ニュー・テクノロジー
2000年10月02日 (月曜日)
活性炭繊維の可能性
(1)はじめに
活性炭は、その形状から粉末活性炭(粒径250μm未満)、粒状活性炭(粒径250μm以上)、活性炭繊維に分類される。
活性炭繊維が上市されてから約二十五年が経過する。その間にセルロース系、フェノール樹脂系、PAN系、ピッチ系等種々の前駆体繊維を利用した活性炭繊維が上市された。応用面では物質の吸脱着素材として認知されてきており、気相分野では有害ガス悪臭ガス除去、液相分野では水その他液体の精製など幅広い分野で実用化されている。
本稿ではユニチカ〝アドール〟の基本特性と用途、とくに気相分野における空気清浄器用フィルターとしての活性炭繊維の可能性について述べる。
(2)活性炭繊維〝アドール〟の製造方法
ユニチカと大阪ガスは、ピッチを原料として溶融紡糸法による活性炭繊維の製造技術を共同で開発し、昭和六十三年に合弁会社「㈱アドール」を設立し工業生産を開始した。活性炭繊維〝アドール〟の製造工程を示す。(1)紡糸用ピッチの調整(2)ピッチの溶融紡糸(3)ピッチ繊維の不融化(4)不融化ピッチ繊維の賦活工程を経て活性炭繊維が得られる。
活性炭繊維は、前述したように種々の前駆体から製造可能であるが、原料中の炭素含有率は、ピッチが最も高い。そのため、活性炭にするときの収率(賦活収率)が非常に高く原料原単価の面で有利である。
(3)〝アドール〟の特徴
〝アドール〟の代表的銘柄と基本物性を示す。A―7、A―10、A―15、A―20の順に細孔径、比表面積、細孔容積が大きくなる。逆に、繊維径は小さくなる。いずれもミクロ孔(2nm以下)の発達した構造を有しており、メソ孔(2~50nm)の発達した粉末炭や粒状炭に比べて低分子、低濃度のガスの吸着性が良いという特徴がある。銘柄による性能の違いは、概ね次のように考えられる。細孔径の小さいA―7は、吸着した物質の補足力が大きいため、低濃度のガスの吸着に優れている。
一方、A―10、15、20は、比表面積、細孔容積が大きいので吸着容量が大きく、高濃度ガスの吸着性能に優れている。反応材として利用する場合は、比表面積の大きい銘柄の方が反応場が多くなるので好ましい。
〝アドール〟の一般的特徴として(1)外表面積が大きいため吸着速度が大きい(2)繊維状であるため、フェルト状、シート状、ペーパー状、ハニカム状、コルゲート等種々の形態に加工でき、様々な用途への展開が可能である(3)嵩高いため、通水性、通気性に優れているそのため低圧力損失の要求される用途には好適である(4)炭塵の発生が少なく環境汚染が少ない――が挙げられる。
(4)加工方法
〝アドール〟は、通常の繊維加工機械と技術を駆使して、種々の成形体に加工できる。例えば、カード機を使用して乾式フェルト、乾式シートに加工できる。また、抄紙機を使用すれば、湿式シート、ペーパーが得られる。これらを捲回したり、波形加工を施した後積層することで円筒状成形体、ハニカム、コルゲートなどの立体成形体が得られる。
(5)用途
活性炭繊維〝アドール〟は、気相・液相分野の様々な用途に展開されている。代表的な用途として(1)空気清浄器用フィルター(2)オゾン除去用フィルター(3)溶剤回収用エレメント(4)飲料水浄化用フィルター(5)シャワー浄水用フィルター(6)冷蔵庫製氷器用フィルター(7)鍍金液浄化用フィルター(8)生物担体――が挙げられる。
(6)空気清浄用フィルターとしての可能性
低濃度ガスの吸着速度の大きい性質と通気性の良さを利用した用途である。製品形態はプリーツやハニカムである。活性炭繊維は疎水性であるため、ベンゼン、トルエン、有機塩素系化合物等の疎水性物質の吸着特性に優れるが、アンモニア、硫化水素、低級アルコール、低級アルデヒドといった揮発性の高い親水性ガスの吸着能力は良くない。こうした欠点を補うため、これらの気体と反応性のある薬剤を添着した特殊活性炭繊維をラインアップしている。
ユニチカが保有している特殊活性炭繊維は、三種類である。とくに今まで除去が困難であった低級アルデヒド類を効率よく除去できる活性炭繊維(Aタイプ)を今夏ラインアップした。悪臭成分が何種類も複合したタバコ臭等の脱臭にも効果的である。Aタイプの特性を加工したシートのタバコ脱臭性能を図3に示す。アセトアルデヒドの除去性能は従来品の百倍以上、ホルムアルデヒドは、二十倍以上である(1ppmでの平衡吸着量)。
さらに、従来の活性炭繊維を使用したシートに比べAタイプを複合したシートは、たばこ臭に含有される三大悪臭ガスを非常にバランスよく除去し、寿命も二倍以上になるという特徴がある。
(7)まとめ
活性炭繊維〝アドール〟は、以上述べたように優れた特性を有する素材である。とくに、新たにラインアップした低級アルデヒド類除去用活性炭繊維(Aタイプ)は、吸着除去速度や吸着量に優れている。この活性炭繊維を複合したフィルターは、たばこ臭をバランス良く除去でき、さらにフィルターの寿命も延びるという優れたものである。
今後Aタイプを複合化したフィルターを家庭用、業務用、車載用空気清浄器、エアコン等に展開し可能性を追求していく予定である。