特集・繊維で健康・快適/高まる機能素材の存在感

2008年10月20日 (月曜日)

 人類の有史以来、繊維は人の健康と快適を守ってきた。進化の過程で体毛を失った人類は、植物や動物の繊維を衣類として利用することによって過酷な自然環境に適応してきたのである。その繊維と人の健康・快適とのつながりは今日まで続く。柳田國男『木綿以前の事』によると、それは人の平均寿命を延ばし、さらには感性の変革すらもたらした。今日、人類を取り巻く環境は一段と厳しさを増す。新型インフルエンザなど新たな脅威も登場した。こういった環境に対応するため、繊維の役割は依然として大きい。そこで今回の特集では、健康や快適、清潔などに焦点を当てた機能素材の動向を追った。

シキボウ/“綿の良さ”に機能付与

 シキボウは、“綿の良さ”に優れた機能加工を施すことを基本コンセプトに、様々な機能素材を開発・販売している。とくに最近、注目度を高めているのが抗ウイルス加工素材「フルテクト」、ノロウイルス対策繊維「アルゴン」、そしてトレハロース加工素材「トレハクール」だ。

 フルテクトは、安全性の高い抗ウイルス剤を繊維に架橋処理した素材だ。その高い抗ウイルス性能が、近年では新型インフルエンザ対策素材として注目を浴びる。とくにマスクは備蓄用を展開していたが、昨年3月に厚生労働省が「新型インフルエンザ対策ガイドライン」のなかで、事業者に対するマスク備蓄の指針を出したことで受注が本格化した。そのほか、白衣や防鳥ネットでもフルテクトの採用が広がる。また、同社は新型インフルエンザ対策の普及・調査研究を進める非営利協業組織「新型インフルエンザ対策コンソーシアム」に、繊維素材メーカーとして唯一参加している。

 アルゴンは通常の消毒剤では不活性化が難しいノロウイルスに対して、繊維にウイルスを捕捉することで感染拡大を防ぐ新コンセプトのウイルス対策繊維だ。近畿大学農学部の坂上吉一教授の協力を得て開発した。とくに介護衣などユニフォーム用途での引き合いが多く、このほどユニフォームアパレルのトンボが展開する介護衣ブランド「キラク」に採用された。そのほか、ふきんなどワイピング用途、シーツ・カバー類など寝装向けでも用途開拓を進めている。

 一方、トレハクールは清涼感、防臭効果、防汚性というマルチ機能と天然由来成分、トレハロース使用という点で注目を集める。とくにユニフォーム分野では拡大が進みつつある。クールビズ定着によって清涼感のある素材のニーズは一段と高まっていることから、今後も用途拡大を進める考えだ。

ダイワボウノイ/安全安心のエコ素材

 ダイワボウノイは健康快適素材の開発において、エコロジー性を追求している。かつてエコロジープロジェクトを設けてオーガニックコットンを取り上げるだけでなく、染色加工までの生産工程で化学成分を使わない技術を確立した。その安全安心素材が健康快適にもつながるとの判断からだ。

 現在でもこの技術を生かしたエコロジー加工「ケミカルフリー」やカラードコットン「オレレアコット」、エコロジー染色加工「エコセーフ」などを展開する。

 こうした流れから機能加工品でも天然剤を使用したものが多い。天然薬草エキスによる「ハーブトリート」、キトサンとコラーゲンを使った「キトリーナ」、ヒノキ抽出成分による「ヒノキフレッシュ」などが生まれている。これらは天然剤の機能を活用して抗菌防臭効果を発揮する。

 こうした天然剤は化粧品などにも使われるもの。そこから健康美容をコンセプトとして弱酸性で抗菌性のある「ミラクルバランス」、ローヤルゼリーなどによる「ハーニス」、そして白金ナノコロイドを使った「プラチナエリート」(過酸化水素を生地上で分解)などを開発している。

 こうした化学薬品をできるだけ使わないという姿勢は、さらに新たな素材を誕生させた。それが「エコリリース」。セルロース本来の性質を活用した新タイプの皮脂汚れリリース素材だ。

 同社では数多くの機能加工品を有するが、健康快適素材という面でケミカルレスを重視してきたといえる。

日清紡/着心地重視の抗菌防臭

 日清紡は健康快適素材の開発において「着心地を損なわないように留意」する。

 その一つがロングラン商品である抗菌防臭加工品の「ピーチフレッシュ」。繊維上のブドウ球菌の増殖を抑えることで、防臭効果を発揮し、製品をより清潔に保つというものだ。バインダーを使用していないため、風合いはそのまま。そこがロングラン商品として安定した荷動きにつながっている。

 風合いを重視するという点では、抗菌性を有するナノサイズの銀粒子をテキスタイルに付与する抗菌防臭加工品「Ag Fresh(エージーフレッシュ)」も同様だ。ナノテクノロジーを駆使した同素材もユニフォーム、インナー、ナイティー、寝装品などで定着している。銀の抗菌成分が繊維内部まで浸透・固着しているため、本来の物性を損なうことなく、耐久性に優れた抗菌防臭効果を発揮する。

 そのナノテクノロジーを活用して新たに開発したのがプラチナ粒子を使用した抗菌防臭加工「プラチナシールド」。京都大学と共同開発した。今年から本格展開を始めている。

 また、防汚加工の「デュアルクリーン3」もナノテクノロジーによるもの。これも発売以来、安定した販売を続けている。

 こうした「一度使うとその良さが分かる」素材が同社の健康快適素材の軸。そして、その機能性に加えて「着心地という側面も配慮したモノ作りが評価されている」と同社では分析している。

富士紡ホールディングス/紳士の“本物”追求

 富士紡ホールディングスは、加齢臭対策素材のバリエーションを拡大して展開する。継続商品としては消臭素材「デオフレスカ」を提案。女性が不快に感じるアンドロステノンを抑制する「デオドメン」では、シャツや肌着、寝装分野でアイテム展開を進める。

 また、動物や植物由来の天然成分を用いた抗菌防臭素材「ケアトリナチュレ」では、天然成分を使用する特徴を生かし、素肌に対する“優しさ”を訴求。肌の水分量を保つ機能も付与し、主に肌着や靴下、寝装用途に投入する。

 さらに、連続シルケット綿糸「レンシル」を使用した最高級紳士肌着「L’homos(ロモス)」で、快適性を追求する。バイオ加工などを組み合わせることにより、柔らかな風合いを実現したロモスは、(1)美しく深みのある光沢感(2)丈夫で型崩れしにくい形態安定性――などといった特徴を持つ。モダンでセクシーな紳士を演出する“メードイン・ジャパン”の高級メンズインナーとして、「本物の商品」の持つ快適性を追求していく構えだ。

 同社では今後、再生繊維や竹などの天然繊維を活用し、環境対応素材の開発に注力していく方針。