繊維機械最新情報/ポバール 旺盛な需要続く

2007年11月28日 (水曜日)

ポバール/今年、過去最高の出荷

 ポバール(ポリビニルアルコール)の今年の出荷高が過去最高を更新する見通しとなった。日本酢ビ・ポバール工業会がまとめた1~9月のポバール出荷は17万9639トンで、前年同月を10%上回った(表参照)。ポバールの需要は日本経済の景気回復に伴い、年々増加する傾向にあったが、今年は東南アジアやインド、パキスタンを中心とした輸出が19%増の6万4000トンと急増。好調な国内消費とともに、前年の実績を大きく押し上げる要因となった。

 ポバールの出荷が最も多かったのは1997年で、22万8933トンに達した。今年は9月以降も国内、輸出ともに旺盛な引き合いが続いており、ポバールメーカーでは最終的には23万5000トン前後に達すると見ている。

 輸出の好調は、繊維や接着剤分野を中心にアジアのポバール需要が高まっているほか、米国や英国のポバールメーカーのプラントトラブルなどで、世界のポバール供給が細った事情がある。プラント計画が相次いでいた中国も環境問題から、建設中止や操業停止に追い込まれるメーカーが増加し、生産は減少に転じた。

 国内向けは、アスベスト代替として需要が高まっているビニロンが好調を持続しているのをはじめ、一般市販用では自動車のフロントガラスなどに使われるブチラール樹脂、偏光膜用が依然拡大傾向にある。

 1~9月の実績では、減少の一途にあった繊維用も横ばいを維持している。海外生産品との差別化と、最近のファッショントレンドとの絡みで、国内の綿織物産地では細番手化、高密度化が進行。1メートル当たりのポバール使用量は増えているが、今年は織布部門から撤退する紡績や大手機業の廃業があり、サイジング糊剤としての国内消費は減っていると見られる。ポバールを主原料に配合糊剤を作り、東南アジアやインドに輸出する動きが強まっていることが減少を食い止めたようだ。

 ポバールメーカーは来年以降も旺盛な需要は続くと見ているが、問題は採算。原油価格の高騰以来、コストアップの転嫁が最重要課題となっており、今年もコストアップを理由に2回の値上げを行った。値上げ幅はいずれも1キロ20~25円。ユーザーの抵抗はあったが、コストアップによる採算難を訴えるとともに、旺盛な需要が支援材料となり、2回目の値上げもほぼメーカーの要求通り受け入れられた。

 しかし、原油、ナフサの高原相場が続き、酢ビモノマーメーカーが今年3回目の値上げに動き出したことで、ポバールメーカーにはまたコストアップ問題が重くのしかかる。一部のメーカーはすでに3回目の値上げを発表しており、他のメーカーもこれに追随することになりそうだ。

クラレ/今年3回目の値上げへ

 クラレポバール樹脂事業部は近く、今年3回目となるポバールの値上げに踏み切る考えだ。

 同事業部では今年、1キロ当たり25円の値上げを2回実施したが、酢ビモノマーメーカーが今年3回目の値上げを打ち出したことで、コストアップによる採算難懸念が再び強まっているためだ。

 服部次男ポバール販売部第1グループリーダーは今年2回の値上げにもかかわらず、コストアップを完全には吸収できていない現状を指摘。こうしたなかでの酢ビモノマーの再値上げは、ポバールメーカーの採算を再び大きく悪化させると強調する。酢ビモノマーの値上げ幅がメーカーによって異なっていることなどを考慮し、値上げ幅や時期は、今後の石油関連商品や市場の動向を見て決める。

 同社は日本のほか、シンガポール、ドイツでポバールの生産・販売拠点を構築しているが、旺盛な需要は各拠点ともに同様で、フル生産で引き合いに対応する。

 服部グループリーダーは、世界的に旺盛な需要は来年も継続すると見る。ポバール発展の背景となった用途開拓の進展が、かねてから検討課題となっていた増設を具体化する要因となりそうだ。

日本酢ビ・ポバール/来年度中に増設実施

 日本酢ビ・ポバールはユニチカのビニロン増産決定と、ポバールの旺盛な需要に対応し、来年度中にポバールの生産設備を増強する計画だ。

 辻本修介大阪営業グループ長・部長によると、同社のポバールは年初からフル生産を続けているにもかかわらず、国内外からの活発な引き合いで、在庫は低水準で推移。一部引き合いに応じられないケースも出ている。

 辻本グループ長はポバールの需給好調について欧米のポバールメーカーのプラント事故などで、世界的にポバールの供給が細ったことも影響していると見る。しかし、ポバールの需要が年々拡大傾向にあるうえ、最大生産国の中国で環境問題の高まりから、プラントの建設中止や稼働停止が相次いでおり、来年以降も需給バランスは堅調に推移すると予想する。

 増設の規模や時期は明らかにしていないが、増設計画の背景にはこうした判断がある。

 当面の課題はコストアップを転嫁する価格の改善となる。同社は今年に入って、2回の値上げを実施しているが、酢ビモノマーメーカーが今年3回目の値上げを打ち出したことで、コストアップ転嫁の値上げ問題が再浮上することとなった。すでに一部のメーカーは値上げに動き出しており、辻本グループ長はナフサなどの動向も見ながら、3回目の値上げに踏み切る考えを明らかにしている。