産資・不織布通信Vol.13/炭素繊維 増設ラッシュ

2007年10月19日 (金曜日)

2010年には需要4万トン超え

 日本の東レ、帝人(東邦テナックス)、三菱レイヨンのPAN系炭素繊維大手3社は今年も相次いで増設を発表した。増設工事中に次の段階への拡大を表明するなど、今や3社にとっては重点事業の一つになっている。東邦テナックスによると、炭素繊維は2005年から2010年まで年率15%前後の高成長を維持すると見ており、10年の総需要は4万トンを突破、東レでは4万5500トンと予想する。炭素繊維の勢いは止まりそうにない。

過去の不況乗り越え絶好調

 炭素繊維はPAN系とピッチ系の2種類があり、東レ、東邦テナックス、三菱レイヨンが製造販売するのはPAN系の炭素繊維。PAN(ポリアクリロニトリル)系は特殊なアクリル長繊維(プリカーサー)を焼成して製造する。フィラメント数が少ない(2万4000以下)ものをレギュラートウ、多いもの(4万本以上)をラージトウと呼ぶ。炭素繊維は引っ張り強度、同弾性率が高く、疲労特性、磨耗特性に優れるほか、寸法安定性、電磁波シールド性、X線透過性に優れる高機能繊維の一つだ。単独で製品になることはなくマトリックス樹脂と組み合わせたコンポジット(複合材料)製品になる。樹脂を含浸させたシートをプリプレグと呼ぶ。

 需要増を背景に各社の増設が止まらない(ちなみに炭素繊維の生産能力は焼成能力で、原料であるプリカーサーは炭化するため、焼成能力の2倍が必要になる)。

東レ名古屋事業場を機能転換/車、航空機分野の中核工場へ

 東レは先ごろ、名古屋事業場を自動車・航空機分野向けの中核工場として機能転換を図る方針を発表。2010年までに約200億円を投じるが、その中核素材が炭素繊維複合材料になる。同社の炭素繊維の年産は現在、国内の愛媛工場(愛媛県伊予郡)に6900トン、米国子会社のトーレ・カーボン・ファイバーズ・アメリカ(CFA)に3600トン、仏ソフィカールに3400トンの計1万3900トンだが、これを09年には約3割増の1万7900トンに拡大する計画だ。

 同社の特徴は米国でプリカーサーを製造している点と、プリプレグやコンポジット製品などの比率が高い点。プリプレグは現在、国内外で2800万平方メートルの規模を持つが、09年には2割増の3380万平方メートルに拡大する。米国子会社のトーレ・コンポジット・アメリカ(TCA)はすでに完了したが、同規模の設備を日本の石川工場に新設する。

東邦テナックス独増設で1万3500トン体制へ

 東邦テナックスは昨秋、独子会社のトウホウ・テナックス・ヨーロッパ(TTE)で年産1500トンの増設を完了、国内では08年春に、三島事業所で2700トンの増設工事中だが、今月、09年8月稼働を目指し、TTEで1700トンの増設を発表した。

 現状に比べると国内は7割増、独は5割増になる。東レに次ぐ世界第2位の規模を持つ同社の課題は複合材料事業の比率が低い点。業界推定では東レは5割、三菱レイヨンは8割がプリプレグやコンポジットなどの加工品だが、同社は2割といわれる。このため、昨年10月には複合材料事業部門を新設し、プリプレグやコンポジット開発を強化する。

三菱レ大竹事業所/初の焼成工場を建設

 三菱レイヨンは今春、豊橋事業所(愛知県豊橋市)に年産2200トンの増設を完了したばかりだが、09年秋をめどにプリカーサーを製造する大竹事業所(広島県大竹市)に2700トンの新系列を導入することを発表した。同社の炭素繊維の焼成は豊橋事業所、プリカーサーは原料であるアクリロニトリルやアクリル繊維を製造する大竹事業所と分けていた。今回初めて大竹事業所で焼成するのはリスク分散、物流の効率化に加え、将来の増設を見据えた基盤構築も狙いとしている。

 東レ、東邦テナックスともプリカーサーの方がアクリル短繊維の規模よりも大きいが、三菱レイヨンはアクリル繊維の規模が中国子会社を含めプリカーサーの10倍もある点が大きな違い。コスト競争力という面では強さがある。また、航空機向けが少ないのも同社の特徴といえる。

