り機能補完会社である「トーメンホットライン東京」(スタッフ八十人)、「同大阪」(同八十三人)に実働スタッフを実質的に移し、本部とホットラインが表裏一体でアパレルに対応する形を今年四月から敷いた。
ホットライン東京は「営業一部」「物流部」の組織に加え、トーメン東京衣料部の別働隊である「営業二部」が組織化され、これら組織が混ぜん一体となってアパレルに対応する。ホットライン大阪も「営業第一部」「同第二部」「同第三部」とトーメン大阪衣料部が連携する。この四月には名古屋繊維部でもホットライン大阪の名古屋支店の形で本体とホットラインが一体となって顧客に対応する形を敷いた。
この機能分社との一体運営で、キメ細かな顧客対応を実現するとともに、低コストオペレーションを追求する。その一環として、量販アパレルと連携して百貨店、専門店チェーン市場を攻める「リテールチーム」(仮称)を構想。今秋までに新設できるよう準備を進める。
また、パートナーである企画会社と共同で、衣料本部が蓄積した企画機能、素材提案力を問う初の「内会見」を七月中旬に東京本社で開いた。対象は今秋冬物で、婦人のカジュアルからミセスまで幅広い。
大島新平トーメン執行役員衣料本部長は「小売店との取り組みが増えると、商品企画から一切合切任せられることが多くなる。その時に本体スタッフだけではその任務に応じることは物理的に困難。一体となって動ける組織が不可欠」と指摘し、ホットラインの役割の重要さを強調する。
「子会社が変身」する事例では、住金物産の全額出資子会社でアパレルの企画生産会社のファッションネット(東京都港区)がある。同社はアパレルメーカーや専門店チェーンの商品企画や生産をサポートするアパレル商社だ。親会社の住金物産が持つ素材調達、生産などの商社機能をフルに活用し、情報力・企画力・生産力を一元化し、一貫したシステムで客先のニーズにこたえる、というのがコンセプトとなる。
設立は今年四月三日。住金物産の子会社だった旧リズバーンのスタッフを軸に、一年の準備期間を経て人員を拡充してスタートした。プランニング、プロダクション、セールスの各ユニットで構成。デザイナーを含めて総勢二十六人の体制だが、年内にさらに五~十人増やす計画だ。
キーワードは「読む=情報力」「創る=企画力」「造る=生産力」。売り場から素材までの情報収集と分析、それに即したリスク回避の商品企画提案、そしてサンプルからバルクまでの生産を住金物産との連動で行う。
開業以来、大手アパレル、専門店チェーンからのアウトソーシングのニーズが高まり、予想以上の実績を上げてきた。また、将来的にはインターネット上で会員向けの情報提供ビジネスを手掛ける構想もある。
ファッションネットは基本的に布帛とカットソーの取り扱いに特化する。横編みについては本社に企画から素材調達、生産までのノウハウがあるためだ。また、商品も二十~三十歳の婦人物に集中させる。
順調なスタートを切り、初年度年商は当初見込みの二十億円から、約三十億円に上方修正した。大手通販の企画を全面的に引き受けるなど、多くの東京アパレルの企画・生産を手掛けてきたノウハウが買われている。
伊藤忠モードパル(本社・東京都中央区)も変身会社の一つだ。対SPA向けアパレル製品供給で企画・素材提案を強化する一方、保有するキャラクター商品を中心に、小売直販ルートの開発を本格化している。
小型の商社だった同社は原糸販売からユニフォーム、学販衣料、カジュアルまで手掛けていたが、赤字体質から抜け切れず、九九年四月に本社を東京へ移転すると同時にSPA向けで評価されていた「カジュアル」に的を絞るなど取扱内容を一新した。
現在はフランドル、ワールド、イトキン、アトリエサブなど有力SPA型アパレル向けに、婦人布帛製品を主体にOEM供給する業態に転換、年商百二十億~百三十億円規模の取り扱いとなった。
