産資・不織布通信Vol.21/大化けするか繊維クッション材
2008年11月17日 (月曜日)
「繊維クッション材は大化けするか」。ウレタン代替を狙いに開発され、10年以上の歴史を持つ繊維クッション材だが、現段階では爆発的に伸びているという印象はない。ウレタンとのコスト差が大きいと考えられるが、ここにきて環境問題の高まりから、軽量化に結びつき、通気性も高く、リサイクルしやすいなどの特徴が認知され始めている。同時にクッション材としてだけでなく、その構造から新たな用途開拓も進んできた。
不織布/帝人F「エルク」/倍増に向け海外市場強化
繊維クッション材にはその構造によって、主に不織布、編み物、3次元スプリング構造体の3つに大別できる。不織布での繊維クッション材で先行しているのは帝人ファイバー。籔谷典弘短繊維事業部長は「他の繊維クッション材に比べ重量当たりのコストが安い。成型性の高さや構造体として使い勝手もよい。組み合わせもしやすい」と分析する。
同社のわた売り、不織布構造体販売を合わせた販売量(わた換算)は、月産150~200トンと量的には他の繊維クッション材をしのいでいる。ただ、全体としては横ばいで推移する。
同社は主体繊維となる立体捲縮わた「ポリティ」、ポリエーテルエステル系繊維「エルク」やPTT(ポリトリメチレン・テレフタレート)繊維「ソロテックス」などを組み合わせた不織布の繊維クッション材、原料を展開する。カネボウ合繊から引き継いだ不織布製品事業やニッケグループのアンビック(兵庫県姫路市)との取り組みによる垂直不織布「V―LAP」など、原料だけでなく、不織布、成型品まで展開できる強みもある。10月からはポリティのエコ化も完了した。
伸び悩みは主力の介護用ベッドマットレスが介護保険法の改正によりピークの6割にまで落ち込んでいるからだ。これを他用途でカバーしている。
その一つがブラジャーパッド。一つ一つは小さいものの、日本だけでなく、欧米のインナーアパレルも関心を示しており、生産地である中国などからも引き合いが活発化。さらに、国内は車両用シート向けが構造体として採用が進む。新幹線のN700系シートの背もたれ部分のほか、JRほか私鉄も含め2ケタ%台の伸びで、「ウレタンよりも2~3割軽量化できることや通気性が高いという特徴に加え、環境意識の高まりも背景にある」と籔谷典弘短繊維事業部長は見る。
同社では2009年度からの新中期計画最終年度には繊維クッション材向け原料、不織布構造体販売で倍増を計画しているが、とくに海外市場の開拓を目指している。このため、専任担当を置き欧米輸出を強化。独「ハイムテキスタイル」など海外での展示会にも出品して、認知度も高める方針だ。
同社を追撃しようとしているのはクラレクラフレックスとダイワボウポリテックのスパンレース不織布大手2社。クラレクラフレックスは水蒸気不織布「フレクスター」でブラジャーパッドの開発を推進中で、09春夏での採用を目指している。
ダイワボウポリテックは原料販売、「ミラクルファイバー(CQ)V」という複合繊維で、芯部分は柔軟で曲げ回復性の大きい特殊ポリエステル系、鞘部分は耐変形性、耐熱性に優れる特殊ポリオレフィン系の樹脂を使用する。現在は不織布だけでなく、成型加工メーカーとも連携しながら用途開拓を進めている。
編み物/旭化成商事「フュージョン」/弱電向け展開、車本格化へ
編み物から成る繊維クッション材としては旭化成商事の「フュージョン」がある。表面部、連結部、裏面部から成る三次元立体編み物(ダブルラッセル)で、昨年10月に旭化成せんいから事業移管された。もともと販売も行っていたが、コンバーティングから販売まで一貫して行うことで「柔軟な開発、スピーディーな開拓を進める」と吉野龍二郎社長は言う。
フュージョンはポリエステル、PTT(ポリトリメチレン・テレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)・ナイロン、などを使用。編み地をモノフィラメントでつないだ構造で、加工事業でもあり、生産は北陸産地のニッターに委託している。
開発から含めれば10年を経過したが、今年度の売上高は7億円弱。その半分が寝具で、残り半分は多種雑多な用途展開だ。寝具に続く大型用途が見つかっていない形だが「来年度が勝負」とする。カーシートでの開発が進んでいるためで、表地にもフュージョンを使う動きがあるという。
すでに、トヨタ「レクサスLS」の座席用クッション材として採用されているが、その他でも09年からの採用が最終段階にある。
また、クッション材以外で採用という他の繊維クッション材とは異なる展開も実っている。加湿空気清浄機の加湿フィルターとして採用されたからだ。これもウレタン代替なのだが、加湿器の水を保持し、気化させるもの(10年間交換不要)。また、旭化成ホームズと共同による「へーベルハウス」の冷暖房システムもある。