不織布列伝/宇部日東化成 技術で差別化し構造転換

 夢の繊維と呼ばれたポリプロピレン繊維。比重が0・91と繊維のなかで最も小さいが、染色が困難で吸湿性がなく、耐熱性が低いなどの弱点があるため、衣料用はほとんどなく、産業資材用が大半を占める合成繊維だ。とくに、ポリプロピレン短繊維は不織布に欠かせない。日本化学繊維協会によると、2006年のポリプロピレン短繊維生産量は0・3%増の5万4300トン、これはビニロン短繊維よりも多い。

 ポリプロピレン短繊維はチッソ(販売はESファイバービジョンズ)、宇部日東化成、ダイワボウポリテック、トーア紡マテリアルなど大手合繊メーカー以外が製造販売する。その一社である宇部日東化成は1966年、宇部興産と日東紡績との合弁会社として設立され、2003年、宇部興産の完全子会社になった。

 そのポリプロピレン繊維事業の構造転換が進んでいる。ポリプロピレン短繊維の主力は衛生材料用サーマルボンド不織布(TB)。04年以降、価格上昇が続くポリプロピレン樹脂を原料とするポリプロピレン短繊維の収益力は低下。ポリプロピレンスパンボンド不織布(SB)との競合も加わり、販売量も落ち込む。

 こうしたなかで、同社は原着わたの設備休止(トーア紡マテリアルへの委託生産に切り替え)など徹底したコスト削減を実施。それでも原料高を吸収しきれないものは値上げを実施した。「どうしても継続できない陥没価格品は販売量が減っても仕方がない」(福光俊夫執行役員機能繊維事業部長)など採算重視の姿勢を強める。

 その結果、今上期は量も減らず、陥没価格の是正もあって何とか利益を乗せられる段階にきた。福光執行役員は「これまではコスト削減など守り一辺倒だった。これから攻めに入りたい」と述べ、技術力で差別化した開発品で、事業構造改革を加速させる考えを示す。すでに、電池セパレーターなど向けの高強力タイプ「シムテックス」やコンクリート補強用十字断面の「シムロック」、複合繊維技術を活用したオイルレス繊維(不織布製造工程で油剤がなくなる)なども生み出し、軌道に乗り始めた。

 紙おむつ、生理用ナプキン用TB偏重型であった同社の事業構造は着実に変わりつつあるのは確かだが、原料価格は依然として上昇傾向。楽観視はしていない。

情報館/不織布生産・過去最高更新は確実だが

 日本の不織布生産量は伸びている。経済産業省の繊維・生活用品統計月報によると、2007年1~8月累計で3%増の22万2827トンを記録し、過去最高となった06年を上回る公算が大きい。

 一般紙が取り上げるほど注目され始めている。確かに同統計での生産量は34カ月連続の増産で、年間では4年連続で前年を上回るが、この間に対象事業所の見直しが行われているのも事実。同月報にも明記されているが、不織布の対象事業所は増えており、07年は前年実績に1・026を乗じたうえで比較するのが正確だ。

 そうみると、実質の総生産量は2・5%減。19%減のケミカルボンドは23%増、3倍増のその他乾式不織布は2割増、2割増の湿式不織布は0・8%減。表面上の数値だけで判断すると見誤る可能性がある。

クラレ「クラロンEC」/新製法の導電繊維

 クラレが先ごろ開発した「クラロンEC」は、既存品とは全く異なる製法による高導電性ビニロン繊維だ。

 導電性繊維は通常、カーボン粒子の練り込みや繊維表面を金属メッキするのが主流。クラロンECは紡糸後の原糸に約10ナノメートルサイズの硫化銅微粒子溶液を繊維内部に浸透させる新たな手法。練り込みに比べて少量の金属粒子で同レベルの導電性能が得られるという。

 また、延伸倍率による導電性制御が可能。延伸倍率を高めると比例関数的に電気抵抗値を大きくすることができるため、用途に応じた最適の導電性が得られるほか、金属メッキ繊維のように屈曲や磨耗、腐食によってメッキ層が破壊され導電性能が低下することもない。

 品種は長繊維とショートカットファイバー。電磁波吸収材や電磁波シールド材、センサー・スイッチ材、面状発熱体などの用途でマーケティング活動を進める。現在は試験設備だが、量産後の糸値は1キロ当たり5000~1万円。