安心安全を提供する/防炎難燃素材

2008年08月29日 (金曜日)

 「住宅火災による死者の約6割が高齢者」(消防庁調べ)。その火災から身を守るためには、基本的に燃えやすい繊維製品をいかに燃えにくいものにするかが大きなポイントになる。繊維素材メーカーが展開する防炎、難燃素材の現状と今後の課題を追う。

ダイワボウプログレス「ダイワボウプロバン」/綿100%のエコ防炎

 ダイワボウプログレスがユニフォーム分野で展開する防炎素材「ダイワボウプロバン」は、綿100%という特徴を生かし、環境にも配慮した防炎加工素材として販売量が毎年拡大している。

 ダイワボウプロバンは、後加工による綿100%防炎素材。綿繊維を難燃剤が包み込む構造のため、着火後に難燃剤が炭化し、綿を酸素から遮断することで自己消化する仕組みだ。難燃ポリエステルと異なり、溶融しないため、衣料用途での評価が高い。

 ダイワボウプロバンも石油関連や鉄鋼分野のワーキングウエアで採用が広がる。ワーキングは価格競争の激しい分野だが、ユーザーも“安心・安全”に関してはスペックダウンすることはなく、機能のプラスアルファを求められることはあっても、防炎加工を外すことはほとんどない。また、後加工のため、素材による難燃と比較して生産ロット・単価面でも優位性がある。このため、厳しい市況のなか、毎年確実に受注量を伸ばしているという。

 加えて、綿100%であり、ノンハロゲン加工のため生分解性があり、燃焼時に有害ガスも発生しない。この特徴を生かし、環境に優しい“エコ防炎素材”としても打ち出している。風合い面でも綿100%のため、肌に直接触れても不快感がない。

 こういった特徴が総合的に評価されている点が、ダイワボウプロバンが堅調な販売量を維持している要因である。

クラボウ「ブレバノ」/“安全”は代替利かず

 クラボウの防炎素材「ブレバノ」は、綿と難燃アクリルを混紡した素材だ。80年代に開発され、寝装のほか、ユニフォーム分野で販売量が堅調に伸びる。“安心・安全”には代替が利かず、いったん採用したユーザーが、採用を継続することがほとんどだからだ。また、綿混紡の特質を生かし、ユニフォームという直接体に接触する用途でも強みがある。

 ブレバノは現在、石油関連や電力、鉄鋼分野を中心にユニフォーム素材として採用が広がる。こういった分野では、安全性は最重要事項であるため、採用した防炎素材はコスト削減の対象とはならず、継続採用する場合がほとんどだ。

 ブレバノのもう一つの特徴は、難燃アクリル混紡のため溶融しないことだ。競合する難燃ポリエステルの場合、素材物性上溶融が避けられず、衣料に使用した場合、高温の溶融物が体に付着して熱傷を引き起こす危険性がある。一方、混紡した難燃アクリルが炭化することで自己消火するブレバノは、この心配がないのだ。また、綿混紡のため風合いも良く、直接肌に触れても不快感がない。

 このため、衣料用途でのブレバノの評価は高く、ここ数年は毎年、販売量は前年対比10%程度の伸びを続ける。昨年には、日本防炎協会から「防炎関係業界功労者理事長表彰」も受けた。

 同社では、ユニフォームを中心に、食品加工場用白衣などにもブレバノを広げていく考えだ。そのために白度を上げる研究も行っている。

 また、アウトドア分野にも提案を進める。

ユニチカファイバー/難燃ポリエステル生産

 ユニチカファイバーは5月、ドイツのトレビラ社と戦略的パートナーとして事業提携した。トレビラが保有する難燃樹脂技術とユニチカファイバーの紡糸加工技術を駆使し、新しい商品開発に共同で着手する。

 具体的にはトレビラがマーケティング、ユニチカファイバーが紡糸・生地開発・糸加工・機屋へのフォローなどを担当。防炎テストはトレビラがユーザーへのサービスとして行う。すでにユニチカファイバーの技術を活用した生地の試作を終えており、今年後半から本格的に市場参入する。

 トレビラが保有する難燃ポリエステル「トレビラCS」は、後加工ではなく繊維そのものが高い難燃性を有するポリエステルで、一般的に使用されるハロゲンまたは窒素を含む合成物・有害物質は使用していない。欧米の主な可燃性基準をすべてクリアし、欧州インテリア市場では約98%のシェアを持つという。

 同社によると、日本での難燃素材市場は2000万メートルと推測されている。トップゾーンを中心にブランド戦略を進め市場占有率10~20%を狙う。

 当初はコントラクト向けに注力し、その後家庭用に拡大。アイテムはカーテンなどで、北陸、岐阜、一宮、蒲郡などの産地へ販売する。日本だけでなく海外にも販売する方針で、タイの織物メーカーへの糸販売も始まった。

 ユニチカファイバーの岡崎工場、日本エステル岡崎工場にトレビラ用のチップを持ち込み、長繊維・短繊維とも生産。トレビラはベルギー、デンマーク、ドイツ、ポーランドに製造拠点を持つが、アジア生産は初。ユニチカファイバーはトレビラのアジアでの基幹を担うレベルにまで戦略的提携を積み重ねる考えだ。

 ユニチカファイバーでは初年度に年間120トン(3億円)、3年後に月60トン、5年後100トンを計画する。トレビラは日本インテリアファブリックス協会へ加入し、11月の「ジャパンテックス」では150平方メートルのスペースを使い、日本企業と共同出展を予定する。