10年度には売上高10億円を目指すフュージョンだが、自動車での採用が本格化すれば増強も必要になるとみる。
3次元スプリング構造体/東洋紡「ブレスエアー」/介護マットを強化
東洋紡の「ブレスエアー」は不織布でも編み物でもない。同社では3次元スプリング構造体と呼ぶが、ポリエステル系の弾性エラストマー「ペルプレン」を原料に乾めんのようにしたものと言った方が分かりやすい。販売量は年間200トンに過ぎないが、これを3年後には500トンにまで拡大する。
その切り札として期待するのが介護用マットレス。パナソニック電工との共同開発によるもので、「ラクマットエアー」のブランドでパナソニック電工が今年の「国際福祉機器展(HCR08)」で改良版を発表した。医療機関での臨床試験も行ったメディカルデータを示しており、介護保険法改正はあるものの「当社にとっては始まったばかり。学会でも優位性があることが発表されており、これからが本格展開」と生活・産業資材事業部の森島淳エコマテリアルグループ兼ブレスエアーグループリーダーは意気込む。
介護用マットレスに加え車両用にも期待。新幹線N700系のシートに採用済みだが、JR西日本の新快速などでも採用が始まったほか、オートバイのシートも2010年以降の拡大に期待する。そのほか、環境をキーワードに「脱ウレタン」での新用途の開発も強化する。
ブレスエアーは通気性が高く、水切り性が良い、軽量などの特徴を持つが、耐圧分散性や水洗いできる(清潔)特徴も評価されており、他にまねできない独自性を有する。さらに、ペルプレンだけでなく、様々な原料を使用できることから、今後の新商品開発も期待される。
情報館/東洋紡/炭素繊維原料に参入
東洋紡がアクリル短繊維の構造改革の一環として、PAN系炭素繊維の原料であるプリカーサー(アクリル長繊維)に参入することを明らかにした。アクリル短繊維製造子会社である日本エクスラン工業で一部機台を改良し生産を始めており、海外の炭素繊維メーカーに供給していくという。
同社が生産するプリカーサーはラージトウ(4万本以上の太物)で、東レ、帝人(東邦テナックス)、三菱レイヨンの炭素繊維大手3社が主力とするレギュラートウ(2万4000本までの細物)のように、高度なスペックを求められる航空機などの用途ではない。コンパウンドなど産業資材用が主力と言われる。
日本エクスラン工業では年産6万トンのアクリル短繊維の生産能力を持つが、現在は約3万5000トンの生産にとどまる。構造改革として規模縮小を発表しているが、縮小幅とプリカーサーへの転換がどの程度かは明らかにしていない。
今上期で炭素繊維3社は苦戦を強いられた。そのなかでのプリカーサーへの進出となる。かつて、炭素繊維が需給バランスを失調した際、レギュラートウ使いの価格が下落し、攻勢を強めていたラージトウの炭素繊維メーカーを駆逐したことがあった。
アクリル短繊維メーカーのラージトウへの転換は比較的容易で、製造時に使用する溶剤、モノマーによって焼成が微妙に異なるため、調整が必要なぐらいと言われる。仮に炭素繊維メーカーであり、同社以外にもアクリル短繊維事業は大苦戦しているだけに、他社がラージトウ販売に乗り出す可能性もゼロではない。東洋紡はどこに強みを発揮するのか。今はまだ読めない。
情報館/TUSCOに転機/タイ・ユニチカ・スパンボンド誕生
ユニチカと帝人のタイでのポリエステルスパンボンド不織布(SB)製造合弁が設立10年を経て、転換期を迎えた。今年4月にユニチカが出資比率を50%から65%にまで引き上げ、8月1日付で社名をテイジン・ユニチカ・スパンボンド〈タイランド〉(略称・TUSCO)からタイ・ユニチカ・スパンボンド(略称変わらず)に変更。名実ともにユニチカのSB事業の一翼を担う形となった。帝人グループの出資分も従来の帝人と同社グループのテイジン・ポリエスター・タイランド(TPL)から、帝人ファイバーに切り替わった。
TUSCOは1997年、ユニチカグループと帝人グループとの折半出資(資本金2億2000万バー ツ)により設立。合繊メーカー2社の折半出資という当時では画期的ともいえる取り組みだった。翌年3月から製造を開始したが、1系列はもともと、帝人グループのテイジン・ポリエスター・タイランド(TPL)が所有していた設備。ポリプロピレンSBを生産していたが、ユニチカの手によって改造され、現在ではポリエステルSBも生産。ユニチカが導入した2号機と合わせて生産能力は2系列で年産4000トンの規模を持つ。立ち上がりは順調だったが、収益的には苦戦が続いており、昨年12月には資本金を3億1000万バー ツに増やしていた。
出資比率引き上げと社名変更は、帝人との合弁契約が10年間で「帝人から出資比率の見直し要請があった」ため。事業の重要性から見てもユニチカにとってのSBと国内でSB事業を持たない帝人との位置づけの差は歴然。実質的な事業運営はユニチカが担っており、自然な流れではある。




