解説/帝人商事と日商岩井アパレル合併

2000年09月01日 (金曜日)

 日商岩井の繊維グループと帝人商事が来年四月に合併することが明らかになった。新会社の初年度売上高見通し三千二百億円は、伊藤忠商事、丸紅、住友商事、トーメン、三井物産、三菱商事に次ぐ繊維商社業界第七位の規模だ。合併によるスケールメリットは期待できるものの、商社機能そのものが往年の力を失いつつある中で、新会社がいかに商権を選別し主力市場のアパレル分野で機能を強化していくかが最大の課題となる。

 財務体質の改善を急ぐ日商岩井は「選択と集中」をキーワードに事業の再構築を図ってきた。情報産業部門をITXとして分社し、ニチメンのIT(情報技術)関連子会社四社を買収するなど積極的なIT戦略をみせる一方、建材でもニチメンと子会社同士を合併させ、伊藤忠建材に次ぐ業界第二位の建材専門商社を誕生させた。

 そして今回の繊維の切り離しとなる。同社繊維部門の実力は連結ベースで年間経常利益十億円前後。前三月期は不良債権の償却などで最終損益は赤字だった。過去、ニットや繊維輸出で実力を発揮した同社も、ブランドビジネスやSPA(製造小売り)対応など繊維の主戦場となった分野で立ち遅れ、存在感が希薄になったことは否めない。

 三十日の会見で、今回の合併は約半年前に日商岩井が帝人に持ち掛けたことを明らかにした。日商岩井はBS経営、時価会計対応など新たな指標による経営が問われる中で低収益構造に悩む繊維部門の取り扱いを検討、その結果、鈴木商店をルーツとする兄弟会社である帝人および帝人商事がそのパートナーとして最適との判断に至ったものとみられる。

 この間、日商岩井・繊維グループは羊毛取引からの撤退など事業の選別を実行、繊維事業の再構築に懸命に取り組んできた。今年四月には旧日商岩井アパレルと日商岩井繊維原料を合併して現日商岩井アパレルを発足させた。

 これに先立ち、昨年十月には日商岩井のホーチミン事務所を香港繊維法人、ファッションフォースのホーチミン事務所に統合。そして今年四月にはミラノの日商岩井イタリア会社、同ハノイ事務所を、七月には同大連事務所の繊維部門をファッションフォース傘下に組み入れた。

 さらに来年一月には上海の繊維部門を日商岩井上海会社から分離し統合する。この結果、ファッションフォースは香港を本社にホーチミン、ハノイ、無錫、大連、上海、ミラノを管轄下に収め、その他アジアの繊維関連事務所を統合していく計画だった。今回の合併発表で、こうした日程が加速すると予想される。

 帝人は業界第七位の規模となる商社の発行済み株式の六八%を握る。この結果、新会社に対する帝人の意向が強く働くのは必至で、帝人主導の経営となるのは想像に難くない。しかし、安居祥策社長の日ごろの言動を見る限り、帝人製品取り扱いに対して新会社に優先権を与えても安易に独占権は与えまい。取り扱い商社に機能があるかどうかが最大の決め手になる。

 今回の合併で工業用繊維などに強みを持ち(帝人商事)、アパレル展開でベトナムなど海外生産に強い(日商岩井)繊維総合商社が生まれる。海外戦略では帝人のブランド力と日商岩井の伝統がうまく交われば力を発揮できよう。しかし、主戦場の国内市場は激戦区だ。規模が大きいだけでは存在し得ない。

 圧倒的スケールで業界を引っ張る伊藤忠、健全な財務内容を武器に積極果敢に攻める旧財閥系三社、専門的な知識と小回りを生かした動きで評価を得る蝶理、住金物産など専門商社を含めてライバルがひしめく。しかも流通構造変革の中で「商社不要論」も根強い。これまでの個性を生かしながら新市場の開拓などで統合メリットをどう引き出すか、新社長に就任する堤喜義帝人商事社長と副社長に就く年清彰雄日商岩井アパレル社長に課せられた任務は重い。(溝川彰記者)