産資・不織布通信Vol.19/医療資材はコンサバ 綿ガーゼ健在、牙城崩せず

2008年07月04日 (金曜日)

 医療資材は不織布メーカーが成長分野として位置づけ、商品開発を続けている分野だが、保守的なところもあって、なかなか新しい商材が採用されにくい部分がある。歴史がモノを言うといっても過言ではない。米デュポンのスパンレース不織布(SL)「ソンタラ」を使ったホギ・メディカルの手術用ガウン、ドレープ(覆布)、旭化成せんいのキュプラ長繊維不織布「ベンリーゼ」使いにより、川本産業が販売する医療用ガーゼ「ハイゼガーゼ」などはその代表格の一つだ。とくに、ガーゼはスパンレース不織布メーカーがターゲットに掲げるものの、ベンリーゼの牙城であり、そして、ベンリーゼも綿ガーゼには及ばない。コンサバティブとも言われる医療資材。その一つである、ガーゼの世界を探ってみた。

滅菌済みガーゼ増える/川本産業 綿は中国産へ

 矢野経済研究所によれば、医療用綿ガーゼの市場規模は2005年度で144億円と前年に比べて5・8%増。しかし、最大手である川本産業の川本武副社長は「滅菌済みガーゼが増えているためで、絶対量としては横ばいか、若干減少している」と見る。滅菌ガーゼの増加は滅菌作業を行う病院が減っているためだ。

 その綿ガーゼの特徴は人体に使用するだけでなく、使い勝手が良く、織ったり、畳んだり、さらにはひも代わりに使ったり「医療現場ではメーカーが知らないような使い方もある」と言う。

 その綿ガーゼも中国製が増えており、川本産業も綿ガーゼは国内生産が4割を占めていたが、年内に中国製に全量転換することを決めた。「外注先の高齢化などもあって国内での生機生産が難しくなってきた」ためで、自社に有する晒しの設備は中国の協力工場である上海川本衛生材料に移設する。

綿ガーゼ局方外れ期待薄/不織布はガーゼ以外で拡大

 一方、不織布ガーゼについては量的な統計がなく、不明だが、使用するのは人体ではなく、対物ワイパーが主体。米国では手術で不織布ガーゼを使用するが、日本ではない。圧倒的なシェアを持つハイゼガーゼにしてもその位置づけは変わらない。一部、脳外科用にベンリーゼを使用した「ベンシーツ」などを川本産業が展開しているが、全体から見れば微々たるものだ。

 実は不織布メーカーがガーゼに多大な期待をかけた時期があった。2005年4月に、綿ガーゼが日本薬局方から不織布と同じ医療機器になったからだ。綿ガーゼと不織布ガーゼが同じ医療機器であれば、不織布ガーゼが綿ガーゼを侵食すると不織布メーカーが想像したのは当然。しかし、実体はそれほど変わらなかった。医療資材のコンサバ度合いがよく分かる。

 しかも、最近は内視鏡手術など切らない手術も増えており、綿ガーゼの使用量も減る可能性がある。術後にガーゼを何度も取り替える方法からフィルムドレッシングが主流になりつつあるという。

 その面で国内における医療用ガーゼの量的な拡大は期待薄かもしれない。ただ、ガーゼ以外で不織布は増えている。薬剤を染み込ませたウエットタイプが増える傾向にあるからだ。こうしたウエットタイプの不織布製品の医療資材における可能性について、川本産業の川本副社長は「ぬらした時の薬液の影響がポイントになる。不織布はその基材であり、第一義はその薬液になる」との見方を示す。つまり、単にウエット用に不織布を供給するのではなく、どの薬液を使うかという前提で、不織布開発すべきということだ。

東洋紡STC 機能材事業/コンバーティング力強化

 今年4月発足した東洋紡スペシャルティズトレーディング(STC)。東洋紡の繊維事業本部の開発・販売部門と新興産業の繊維部門(アパレル本部、テキスタイル本部)、高機能材部門(フィルム、機能樹脂、産業マテリアル、ライフサイエンス)を統合し、新たなスタートを切った。

 衣料用繊維の先行きに注目が集まるものの、スペシャルティ事業拡大のための開発型グローバル・トレーディング企業を目指すのが同社の基本方針。その面でスペシャルティ事業を担当する高機能材事業部門の拡大がポイントになる。その一つである機能材事業総括部は、東洋紡のスーパー繊維やスパンボンド不織布(SB)などを手掛けており「3年後には売上高3割増」(三田村佳則執行役員機能材事業総括部長)を目標に掲げる。

