産資・不織布通信Vol.20/グローバルニッチ! ショートカットファイバー
2008年08月25日 (月曜日)
産業資材にはニッチ分野が少なくない。量的にはそれほど大きくないものの、その素材特性が評価され、安定した動きを見せる。その一つがショートカットファイバーと呼ばれるもの。ポリプロピレン、ポリエステル、レーヨン、ビニロンなどのショートカットファイバーがあり、それぞれ独自の用途を構築している。そして国内だけでなく、海外でも展開するグローバルニッチの繊維でもある。
非常に短い特殊繊維/機能紙向けが主力用途
ショートカットファイバーはチョップドファイバーとも呼ぶ。繊度が細く、カット長が3~10ミリのストレート繊維だ。通常の短繊維はカット長が45ミリ(綿紡式)、50ミリ(2インチ紡式)、76ミリ(3インチ紡式)に比べて非常に短く、クリンプもない。極めて特殊な繊維といえる。
主力用途は湿式不織布(機能紙)。レーヨン、ポリプロピレン、ポリエステル、ビニロンともこの分野が多くを占める。
機能紙は紙と同じく、水のなかにショートカットファイバーを分散させて製造する。自己接着性がないものが多いため、バインダーとして水溶性ビニロンが使用される。
ポリエステル/逆浸透膜支える機能紙
ポリエステルのショートカットファイバーは帝人ファイバー、クラレが先行。ここにきて東レが事業化を虎(こ)視たんたんと狙う。「現在、具体的なモノ作りを工場と一体となって進めているが、単に既存品との置き換えではなくプラスαが必要。難しい商品ではあるが、避けて通れない」と東レの三木憲一郎短繊維事業部長は意気込みを語る。
帝人ファイバーによると、ショートカットファイバーの国内市場は月1000トン。これに輸出も加わる。帝人ファイバーの籔谷典弘短繊維事業部長は「国内は逆浸透膜、海外は壁紙の需要が伸びている」として、ショートカットファイバーは堅調に推移すると見る。
今や合繊メーカーの将来を担うと言われる逆浸透膜。その支持体に機能紙が使われている。
同社グループは海外生産も行っている。インドネシアのティフィコでも生産、日本から輸出していた欧米、一部タイ向けをティフィコが担当。2007年度は150トン弱。08年度は200トン弱の規模になる見通しだ。「ショートカットファイバーでも定番品は厳しくなっている。その分を移管しており、国内は付加価値の高い極細、高分散性品種などに集中する」方針を示す。同時に「品質、とくに分散性などが厳しい分野。マーケットも細かい。その面では開発や評価も専門体制が必要」と説く。ここでも品質が生きている。
ビニロンはじめ機能紙用ショートカットファイバーの大手であるクラレはポリエステル短繊維の5割近くがショートカットファイバーだ。「逆浸透膜支持体や自動車用フィルターなどが好調で、タイトな状況が続いている」と黒木良樹不織布原料部長。需要拡大に対応して、ショートカットファイバーの増能力も進める。
機能紙用ショートカットファイバーには経営資源を積極的に投入しており、岡山工場に置く産資開発部ではこのほど、機能紙用の試験機を新たに導入した。販売面では欧米にも専任担当者を置く。
「ショートカットファイバーは基本的に全数検品」(天雲一裕執行役員繊維資材事業部長)。それほど要求品質は高いということ。同社としては品質向上に努めるとともに「付加価値のある差別化素材にも力を入れる」(黒木部長)方針だ。
その一つがエバール繊維「ソフィスタ」。自己接着性を持つ特徴などが評価されている。
レーヨン/軽いタバコに不可欠 自動車フィルターにも
レーヨンのショートカットファイバーは業界推定によると、輸出も含めて月450~500トンの規模がある。ショートカットファイバー専用設備を有しているダイワボウレーヨンによると「安定してはいるが、漸減傾向にある」(岡本彬社長)と言う。
同社のショートカットファイバーはかつて障子紙が多かったが、現在の主力の一つはタバコのプラグ紙。プラグ紙はアセテートトウのフィルターを巻いている紙で、1ミリグラムなど軽いタバコの登場によって生まれた。空気を取り入れて軽い味を味わう。パルプだけのプラグ紙では通気性が悪いとされる。
