創・新製品情報/宇宙での活躍 日本の繊維
2008年03月03日 (月曜日)
今春打ち上げ「きぼう」の宇宙船内用日常服に採用
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が実施する「宇宙オープンラボ」制度。ユニークなビジネス・アイデアや優れた技術を持つ企業などと、宇宙に関する技術的知見を有するJAXAの連携により、新しい宇宙ビジネスの創出や地上技術の宇宙応用を目指すプログラムだ。同制度に参加し、宇宙での生活支援研究としてISS(国際宇宙ステーション)滞在中に着用する衣服(宇宙船内用日常服)の開発を進めるのが「近未来宇宙暮らしユニット」(リーダー・日本女子大大学院・家政学部被服学科教授)。ゴールドウインテクニカルセンター、島精機製作所、クラレファスニング、東レ、有人宇宙システムの5社が参加する。先ごろクラレファスニング、島精機製作所、東レの3社が宇宙服への採用を発表。日本の繊維技術の高さを証明した。採用された優れた繊維技術を紹介する。きぼうは国際宇宙ステーション(ISS)を構成するJAXA保有の実験棟で、スペースシャトルで3度にわたり部位、機材を打ち上げて、その都度ISSに接続される。その第1回が今春(3月11日)打ち上げ予定のスペースシャトル「エンデバー」で、日本の土井隆雄宇宙飛行士が登場する。その土井飛行士がISS滞在中に今回の衣服を着用し、着心地等を確認する。
島精機/宇宙の環境変化に対応 ホールガーメント技術活用
島精機製作所は宇宙船内用日常服の開発に、同社が世界で初めて開発したホールガーメント(無縫製ニット)横編み機による革新的な技術で参加し、共同研究を進めてきた。
宇宙空間では微少重力の影響により、体内水分の移動に伴う体形変化や姿勢変化(背中が少し丸くなる)が起こる。そのため、こうした環境変化に対応可能なシルエットと運動性、低負荷性を兼ね備えた衣服の開発が欠かせない。また、宇宙空間ではシャワーなど水を使うことが制限される一方で、筋力維持のため器具を使った運動などが必要となり、汗をかく行為が避けられない。着用する衣服には日常を健康で快適に過ごすための対応が求められる。
ホールガーメントは(1)軽く仕上がる(縫い代が不要な分、全重量の5%程度軽減)(2)モビリティー(縫い代による突っ張り感や肌への刺激がなく、着心地が良く動きやすい)が従来の衣服よりも優れる(3)縫い代がないため編み地本来の伸縮性を保持し、宇宙での体液の移動による体形変化によく追従する(4)縫い代がないので糸くずが発生しない──など宇宙船内で着る日常服にふさわしい技術的な特徴を多く持つ。
今回、ホールガーメント技術を活用した宇宙船内用日常服として、運動用半袖Tシャツ、運動用ハーフパンツ、ポロシャツ(半袖、長袖)、靴下などを開発した。それらには、(1)宇宙での中立姿勢を考慮したシルエット(2)運動着には背中、わき下に編み組織によるメッシュ構造を設け、発汗時の蒸発を促す(3)靴下は保温性能を持たせるように足裏部分を厚くする(4)抗菌・防臭・吸水などアイテムの使用目的に応じた加工──の4点を中心に宇宙での着用に応じた工夫を施した。
同社では今回の軌道上試着によって得られるデータとノウハウについて、「厳しい宇宙環境に対応するだけでなく、ホールガーメントの特性である人に優しいニットウエアのさらなる質的向上に資するものと確信する」と近未来宇宙暮らしユニットの研究成果に大きな期待を寄せている。
クラレファスニング/安全・高機能の面ファスナー 無重力での物品固定も
クラレグループのクラレファスニングは宇宙船内日常服向けに面ファスナー「マジックテープ」を供給するが、着用時の安全性と快適性を念頭に検討を重ねた結果、「マジックテープ」の「ニュー・エコマジック」の耐熱タイプが採用された。
ニュー・エコマジックの耐熱タイプは、高耐熱性と難燃性を持ったPPS(ポリフェニレンサルファイド)繊維を使用している。
そのため250℃までの高温に耐えるほか、200℃を超える環境に24時間さらされても、面ファスナーとしての機能は、ほとんど失われない。
PPS繊維を使うほか、裏面補強用のバックコート剤は使用しないので、自己消火性を持ち、燃焼時の発煙量も従来耐熱製品と比べて少ない。自己消化性は自動車用燃焼試験、航空機用燃焼性試験に合格している。
また、バックコート剤不要により環境有害物質を含まない。このため、宇宙船内で要求される安全性・オフガスの点にも優れている。
衣料品に採用して着用した際も、ソフトな風合いで動作時の違和感が少ない。船内被服はシャツ、パンツ、ズボン、トランクス型下着、靴下で構成するが、ニュー・エコマジックは半ズボンと長ズボンの脚部側面に使用される。
無重力空間では着脱可能なアウターポケットや散乱しやすい物品(文具類、食事用トレー)の固定に利用されることになる。
東レ/多機能素材を供給 ナノテク技術を駆使
東レは宇宙船内用日常服向けに高いレベルでの消臭、抗菌防臭、制菌、有機物分解、制電性を併せ持つ素材を開発し供給する。
同社が持つ“ナノマトリックス”加工技術を用い、単繊維の1本1本に光触媒粒子、制菌剤、制電性を持つ機能樹脂を規則的に配列して付着させた。
これにより光触媒による汚れの分解、体臭・汗臭の除去、抗菌剤による汗腐敗臭の防止、静電気抑制といった機能を持たせた。
技術呼称は“ナノML”。単繊維に10~30ナノメートルの皮膜で、機能性粒子を保持するため、活性な粒子表面機能が効果的に発現する。
宇宙空間では水が使用できないため、洗濯や入浴などができない。もちろん、多くの着替えを持っていくことは不可能。同じ衣服を長期間着用することになり、不衛生になりやすいほか、閉鎖空間での体臭、排せつ臭もこもる。このため消臭、抗菌防臭、制菌機能が必要不可欠になる。
また、ISS内は湿度が低く静電気が発生しやすい。静電気が発生すると電子機器へも影響を与えることになるため、制電性も併せ持つ必要がある。
同社では清潔さの観点からは吸汗速乾や防汚、安全性の観点からは制電、難燃、快適性の観点からは保温、保湿、軽量、動きやすさ、着心地などを挙げる。
同社では糸、織り・編み、後加工それぞれの段階における技術開発により、これらの機能を併せ持つ、より高機能な開発を進めているという。
今回の土井飛行士の着用により、現場の意見を生かした素材開発を進め、宇宙での生活をより快適なものにできるように取り組む方針だ。