社員は営業・生産管理を中心とする五十二人と縫製工場の宮城工場五十人を合わせ百人強。布帛九〇%、婦人物八五%の構成で国内生産一〇〇%の体制でクイック生産を売り物にアパレル商社としての機能充実に取り組んでいる。
二〇〇二年度に向けて、同社は(1)独自の企画・素材提案力の強化(2)小売直販ルートの開発――に取り組み、年商百五十億円、経常利益三億円を計画する。単純なOEMからの脱却を目指す「攻めのOEM」(宮脇社長)を志向する。また、所有する「ポパイ」「鉄腕アトム」などのキャラクター版権を活用した小売店向けの企画製造・直販を強化、百貨店PBを含めた流通開発に取り組む。
一方、国内生産を主力にしながらも中国など海外生産拠点の開発に着手、昨年十月に専任チームを発足させるなど体制整備を急ぐ。宮脇社長は「ニットは親会社の伊藤忠・ファッション事業部がノウハウを蓄積しており、当社の布帛での強みとを合わせ、連携しながら顧客対応を進める」と話す。
昨年四月に丸紅の子会社二社が合併して生まれた丸紅ファッションリンク(本社・東京都中央区、多田英紀社長)は旧丸紅アパレルの流れを引き、その伝統を引き継いでいる。商権の入れ替えを進めて素材からの企画提案型ビジネスを強化、今期は前三月期比横ばいの三百億円の売り上げを見込む。
同社は丸紅繊維部門の事業会社統合方針の一環として、丸紅アパレルと丸紅テックスプラニングが合併して誕生。従業員は約百十人。婦人服五〇%、メンズ四〇%、子供服一〇%の比率でアパレルメーカー、専門店チェーン向けに中級以上の衣料製品のOEMを手掛ける。
統合時、両社の年商合計は三百三十億円だったが、前期は三百億円の売り上げにとどまった。これは「利益率の低い商いや将来性に乏しい商権からの撤退を意識的に進めた」(多田社長)ことが主因。しかし、並行して進めてきた専門店チェーンなど新規商権の開拓が実り、計画していた売り上げより十億円超過達成することができた。
今期も引き続き商権の入れ替えを進める。売り上げこそ横ばいの計画だが、三十億円規模の商権整理と同規模の新規商権獲得を見込む。すでにジーンズ専門店チェーンやSPA型アパレルなどとの取り組みが軌道に乗り、「利益率などの中身は合併以前より格段に改善した」(同)としている。
営業面では、とくに素材からの提案に力を注ぐ。尾州産地のウール、麻織物、東京・両国、和歌山のジャージなどの産地素材や生地コンバーターとの取り組みによる素材提案から始まる企画提案型ビジネスの拡大で、利益率を一段と向上させる。
これは小売りチェーンとの取り組みが深まる中で、商品企画や素材の企画・調達まで依頼されるケースが増えているためで、「商品企画と素材提案、バルク生産までをセットにした攻めのOEM」(同)を進める。
「一気に分社化」した事例では、ニチメンプルミエが草分けだろう。浜田誠紀社長は「自らは『商社』とは思っていない」と強調する。生産を主体とした企画提案・生産フォロー一体型の企業を目指している。
同社はニチメン衣料部門の衣料生産管理会社としてスタートした。その後、ニチメンの分社方針に沿って同社衣料部門から人員・商権を受け入れ、現在社員は七十五人。躍進するカジュアル専門店チェーンのパンツ、Tシャツ生産などを引き受け、増収ペースを維持している。
一般的に言えば「アパレル商社」だが、商社というより製造業に近い体質を持つ。「在庫は持たないが、素材提案・調達は場合によっては綿花からスタートする」(浜田社長)のが特徴だ。
このように「機能分社」「子会社と連携」「分社」といういろんな形態を駆使しながら商社のアパレルビジネスは変化し、二十一世紀の新たな商社像の模索が続く。