特集 抗ウイルス&花粉対策/“あの季節”がやってきた 機能素材で健康守る

2007年12月25日 (火曜日)

 今年も花粉症やインフルエンザ流行の季節がやってきた。国立感染症研究所のデータによると、今年は例年以上に流行の時期が早まりそうだ。鳥インフルエンザの脅威も高まる。そんな現代の強い味方が抗ウイルス素材や花粉対策素材である。今回の特集では、日本が誇る抗ウイルス&花粉対策素材と製品を紹介する。

日清紡「ガイアコット」/ゼオライト繊維内部で合成

 日清紡の「ガイアコット」は繊維の内部でゼオライトを合成した素材。ゼオライトが持つイオン交換能力を生かして銅イオンを導入し、高いレベルの消臭機能、広範囲の抗菌性、カビに対する抵抗性、優れた吸放湿性などの特徴を持つ。また、ウイルスに対する不活性化性も有する。

 ゼオライトは表面に微細な穴が規則的に空いている鉱物の一種。分子構造の透き間に水分、アンモニア・硫化水素といった悪臭物質などを吸着・保持する働きがある。これまではバインダーなどを使用して生地に付与するか、プラスチックに練り込むなどの手法が主流だったが、バインダーが吸着性を有する微細孔を埋めてしまうなどの理由で良好なデータを得ることが難しかった。

 ガイアコットはバインダーを使わず、原料となるアルミ、ケイ素、ナトリウムの水溶液をコットン内部に浸透させた後、一定条件下で結晶を生成させる。このため、高い水準の機能性を実現するとともに、機能の低下が起こりにくいという強みを有する。また、様々な基材に加工可能になったことで用途展開の可能性が広がった。ロットの成約も比較的小さく、1トン以下での対応が可能だという。

 今期からは「ガイアコット部」を新設。現在は鳥インフルエンザウイルスなど感染症に対する不活性化性能を生かして医療衛生分野で展開するほか、農業資材や工業資材なども視野に入れて商品開発、用途開拓を進めている。

ダイワボウポリテック「ゲルリリーフα」/接触1分で99・99%殺滅

 ダイワボウポリテックの抗ウイルス不織布「ゲルリリーフα」は、高病原性鳥インフルエンザウイルスを接触1分で99・99%殺滅する高い性能が特徴だ。

 ゲルリリーフαは、用瀬電機と鳥取大学が共同開発した天然鉱物ドロマイトを特殊加工した抗ウイルス材を、ダイワボウポリテックが不織布に加工した素材だ。

 通常、加工材を繊維に固着する場合、練り込みやバインダー材を使うのが一般的だが、これでは抗ウイルス材の表面をバインダー材が覆ってしまい、効果が低下する。ゲルリリーフαは、特殊ポリマーによる芯鞘構造繊維を使い、わたの繊維1本ごとの鞘部分に抗ウイルス材微粒子をくさび状に打ち込むことで、繊維表面に抗ウイルス材を露出させた。

 実験でも接触させた鳥インフルエンザウイルスは1分で99・99%殺滅するなど高い機能が実証された。すでに衛生マスクでは、実用化されており、今後も用途拡大が期待される。

シキボウ「フルテクト」/衣料、資材用途で強み

 シキボウの「フルテクト」は、安全性の高い有機抗ウイルス剤を繊維に架橋処理することで、繊維に触れたウイルスを10分間で99・9%減少させるなど、高い抗ウイルス機能を持つ(農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究所の実験による)。洗濯耐久性が高く、風合いや色も未加工品と変わらないことから、ユニフォームなど衣料用途で強みを持つ。また、資材向けにも拡販を進める。

 フルテクトの最大の特徴は、洗濯耐久性の高さだ。実験によると、洗濯50回後も機能は変わらない。このため、ユニフォームで強みを発揮する。このほど、大手ユニフォームアパレルの食品加工場用白衣に採用されたほか、養鶏場などの農業用作業服でも活躍する。また、2008年から一般用マスクでも採用される見通しだ。そのほか、業務用マスク用途でも順調に拡大しており、養鶏場で使う防鳥ネットや空気清浄機用フィルターなど資材用途でもフルテクト加工が採用されている。同社では「新型インフルエンザの危険性がますます高まるなか、海外販売も含めて用途展開を加速させる」考えだ。

