染色業に試練の嵐/上半期をどうしのぐ

2008年02月15日 (金曜日)

蒲郡・浜松地区加工場の動静にみる

 今年の3~4月には、短繊維の染色加工場に嵐か台風が襲う。これは本紙で1月9日発行の新年号座談会の席上で、八代芳明・東海染工社長が明らかにしたもの。この発言が時日の経過とともに真実味を帯びてきた。その背景には・年末から年初にかけての1バレル100ドルという高値の重油が実際に加工場に投入されてくる・春夏物の受注が大幅に低下して、操業度が極端に落ち込む・世界的金融不安(サブプライムローン問題)とともに、金融の貸し渋りが表面化する・総コストアップを転嫁できない――などがある。これら諸般の事情により、染色は混乱が予測されるが、ここをしのげば当面は生き残れよう。今年上期(1~6月)の染色業界の動向、蒲郡・浜松地区の加工場の動静を探った。

生き残りへあの手この手/新事業・新業態に挑戦も

 染色加工場は広大な敷地と工場設備、従業員を抱えるという、農耕民族的色彩の強い業種であり、簡単に転職できない。そうしたなかで染色専業の現状は、生き残れる余地が極めて少なくなってきている。

 浜松地区の日本形染は、工場の集約化と遊休土地の活用を見事に果たした企業だ。これにより不動産の賃貸事業を始め、今や染色本業の収益を賃貸料収入が上回るほどである。

 大和染工も2つの工場を磐田工場に集約した。浜松工場(主に捺染)の賃貸事業(不動産)収入により染色事業を補完するのに加え、さらに2つの工場を1カ所に集約することで、捺染(プリント)部門を廃止した。これに伴って、希望退職や一部リストラを行い、一つの方向性を見いだした。

 東海染工・浜松も人員を極限まで減らし、集約化・効率化に動いている。東海染工全体としても、非染色部門の事業構築を一歩ずつ進めている。

 蒲郡産地には、賃貸事業(不動産)を手掛けている染色企業はない。その代わりに、業態変化に挑戦することで新たな方向性を見いだしているのが鈴寅である。

 具体的には、ナノ・コーティング加工Masa(鈴寅ブランド)や、フィルム事業によるバイオケミカル産業への進出がある。さらには川下戦略の一環として、自社製品の直販店舗、カーサロッサを地元蒲郡、東京・名古屋で展開中だ。

 艶栄工業は染色で特化した加工場を目指すとし、インテリア・カーテン、レーザー基布(産資)の分野で力をつけていく考えだ。

 糸染めの染色では、藤浜染工が「トライアンド・トライ」をベースに、「染まらない糸はない」という理念に基づいて、短繊維のあらゆる糸染めにチャレンジする。

受注減に営業強化策/浜松地区の4染工場

 浜松地区の染色加工業、東海染工浜松、日本形染、鈴木晒整理、大和染工の4社は昨年十先で、ともに損益分岐点を大幅に上回る好調な業容だったとしている。重油の値がりによる総コストの上昇などはあったが、この3カ月に限っては黒字経営を実現できた。

 しかし1月以降、受注不安が忍び寄り、2008年1月は操業日数減も手伝い一転赤字になりそうだ。ただ昨年12月加工残の1月への繰り越し分があるので、操業度(加工数量)、加工売上高の大幅な落ち込みはない模様。問題はこの2月からの受注減で、加工数量、加工売上高とも07年10先比、10~15%落ち込むと予測されている。こうしたなか、受注対策として営業強化の推進を打ち出している。08春夏の最終加工をスポットで受注するとか、ニッチ分野の開拓など各社それぞれに秘策を練り、2月以降の落ち込みを最小限に食い止めるべく努力中である。

 東海染工浜松によると、加工ベースで11月365万ヤード、12月355万ヤードと好調だった。加工品ではタテ・フィラメント/ヨコ・レーヨン(液流)が好調で、TSK、ラスタとともに3加工品が良好だ。

 日本形染は捺染の受注増があり、加工数量、加工売上高ともに前年実績を上回っている。

 鈴木晒整理は「手作り」加工に徹しており、“量より質”に重点を置き、発注者の求めに応じた加工で、発注者満足度をさらに高めていく方針である。

豊島浜松支店長・戸松憲司氏/加工のピーク早期化傾向

 ここ数シーズンの傾向として、浜松地区染色加工場の繁忙期は10~12月である。今春夏物についても、昨年10~12月は過密状態に陥り、部分的に「納期戦争」の様相を呈した。

 このため、一部では12月加工積み残し分が、今年1月に繰り越されたため、操業日数が少ない1月の操業度は各加工場ともに平常月ペースとなった。

 受注ベースでは、昨年12月以降やや下降気味で、2月加工分の受注に向けた営業活動が盛んに行われている。現在の納期はおおむね3週間と推定され、3月以降のめどが立ちにくい状況にある。

 かつては1~3月、あるいは4月ごろまでが加工のピークだったが、最近は十先ピークに変わってきている。これは中国縫製向けに加工反を送り、縫製品を日本に持ち返るケースが増えたのに伴い、中国の正月前に加工反を送るために年内加工が条件となっていることがある。浜松地区の4つの染色加工場とも、こうした傾向は次シーズン以降も継続する流れになると予測される。

 08S/Sの加工ヒット商品を挙げると、TKS加工、ラスタ加工、マイルド加工などが昨年十先での主力加工品となった。これら加工品については、納期通りに仕上がらないケースも散見された。

 加工差別化もさることながら、長繊維×短繊維、タテ・フィラメント×ヨコ・レーヨン複合品(液流染色加工)、例えば当社では綿×ストレッチ複合は5シーズン目であるが、単品で1シーズンに相当数が売れた。複合素材と加工の組み合せたものが動いている。

 加工の複合加工を組み合わせたトリプル複合より、素材複合品の方がやや動きが良い。綿×レーヨン複合では、タテ・超長綿×ヨコ・リヨセルのサテンは、綿にコンパクト糸や100双などを使うケースが目についてきた。

 素材では、レーヨン系素材をベースに他の繊維と組み合せたテキスタイルに加工を加味したものが主流。織りでの光沢については「サテン」風のものが求められている。2月以降のテキスタイルの動きが不安視されているが、これはどうも世界的な傾向のようで、米国の衣料販売不振が日本にも反映されてきたと見たい。

 浜松は加工産地という冠を頂いているが、現在は4社。ピーク時には16社あったのが4分の1にまで減った。これ以上減ると加工産地としての地位が危うくなってくるので、4社の自助努力と業務継続に期待している。ただ加工場の自助努力にも限界があるので、発注者として加工場の要望や作業工程に配慮した発注を心掛け、受注者ともども加工産地を守っていきたい。

 加工場への要望としては、「設定納期」を守っていただくことと技術開発力に期待したい。