トップインタビュー/東レ副社長・杉本征宏氏/課題明確化し収益性向上
2008年10月28日 (火曜日)
「厳しい環境のなかでも、きちっとテーマを設定し、それを乗り越えようとすれば結果は必ず付いてくる」と、東レの杉本征宏副社長繊維事業本部長。下期は解決すべき課題を明確にしたうえで、生産の効率化、価格転嫁の実施、事業ポートフォリオ変換の加速、縫製品事業の拡大などを進め収益性の向上に努める。一方でポリ乳酸やナノテクノロジー、溶融紡糸セルロース「フォレッセ」など次世代を見据えた先端素材の市場浸透も積極的に図り、2010年度に掲げる繊維事業の連結営業利益300億円以上の達成に向けて全力を尽くす。
――上期を振り返ってください。
昨年、原油の平均価格は77ドルまで高騰しました。経営の判断基準が変わっていくなかで、7月には原油200ドルを想定したシミュレーションを行うなど対策を練ってきました。短期と中期に分け、アクションを起こさなければいけない課題を掲げ、対応に乗り出しています。
――短期に解決すべき課題とは何ですか。
コスト上昇分で自助努力を超えた部分については価格転嫁をしていく必要があり、川上から川下までの新しい価格体系を粘り強く作っていかなければいけません。衣料品では川上がインフレ、川下はデフレというねじれ現象が起き、高いハードルが考えられますが、必ずやらなくてはいけない。
単に値上げするのではなく、品種転換で吸収する部分もあり、SCM(サプライチェーン・マネジメント)による効率化も進めていきます。生産工程の改善やSCMの効率化、品種転換という3つの“合わせ技”でコスト上昇を吸収していきます。
――SCMの効率化における具体的な戦略とは。
SCMによる流通構造の効率化は、縫製品事業の拡大にもつながってきます。糸、わたからテキスタイル、縫製品までの一貫生産は究極の効率化でもあります。縫製品事業の規模を1650億円から、2000億円への拡大を狙っています。OEM(相手先ブランドによる生産)やODM(自社企画による生産)では、素材の開発という点で、商社のビジネスとは決定的な違いがあります。縫製品企画推進室が関連8社のヘッドクオータ機能を持って、戦略を組み立て、情報共有化を進めるとともに、縫製事業連絡協議会を立ち上げ、縫製から逆に素材開発につなげる仕組みづくりも強化しています。
また、営業でもコスト構成分析を進め、コスト削減を極限までチャレンジしています。これまで生産の効率化でコスト削減を図り様々な手法をとってきました。その手法を営業にも生かすわけです。この効果は2009年度には出始めます。まずは1割のコストを削減したいと考えています。
先端材料の市場開拓推進
――中期的に解決していく課題とは。
東南アジアではEPA/FTAが発効されたとき、生産拠点としての魅力がますます高まる地域も出現してきます。グローバルオペレーションを進めるうえで、物流効率化の問題などは重要ですね。
――2010年度には繊維事業の連結営業利益で300億円以上を目指しておられます。
そのうち半分を先端材料で占める計画です。3GT繊維やポリトリメチレンテレフタレート繊維「T―400」、フォレッセなどの新素材が市場に広がりつつあります。ポリ乳酸繊維はコストや染色などまだまだ開発途上にありますが、ポリマーの改質や複合化などで欠点を無くし、自動車などの用途開拓を狙っています。ナノテクノロジー加工については単繊維被覆加工「ナノマトリックス」、繊維表面改質加工「ナノプレム」、モルフォロジ制御加工「ナノラメラ」の3大要素技術を確立し、それに関連した様々な機能素材を開発しています。
――中国の繊維事業の進ちょく状況はいかがですか。
繊維では2006年に東麗酒伊織染〈南通〉、07年に東麗合成繊維〈南通〉が黒字化しましたが、08年は苦戦しています。原燃料高でありながら、市場での価格は上がらず、厳しい状況です。
――順風満帆ではない?
そうですね。ただ、繊維では糸、織物、縫製品とそれぞれで拠点を持っています。それがこれから大きな戦力になってくる。ポリプロピレンスパンボンド製造の東麗高新聚化〈南通〉が今年3月から稼働し、主力の顧客のスペックインも決まっています。今月からフル稼働で、利益面でも期待できます。
――中国以外の海外事業はいかがでしょうか。
イタリアのアルカンターラは自動車向けを中心に絶好調です。欧州や日本のトップブランドに採用されており、ブランド戦略に関してはグループとしてもナンバーワンだと思います。チェコのTTCEは裏地からエアバッグの拡大にシフトし始めています。英国のTTELは、欧州のポリエステルの織物ビジネスが中国品の拡大で構造変化を起こしており、難しい状況になっています。産業資材への転換を図り、衣料向けでも高密度化するなど、差別化を進めています。
――貴社の強みは何だと考えますか。
東レは繊維事業を基盤事業と位置づけています。その収益基盤をもっと強化していくという、繊維事業に対する強い経営の意志を持っていることが、一番の強みと考えています。その意志を支える原糸、原綿から高次加工にわたる生産の技術力、研究開発力を持っていることもあります。そして国内外でのしっかりした人材。つまり、経営の意志を支えるインフラがあることも大きな強みといえるでしょうね。
(すぎもと・ゆきひろ) 1965年東レ入社。2000年取締役、02年6月在インドネシア国事業統括、06年専務繊維事業本部長、07年6月副社長。
私の愛用品/オーダーメードのバッグ
杉本さんの愛用品は4年前、インドネシアでオーダーメードによって作った黒のボストンバッグ。デザインとともに水牛の革を使用していることから「非常に柔らかくて軽く、持ちやすい」。今では出張やゴルフに行くときは欠かせないアイテムとなっている。その店は欧州への輸出が専門で、オーナー自身がデザインしている。実際、インドネシア駐在の長かった杉本さん。「インドネシアにはまった象徴が、このバッグかもね(笑)」。