トップインタビュー/クラレトレーディング 社長・木村哲三氏

2007年10月31日 (水曜日)

クラベラ素材開発を強化

 クラレトレーディングの木村哲三社長は「素材開発の強化」を課題に挙げる。同社はクラレグループの商事会社である一方で、クラレからポリエステル「クラベラ」関連事業を移管されており、合繊メーカー的な側面も有している。「二次製品事業が拡大すると素材開発がおろそかになりがちになる」として、ポリエステル事業は原糸、テキスタイル開発に重点を置き、それを二次製品と連動した形で運営する考えを改めて示す。

二次製品と一貫体制が奏功

  ――今上期の繊維市況を振り返ってください。

 衣料消費が低調なため、依然として厳しい環境が続いています。しかも、原燃料高、中国縫製のコスト上昇など製造コストのアップは尋常ではありません。これを各段階がいかに転嫁するかは切実な問題です。

  ――そのなかで上期の業績見通しは。

 ほぼ計画通りです。衣料は婦人服地の低迷に変わりはありませんが、スポーツウエア、ユニフォームで製品化を進めたことが奏功し、目標通りに着地できる見通しです。

 ただ、コスト上昇分の価格転嫁は今後の大きな課題です。下期に向けては原料だけでなく、染色加工料金も上昇しており、生地の収益を圧迫しています。

 製品も海外縫製のコストが上昇していますので、糸だけでなく、生地、製品でも新たな契約分については値上げなど様々な対応策を講じていきます。

  ――値上げ以外で下期以降の課題は何ですか。

 クラレの戦略に連動したクラレ商材の拡販や付加価値化を推進しますが、一方で繊維では自販の核であるクラベラ関連事業の拡大も図ります。

 クラベラ関連事業は2002年にクラレから原糸・テキスタイル事業を移管され、製品までの一貫体制で運営していますが、業績は順調です。クラベラ関連事業の今後の課題は、素材開発の強化と有力顧客とのコラボレーション推進、二次製品対応の強化、資材の拡大などです。

 二次製品事業が拡大すると、どうしても素材開発がおろそかになりがちです。ただ、クラベラ関連事業の基本は素材開発です。引き続き高機能、高付加価値の原糸・生地開発に取り組みます。

 原糸では制電糸「クラカーボ」など機能糸の販売を本格化する一方、テキスタイルは独自素材で深耕し、国内アパレルとの取り組みを通じて二次製品化、海外展開を推進していきます。資材は新用途探索に向けた新素材開発が課題ですね。

  ――有力顧客とのコラボレーションとは。

 当社は良い顧客を持っていますが、そことは「取引」ではなく「取り組み」への方針で臨んでいます。特化した用途で、顧客と共同で素材開発を進めて密着型ビジネスをより徹底していく考えです。

  ――二次製品対応はユニフォーム、スポーツが主力ですね。

 06年度は600万点(80億円)の実績でしたが、07年度は650万~700万点(90億円)を計画しています。08年度は750万点が目標です。

 これに対応して、この2年間で縫製拠点の適地生産体制を整備します。06年度までは中国、ベトナム、インドネシア、日本で生産していましたが、06年末にインドネシアの縫製は撤退しました。一方で、07年度からミャンマーでトライアルを始めました。カントリーリスクはありましたが、やってみないと分かりませんので、小規模ですが拠点を確保しました。

 その他、中国の縫製子会社である南通可楽托蕾服装はサテライトにして湾岸部から遠隔地域の協力工場を探索するほか、ベトナムでも新たな外注拠点を探します。

  ――婦人服地の戦略は。

 トレンドが異なる状況で無理に手掛ける必要はありません。当社としては流行に左右されず、安定したブラックをはじめとするフォーマルに力を入れています。

  ――クラベラ関連の資材展開についてはいかがですか。

 独自機能素材の拡大に注力します。用途別に顧客との共同開発を推進しますが、国内生産をベースに高い開発力・技術力・品質管理力を持つプロダクションチームと連携しての対応が重要です。スペック商いですから仕組みがしっかりしていないと深堀りや新用途を開拓できません。

心に残る“昭和”の風景/三丁目の夕日で自戒

 娘さんに「ALWAYS 3丁目の夕日」のノベライズを薦められて読んだ。昭和33年という時代背景は木村さんにとって、中学生時代に当たる。読みながら当時を思い出すとともに「今、新聞の社会面をにぎわせる事件は常識で考えられないもの。あの時代の失ってはいけない大切なものはどこへいったのか」とため息が出る。漫画から映画、そしてノベライズされて広がるのは共感する人が多いからだろうが「昭和の風景の一こまを懐かしがってばかりはいられない」と自戒する。

(きむら・てつぞう)

1970年クラレ入社。93年クラレトレーディング出向、99年クラレ取締役、2003年常務。05年からクラレトレーディング社長。