 機能材事業総括部はアパレル事業、テキスタイル事業、化成品・バイオ事業と並立する4事業のなかで規模は最も小さいが、事業拡大を目指して積極的に人材を投入してきた。昨年度は2人、今年度は3人を採用。「2~3年先には戦力になる」と期待する。とくに輸出を含めた海外を拡大する計画で、現在2割を下回る海外売上高比率を3割強に引き上げていく。

 同事業総括部は機能マテリアル事業部、産業資材事業部、機能材技術サポート部から成る。機能マテリアル事業部は東洋紡の高強力ポリエチレン繊維「ダイニーマ」、PBO繊維「ザイロン」、繊維クッション材「ブレスエアー」、アクリレート系繊維などを手掛ける。産業資材事業部はSBなど不織布関係が多く、東洋紡が中国でOEM(相手先ブランドによる生産)を委託する自動車シートのバネ受け材の展開も受け持つ。

 三田村執行役員は「中国生産品で内販に加え第3国輸出に取り組む。原反だけでなく、加工品も含め拡大する」意向を示す。

 中国での展開を拡大するため、今年初め上海現地法人に機能材の担当者を配置、産資に詳しい現地スタッフを5月に採用し、アシスタントも含めて3人体制を敷いた。

 中国以外も含め海外売上高の拡大は、日本で実績のある事業の横展開。日系自動車部品メーカーへのバネ受け材供給やザイロン短繊維による耐熱フェルトもその一つだ。

 ただ、東洋紡の機能材を扱うわけではない。ダイワボウプログレスのカートリッジフィルターも展開している。「東洋紡プラスアルファで商社機能を生かしていく。そのためには東洋紡製品同士、さらに他社製品も組み合わせて新しいものを生み出していく」と三田村執行役員。そのコンバーティング力を高めながら、海外を攻める戦略だ。人材もさらに増やしていく考え。

 こうした商品開発や用途開拓の機能を担うのが、機能材技術サポート部。現在、スーパー繊維で若手による開発会議を開いており「東洋紡に逆提案できるようにしたい」と意気込む。

情報館/旭化成せんい 「ベンリーゼ」 医療資材で欧州開拓

 旭化成せんいのキュプラ長繊維不織布「ベンリーゼ」(年産4500トン)はクリーンルーム用ワイパー、医療ガーゼが主力用途で、ともに「ベンコット」「ハイゼガーゼ」の製品ブランドを有し、両用途とも圧倒的なシェアを持つ。輸出比率も3~4割と高い。欧米向けは輸出の1割と少なかったが、ここに来て欧州向けに力を入れる。

 医療資材も同様であり、一昨年、昨年と2年続けて独デュッセルドルフで開催された国際医療技術専門見本市「MEDICA」に出展。商社と連携しながら開拓を進め、今上期からの実売を目指す。

 医療資材は「ハイゼガーゼ」を川本産業が展開するなど医療用ガーゼを中心に、ベンリーゼ全体の25~30%を占めるコア用途で、2007年度販売量は前年比5~10%増だが、今後も成長を続けるためには国内だけでは難しいとして、欧州輸出に乗り出しているもの。基本的には原反ではなく、製品か半製品の形での輸出だ。

 なお、コットンリンターを主とする原料が高騰しているため、ベンリーゼは5月1日出荷分から約15%の値上げを行った。

情報館/東洋紡 「ツヌーガ」 溶融紡糸の新スーパー繊維

 東洋紡は今月から高強力ポリエチレン繊維「ツヌーガ」の商業生産を開始した。既存の高強力ポリエチレン繊維「ダイニーマ」に比べると強度は1デシテックス当たり14センチニュ ートンと半分以下(ダイニーマSK60との比較)ながら、耐切創性はパラ系アラミド繊維を上回る。ポリエチレンであるため、比重は0・97と軽い。

 ツヌーガはダイニーマとは異なり、溶剤を使ったゲル紡糸ではなく、ポリエステル、ナイロンと同じ溶融紡糸で生産するため、ダイニーマに比較するとコストパフォーマンスが高い。また、溶剤ゲル紡糸のダイニーマにはできない原着が可能という点も特徴だ。

 主に作業手袋や防護衣料などがターゲットで、溶剤未使用のため、食品分野への展開にも期待をかける。

 生産は敦賀機能材工場で、当初は年産200トン規模でスタートする。