 一方、花粉対策素材としては抗アレルゲン加工「カウンターペインP」の引き合いが増える。花粉の付着を防ぐことに加え、天然アミノ酸でアレルゲンを不活性化するダブルの効果が好評だ。花粉は水分に接した際に大量のアレルゲン物質を放出するが、カウンターペインPはこれを不活性化することから、屋外で洗濯物を干す際に衣類にアレルゲンが付着するのを防ぐ。

玉川衛材/光触媒チタンアパタイトのマスク発売

 玉川衛材は昨年10月から光触媒チタンアパタイトを採用した「フィッティ ウィルス・花粉吸着分解マスク」を販売している。

 素材はポリプロピレンの3層構造。表の第1層に光触媒チタンアパタイトを後加工した。これは東京大学と富士通研究所が共同開発したもので、これまでの光触媒(酸化チタン)に比べ、空気中の有害物質の吸着力に優れ、太陽光で水と二酸化炭素に分解する。真ん中の第2層はメルトブロー不織布で高いフィルター効果を持つ。第3層は湿気に強く、肌にもソフトだ。

 また、鼻部は樹脂のノーズフィッターで菌の浸入を防ぎ、メガネもくもりにくい。サイド部もほおからあごのラインまで、しっかり密着する特殊加工を施す。前面はプリーツの立体形状で、息苦しさがない。価格は5枚入りで本体価格500円。「年々、需要は増加している」と言う。

小林製薬/付加価値型マスク拡大続く

 小林製薬のウエットフィルター付きマスク「のどぬ~るぬれマスク」が絶好調だ。従来にない付加価値型マスクとして消費者から支持され、現在では品薄の状態にある。2006年10月の発売開始以来、初年度から5億円の売り上げに達した。

 のどぬ~るぬれマスクは、マスクの中にウエットフィルターを装着することで、空気の乾燥時にスチーム効果でのどの不快感を抑える。就寝時に装着するという使用方法も画期的だった。

 ユーザーからの評価は高く、発売開始以来、爆発的なヒット商品となった。今年9月からはマスクの形状を立体タイプにした「昼用立体タイプ」も登場し、好評だ。バクテリアカット率は95%(日本化学繊維検査協会の試験による)と高性能。

 就寝用と昼用、それぞれ無臭タイプとハーブの香りの2種類をそろえる。価格は3組入りで税込み504円。

小松精練 ケイテー「アレルビート1000」/ノンコート耐水でアレル抑制

 東レ合繊クラスターから誕生したアレル物質抑制加工素材「アレルバスター」が進化し続けている。繊維表面に特殊加工したアレル物質不活化材が、アレルゲンをイオン反応場でトラップ、包み込み、不活化させる仕組みで、同クラスターの第1弾商品として、ナノテク素材分科会から生まれた。小松精練が加工・販売を担当するが、現在はカーテン、寝装・寝具、いす張りなど向けのアレルバスターのほか、アウターを除く一般衣料向けで花粉付着防止機能を有する「アレルビート」、さらにビジネスコートなど向けの撥水性能を持たせた同BRをラインアップ。そして先ごろ、織布企業のケイテー(福井県勝山市)との協働によるナノテク加工素材第3弾としてノンコーティングで耐水性を有するアレルビート310(1000)を開発した。

 アレルバスターシリーズ同様、生地表面に付着したアレル物質に対し、その働きを24時間で付着量の約80%抑制するほか、ノンコーティングでありながら耐水圧1000ミリを実現した。ケイテーの織り技術と小松精練の新規後加工技術を組み合わせることで実現したもの。ケイテーが特殊織機で経糸張力をコントロール。糸総本数が従来の4万本から6万本の超高密度織物を開発。これに小松精練独自の多段式マルチニップ方式を搭載した設備により、素材の風合いを損なわずに、織・編み物を扁平化させた。コーティングのように溶剤を使わない環境配慮型後加工技術でもある。

