ビニロン増設相次ぐ/石綿代替として需要拡大

2007年12月20日 (木曜日)

 クラレ、ユニチカのビニロン2社が相次いで増設を発表した。アラミド繊維や炭素繊維など高機能繊維ならいざ知らず、縮小が続く日本における既存合繊の増設はほとんどない。そのなかでビニロンの増設は特筆できるだろう。両社の増設の背景はアスベスト(石綿)代替としてスレートなどのFRC(繊維補強セメント)需要の拡大によるもの。つまり、環境ビジネスそのものだ。

「環境」追い風に

 クラレは岡山事業所(岡山市)で、年産5000トンのビニロン新設備を導入し、年産4万トンに拡大する。稼働予定は2008年12月。ユニチカは坂越事業所(兵庫県赤穂市)で、年産3000トンの増設を行い、同年10月に1万3000トン体制とする。設備投資額は両社とも20億円。

 2社の増設は世界的な石綿使用規制の強化が背景にある。日本でも大きな問題となった石綿。安価で優れた特性を持つ一方、粉塵の吸入による疾病を引き起こす。その石綿代替として、FRC向けでビニロンの需要が拡大している。ビニロンのショートカットファイバーをセメントに混ぜて補強するもの。

 石綿代替のFRC用ビニロンの市場規模は年間4万トンと言われる。05年から欧州連合(EU)は石綿使用が禁止されているが、今年からタイでもスレート最大手のサイアム・ファイバー・セメントが自主規制に踏み切ったほか、石綿産出国のブラジルも禁止する方向にあると言う。

 クラレの天雲一裕執行役員繊維資材事業部長が言うように「法規制や自主規制がスタートすると石綿代替ビニロンの需要は階段上に増える」。それに加えて、今年は中国ビニロンが環境問題によって操業をストップ。「徐々に稼働し始めているが、それに伴う供給量の縮小と需要の拡大が相まって、需給タイトに陥った」とユニチカの荒木卓執行役員ビニロン事業部長は指摘する。

 両社の増設が完了する08年末までは現在のタイト状態が続くとの見方が支配的だが、中国ビニロンもいずれ通常操業に戻る。それを踏まえて、両社では中国品にはできない高強力タイプに重点を置く。今回の増設分も多くはこのタイプが占める。

 スレートというと、工場の屋根や壁材など殺風景なイメージを想像しがちだが、欧州では高級建材の一つで、耐久性をはじめ高性能が求められる。決して安くはない。しかも、今後、鉄板をはじめ他素材を代替する可能性もある。それに対応できるのは日本の2社しかないというのが両社の考えだ。

 こうした石綿代替ビニロンは25年近い歴史があり、環境ビジネスそのもの。しかも、クラレ、ユニチカにとって4割を占める主力用途でもある。リサイクル繊維や生分解性繊維、あるいはクールビズだけが繊維の環境ビジネスではない。