ただ、国内だけを見るとタバコの消費量は減少傾向。このため、同社では韓国、そして中国など輸出にも力を入れている。とくに中国は今後、軽いタバコの需要増が見込まれており「将来性から見れば有望」とする。その他、電池セパレーター、化粧雑貨などに展開し、電植パイル用もある。
一方、オーミケンシはプラグ紙など既存用途だけでなく、自動車のオイルフィルターや流せるウエットティッシュなど新用途開拓を進めている。伊藤眞治取締役繊維素材事業部長は「レーヨン短繊維のなかでショートカットファイバーは10%程度の量だが、当社にとっては戦略商品。付加価値があり、グローバルニッチな商品」と位置づける。そのための設備投資も行う。将来的にはレーヨンでのバインダー繊維の開発にも取り組む。水溶性ビニロン不要の機能紙開発だ。
レーヨンのショートカットファイバーは紙の補強材として、パルプになじみが良いことから使われ始めた。ポリエステルなど他素材との競合や輸入品との競合も少ない。ダイワボウレーヨン品が使えてもオーミケンシ品は使えない、またその逆もあるほど技術的に難しい商品である。これは他のショートカットファイバーにも共通する。
しかも安定した高品質が求められる。ネップも出来やすく、ミスカットはすぐに製品に影響するだけに、品質安定には両社とも十分に気を配っており、そのための設備投資は欠かせない。
ポリプロピレン/電池セパレーターに貢献
ポリプロピレンのショートカットファイバーは、ニッケル水素電池用セパレーターが主力用途だ。業界推定によれば、電池セパレーター用だけで月500トンの規模があると言われる。電池セパレーター用はチッソと宇部日東化成、ダイワボウポリテックが展開するが、その一社である宇部日東化成は電池セパレーター用を主力とする高強力ポリプロピレン繊維「シムテックス」を来年1月に2倍に増強することを決めた。「ショートカットファイバーは当社の強みであり、シムテックスという武器もある。拡大戦略商品でもある」と機能繊維事業部の林茂樹大阪機能繊維販売課長は言う。
同時に建材用のコンクリート混和材も主力の一つ。これはダイワボウポリテックが得意とする。アスベスト代替素材「マーキュリー」として展開している。
情報館/ダイワボウレーヨン/オレイン酸とビタミンE含有
オリーブ油に含まれる油脂成分で、クリームやローションなど化粧品の原料に用いられるオレイン酸。植物では大豆やアーモンドなどの食品に多く含まれている油脂成分で、生体内で作ることはできないが、抗酸化性に効果があるとされるビタミンE。その2つの天然成分をレーヨン短繊維に練り込んだのが、ダイワボウレーヨンの「セルミン」だ。
セルミンは単繊維の中に小さな部屋を多数作り、その中にオレイン酸とビタミンEを閉じ込めた構造からなる。通常品はオレイン酸含有率が3%、ビタミンEが2%。オレイン酸にビタミンEがくっつく形になっており、含有率を変えることができる。
同社では活性酸素ラジカル(ストレスと密接な関係があると言われる)を除去する素材特徴を生かしストレスフリー機能を持つ素材として打ち出す一方、木材由来のセルロース、植物由来のオレイン酸、植物抽出のビタミンEを融合させた天然系機能素材としても訴求する。小さな部屋があるため、ソフトなしっとりとした独特の風合いもある。
現在、インナーウエア向けを中心に、需要家と共同で糸、生地作りを進めている。
情報館/池上機械 塩ビ壁紙を再生
不織布設備製造の池上機械(兵庫県姫路市)はアールインバーサテック(東京都千代田区)に出資した。詳細は明らかにしていない。
アールインバーサテックは塩ビ壁紙を塩ビコンパウンドとパルプファイバーに再生するシステムを開発。そのシステムの前処理システムに池上機械のリサイクルブレーカー(解砕機)が採用されている。
すでに関東の再商品化業者が採用し、試運転を始めているが、同時に最終工程の分離システムとして池上機械の「ファイバーフォーマ」(マットフォーマ・の姉妹機)による開発も行う。
同システムは壁紙メーカーの端材やリフォーム後の古い壁紙を再生でき、それぞれ前工程が異なる。古い壁紙のような使用済み廃材は池上機械のリサイクルブレーカーを使用する。
通常、分離システムはバグフィルターによる振るい分けによるものだが、そこに開発中のファイバーフォーマを使用することでも分離できるのだという。
バグフィルター使いよりもメンテナンスが容易というメリットがある。