東レ「アンチポラン」シリーズ/春先の機能素材に定着

 東レは花粉付着抑制素材として「アンチポラン」シリーズを展開している。スポーツウエアからカジュアルウエアまで幅広く展開、春先の機能素材として定着したという。また、その進化バージョンであるアレル物質抑制素材「アレルクラッシュ」は08年春夏で2シーズン目に入り、広く認知されつつあるという。

 アンチポランは生地表面に花粉がつきにくく、落ちやすい加工を施したナイロンおよびポリエステルの花粉付着防止素材。スポーツ・カジュアル用途のほか、コートやブルゾンなどの用途で展開されている。また、「アンチポランNT」は独自のナノテクノロジー「ナノマトリックス加工」によって、生地表面にナノレベルの被膜を形成した素材で、アンチポランの花粉抑制機能に加え、撥水性や制電機能の複合化を実現した。スポーツ、カジュアル、コート、ブルゾンなどの用途で好評を得ている。

 「アレルクラッシュ」は花粉が付きにくく、落ちやすいという機能に加え、落ちきれなかった花粉によるアレル物質の活動を抑制できる素材。花粉のほか、ダニの死体やフン、ペットのフケなどのアレル物質の活動を、繊維表面に加工した高機能剤が包み込んで抑制する。同社のモデルテストでは、24時間で約80%抑制する結果を得た。ポリエステル素材を中心に、スポーツ、カジュアル、コート、ブルゾンなどの用途で展開している。

帝人ファイバー「ポランバリア」/スポーツ用途にも増加

 帝人ファイバーは花粉対策素材「ポランバリアAS」「ポランバリアV」を展開している。展開分野は拡大傾向にあり、これまでのスプリングコートを中心としたカジュアルアウターに加え、スポーツ用途でも引き合いが増えているという。このような要望に対して新素材の投入などに注力し、花粉対策素材の拡販につなげていく考えだ。

 「ポランバリアAS」は新開発の制電原糸を使用することで静電気を抑えたポリエステル素材。さらにテキスタイル技術により、花粉が付きにくく、落ちやすくしている。カジュアルアウターやスポーツアウターなどの用途に展開している。

 また、「ポランバリアV」は独自のテキスタイル技術で花粉が付きにくく、落ちやすくしたポリエステル素材。同社の試験では花粉付着率0・5%で、花粉脱落率80%という結果を得ているという。さらに防風、撥水、透湿などの機能も有する。カジュアルアウターなどの用途で好評を得ている。

積水化学工業/進む用途開拓

 積水化学工業の抗アレルゲン加工剤「アレルバスター」が順調に拡大している。繊維関連では、小松精練、スミノエ、東レが積極的に採用を進めるが、家電用フィルターや家庭用掃除用品、インテリア内装材など幅広い分野で評価が高まる。現在は1ケタ億円の売り上げ規模だが、5年後の2012年には、売上高30億円規模を目指している。

 アレルバスターの最大の特徴は、自然界に存在する物質と同じ分子構造を持つ高機能フェノール系ポリマーを使うことで、高い抗アレルゲン機能と安全性を実現したことにある。また、非水溶性ポリマーのため、洗濯耐性にも優れる。もともとは家電用フィルター用途で実用化されたもので、繊維への適用は難しかった。この点を小松精練やスミノエ、東レの3社が高い加工技術で解決、実用化することに成功した。

 機能の実証研究の学会発表も盛んだ、昨年も日本アレルギー学会で東海大学健康科学部、西川産業、積水化学工業3社が共同で発表を行った。NI帝人商事の超極細繊維高密度織物を側地に使った、西川産業の防ダニふとん「まどろみ」にアレルバスター加工を施したものを使った実験結果で、被験者の血中に含まれるアレルギー症の目安となる特異的IgE抗体が減少するなど、高い抗アレルゲン機能を実証した。

 繊維だけにとどまらず、アレルバスターの活躍の場は、今後もますます広がりそうだ。