クラレ・クラリーノ事業部/天然皮革の牙城攻める
2008年10月31日 (金曜日)
クラレのクラリーノ事業部は、今年から本格的な販売に乗り出した環境対応型人工皮革「クラリーノ・ティレニーナ」で、これまで天然皮革しか使えなかった用途への市場開拓を加速している。通常の「クラリーノ」が軽さやイージーケア性を訴求するのに対し「薄くて強く、適度な伸度を持つ」(渡辺久一クラリーノ事業部長)という物性面を強調、クラリーノとの住み分けも進める。
クラリーノ事業部の上期は、主力のスポーツシューズでは底材の値上げでアッパー材が合成皮革、布帛など低価格品に流れたこともあり苦戦。今年2月に10%の値上げが「想定通りに進んだ」ことで売上高はほぼ横ばいだった。しかし、原材料のコスト上昇や、円高による為替差損などで減益を強いられた。
クラリーノ・ティレニーナは生産工程の支障などがあり「9月からようやく生産が軌道に乗り始めた」段階で、当初目標にしていた年間100万メートルの生産量には届かず、その半分の50万メートルになる見込み。市況は悪化しているものの、「環境問題への対応面で高い評価を受けている」ことから欧米を中心にティレニーナへの関心は高く、靴用途を中心に引き合いが活発化しているという。
実際カンガルー皮の使用が多いサッカーシューズでの採用が決定、2010年に開かれる「ワールドカップ」で使われるシューズも開発中だという。ほかにもゴルフシューズへの供給が始まり、今後は「需要が多いものの市場開拓ができていなかった」紳士靴に対して「再チャレンジしたい」との考えを示す。
靴以外でもカーシートや衣料など幅広い用途で提案。天然皮革でも薄物ほど値段が高いことから、そのゾーンを狙った販売戦略を描く。
下期は景気減退、円高基調による輸出への逆風など厳しい環境を想定するも、クラリーノ・ティレニーナの用途拡大や、高級ゾーンを中心に展開する「アマレッタ」や「パーカッシオ」などの販促を強め、販売量の維持に努める。
ことば「クラリーノ・ティレニーナ」
クラレが開発した革新的な生産システムCATS(クラリーノ・アドバンスド・テクノロジー・システム)を採用して生産した人工皮革。このシステムでは製造工程中に有機溶剤を使用しないため、VOC(揮発性有機化合物)を大幅に削減でき、また工程の短縮化によりCO2も30%以上削減(同社従来品比)できる。
極細繊維と新製法により、天然皮革により近い質感、充実感、優美な外観が表現でき、表皮調・スエード調の両タイプで幅広く展開する。クラリーノの生産能力は現在1500万平方メートル。今後は300万平方メートルをスクラップし、クラリーノ・ティレニーナとの合計で1700万平方メートルの生産能力に達する予定。将来的にはすべての設備をCATSへ移行する計画を持つ。