耐炎繊維/空気中で燃えない繊維

 耐炎繊維は安全性に貢献できる特殊繊維。アクリル長繊維(プリカーサー)を原料に炭素繊維化する手前で、空気中で酸化させ、耐炎性を有する繊維ができる。これらは耐炎繊維と呼ばれる。国産の耐炎繊維は東邦テナックス「パイロメックス」のみで、その他では旭化成商事(大阪市)が輸入販売を行っている。

 耐炎繊維は限界酸素指数(LOI値)が40~60%高く、空気中では高熱で接炎しても赤熱するだけで溶融しないという特徴に加え、強度、伸度を有するため、加工性に優れ、アスベストやガラス繊維にはないドレープ性、感触がある。この特徴を生かして溶接や溶断時の火花を防ぐスパッタシートに使用されている。

 実は耐炎繊維は断熱性、電気絶縁性などの特徴を持つ。この特徴を生かし断熱材などにも使用。家電製品や鉄道車両用で、新幹線のN700系にも使う。

 東邦テナックスは国内に年産600トン、米子会社で1400トンの生産設備を有しており、溶接工事用のスパッタシートだけでなく、断熱材、航空機用ブレーキパッド、NAS(ナトリウム硫黄)電池の電極材などにパイロメックスを展開する。

 NAS電池向けはパイロメックスをニードルパンチ不織布(フジコー)にした後、炭素繊維化する炭素繊維不織布だ。耐炎繊維をさらに高温で焼成すると炭素繊維になる。NAS電池はバックアップ電源として、大型二次電池の商品化が進められている。NAS電池を製造する日本ガイシは2010年に113億円を投じて生産能力の6割増強を発表しており、パイロメックスの需要増が見込める。

 旭化成商事は旭化成のアクリル繊維事業撤収時にラスタンの自社生産を止めたが、その商権を継承。スパッタシート中心に販売している。

防炎レーヨン/米国ベッドマットに不可欠

 米国のベットマット防炎規制により急速拡大した防炎レーヨン。同素材は通常の難燃素材とは全く異なる。炎を防ぐという点に焦点を当てたもので、米国で多いタバコの火による火災を防ぐために使用する。

 タバコの火が付いてもベッドマットに穴が開かないようにするため、レーヨン短繊維に無機繊維を練り込んでいる。

 日本のダイワボウレーヨン、オーミケンシの2社のほか、最大手のフィンランド・サテリと中国の山東海龍紡織科技を含めた4社が事業化する。

 サブプライムローンに端を発する米国景気の減速などもあって、昨年までの勢いはないものの、日本のレーヨン短繊維メーカーにとって戦略商品という位置づけは変わらない。

 2005年1月に、米カリフォルニア州が実施したベッドマットの新たな防炎規制「TB603」をきっかけに防炎レーヨンの需要は本格化した。そして、昨年7月から全米規制に広がったことで、需要は急増した。

 カリフォルニア州のTB603は従来よりも厳しい防炎規制で、これをクリアするために米国ベッドメーカーが検討を重ねた。

 その結果、無機物を含有する防炎レーヨンを使用した不織布を、ベッドマットの表地とウレタンの間に配する手法が中心となったことが追い風になった。

 ダイワボウレーヨンの防炎レーヨンのブランド名は「FRコロナ」、オーミケンシは「ホープFR」。先行したダイワボウレーヨンは一時、玉不足に陥ったが、現在は月産500~600トンで推移している。オーミケンシは150トン規模にある。

日本防炎協会/防炎物品・製品の普及へ

 火災を1件でも減らすとともに、火災が発生した場合には避難する時間を少しでも長く確保し、人命を救いたい。防炎性能にかかわる総務大臣の登録確認機関である日本防炎協会(JFRA)は、この理念に基づき、「防炎物品」「防炎製品」の認証試験を行っている。

 防炎物品は、消防法により定められた高層建築物や地下街、不特定多数が利用する施設などで使用する、カーテンや暗幕、どんちょう、布製ブラインド、じゅうたん、展示用合板、舞台で使う幕や大道具用の合板、工事用シートなど。これに対して防炎製品は消防法に基づく防炎規制以外のもので、防炎物品対象のものに加えて寝具類や衣料などがある。

 火災の被害を拡大する恐れが最も高いカーテンは、防炎性能の評価基準が最も厳しい。昨年は防炎加工カーテンの不適合品に対するペナルティー制を設けた。「防炎ラベル」「防炎製品ラベル」の認定取得時の機能性を維持するためだ。

 これにより「少しずつ改善の成果が出てきた。『防炎薬剤の塗布を忘れていた』というようなひどいケースはなくなった」(小川孝裕理事兼技術部長)と言う。ただ、主力の防炎薬剤であるHBCDの代替品や、使用の削減などで、性能試験が複雑になる側面も出てきた。

 HBCDは技術的、コスト的に優れた防炎薬剤だが、近年、欧州も含めて環境への悪影響が懸念されている折、数年後には切り替わる可能性も指摘されている。同協会のカーテン部会や整染部会が中心となり、調査・研究を進めている。

 防炎製品の対象も広げている。今春には木製ブラインドの認定も開始した。消防法の対象ではないが、一般住宅やレストランなど多様な場で木製ブラインドが普及し始めたためだ。操作性や施工上の理由から軽い木材が使われることが多く、防炎加工未処理だと燃えやすいことが分かった。布製ブラインドと同様の基準で試験・認定する。

 認定ラベルの取得件数は5年連続で増えている。07年度の発行枚数は約3000万枚になる。欧米や中国からの輸入カーテンもプラスαの価値として、防炎の認定取得を目指す動きが盛んになってきた。ただ、昨年6月の改正建築基準法施行による着工件数の減少や景気悪化の影響などから、今年度は増加傾向に陰りが見られるという。JFRAでは人命にかかわるものだけに、一層の普及を目指す考えだ。