技術の眼(1)

2009年04月02日 (木曜日)

 どんな産業でも成長していくうえで技術力は欠かせないものだ。とくに繊維産業のなかで生まれてきた技術は異分野で応用されて広がるケースも数多くあり、産業全体への貢献は計り知れない。「技術の眼~NEW WAVE GENERATING TECHNOLOGY~」では将来的にニューウェーブを巻き起こすような重要な技術になりうるかもしれないものにスポットを当て、紹介する。

東レ合繊クラスター/低温、低湿度化でも効果/制電素材「スーパー“パレル”」

 冬になると嫌なのが静電気。不快感だけでなく、衣服にまとわり付く静電気はほこりも引き寄せる。そんな静電気を抑える生地を東レ合繊クラスターが開発した。静電気の起きやすい低温、低湿度の条件でも高い制電性を発揮するポリエステル裏地「スーパー“パレル”」だ。

 スーパー“パレル”では、東レが開発した特殊制電糸を使用。従来の「パレル」に用いられていた制電剤成分の性質を少し変え、2倍程度含有量を増やすことで、高密度の制電剤成分が「電荷通路」を形成することで電荷を除電する機能が向上、低温でも優れた制電性を発揮する。

 織りと染めの分野では、東レ合繊クラスター参加企業の技術力を駆使。製織では毛羽が出やすいことから低張力下での製織技術が必要であるとともに、染色では色の均整が難しいといった問題点も克服し、裏地用途に向けた紡糸から高次加工までの一貫的な生産体制を構築した。

 従来の制電裏地はJIS規格の標準条件である20℃×40%RHの環境下でその性能を発揮するが、それよりも極端に低温、低湿度となる条件では十分な制電性能を得ることが難しいとされてきた。スーパー“パレル”では従来の標準条件よりも過酷な10℃×10%RHという低温、低湿度の環境でも制電性能を高レベルに保つことが可能。幅広い気候変化に対応し、静電気の不快なパチパチ感や裏地のまとわりつきを軽減できる。

 生地値はパレルに比べ2割ほど高くなり、1メートル当たり200円程度となる。

 東レ合繊クラスターでは「ナノテク素材分科会」を中心に開発中の特殊な加工を組み合わせることで、もう一段の性能向上や、防汚、撥水などの特殊な機能を付加することも検討。裏地だけでなくスポーツ、カジュアル、ユニフォームなどの表地用途に対する商品開発も進める。

旭化成せんい/シリーズ9番目の機能糸/まとう深色「ロイカDS」

 旭化成せんいは、これまでスパンデックス繊維「ロイカ」で様々な機能糸を開発してきた。ソフトパワー&高伸度・高回復性の「ロイカHS」、高セット性能の「ロイカBX」や吸湿・放湿性能の「ロイカBZ」、消臭性能の「ロイカCF」、高耐塩素性能の「ロイカSP」、高耐熱性・パワー保持の「ロイカHP」、耐黄変性能の「ロイカFW」、熱合着生能の「ロイカSF」とバリエーションに富む。

 そして昨年、9番目に開発された素材が「ロイカDS」だ。ロイカDSの特徴としては酸性染料に対して染着性を飛躍的に高めながらも、高い堅ろう度を保てる「世界で初めてできた」スパンデックス。ナイロンなどとの交編生地でも、ナイロン100%生地と同程度で染めることができるため、幅広いカラー表現ができる。

 ナイロンとの交編トリコットを黒で染色し、モールド加工(生地の熱処理による立体加工)したときも、ベース素材との同色性が高まり、生地での目ムキ、ギラツキ状態を軽減することが可能。生地での深色性が向上したことで、薄地のベア天など、スパンデックスが表面に出やすい生地規格でも効果を発揮する。

 すでに欧州では拡販を進めており、モールド加工のブラジャー用途へは評価が高く、今春夏向けから輸出を始めている。現状ロイカのインナー用途での生地輸出は4~5%にとどまるが、早期に10%まで高める。

シキボウ/椰子殻で天然の光触媒/新しい環境配慮型素材

 シキボウが開発した椰子殻などを樹脂に練り込んだプラスチック成形用複合材料「CCNグリーンペレット」は、植物の持つ「光触媒抗菌性」などの性能を持った新しい環境配慮型素材だ。椰子殻のセルロースを主体とする部分をポリプロピレンに51%練り込んだ「CCNC51/PP」と、椰子殻のポリフェノールを主体とする部分を同じく51%練り込んだ「CCNP51/PP」の2種類を打ち出している。

 CCNC51/PPは、セルロースが本来持つ光触媒抗菌性を複合材料成形品に発現させることに成功した。JIS規格に基づく光触媒抗菌性能試験では黄色ブドウ球菌を対象に光触媒抗菌活性値4・1、光照射効果3・3という結果だった。またCCNP51/PPは、ポリフェノールが本来持つ抗菌性を成形品に発現させることに成功。こちらもJIS規格に基づく抗菌性能試験で黄色ブドウ球菌を対象に抗菌活性値2・3という結果を得た。

 強度もポリプロピレン単独と比較して曲げ弾性率が約2・5倍に向上し、曲げ強度は約1・6倍に向上する。紫外線による強度劣化への耐候性も向上。紫外線を1250時間照射する耐候性試験ではポリプロピレン単独では曲げ強度が43%低下したのに対し、CCNグリーンペレットは16%の低下に止まった。そのほか、バイオマス原料を使用しているため、石油由来原料の使用量削減の効果も大きい。

 主に飲食店や宿泊施設、病院、介護施設などで使用する食器、はし、トレーなど調度品、テーブル、幼児用玩具、公共施設の備品など細菌が増殖しやすく、不特定多数の人が手に触れる物への用途開拓に力を入れる。

 同社はこれまでも椰子の実(ココナッツ)からジュース、果肉、油脂を採取した後に残る椰子殻を有効利用したココナッツ繊維の開発に成功するなど環境配慮素材の開発に力を入れてきた。琵琶湖の葦を椰子殻の替わりに51%練り込んだ「BRED51/PP」の開発も進めている。

クラボウ「QWON」/キュプラ改質、機能付与

 クラボウが旭化成せんいとキュプラ繊維「ベンベルグ」を使った共同開発・販売プロジェクトである「J―ファイバー」から新たな素材を生み出した。「QWON(久遠)」。

 ベンベルグ短繊維をわた段階で改質し、消臭機能や吸湿発熱性を発揮するもので、クラボウ独自の原綿改質技術であるMRT(マテリアル・リフォーム・テクノロジー)を活用したものだ。国内外通じてJ―ファイバーの大型素材に育成する。

 QWONは第一弾として、消臭性を有する「QWON FRESH」を開発。続いて吸湿発熱性を持つ「QWON WARM」を商品化する計画を組む。

 ともに、ベンベルグ短繊維40%混以上で、それぞれの機能を発揮するという。

 消臭タイプはインナー、ソックス、寝装向け、吸湿発熱タイプはインナー向けを想定しているが、幅広く展開していく構えだ。

 J―ファイバーは0・6デシテックスのベンベルグ短繊維など細繊度化や他素材との組み合わせることで、様々な糸や生地を開発しているが、原綿改質により機能性を付与したものの開発は初めて。

 キュプラ繊維そのものが練り込みや断面変更が難しいだけに、各種の機能性を付与するのは簡単ではない。

 しかし、QWONで活用した独自のMRT技術を応用すれば、消臭性や吸湿発熱性などにとどまらず様々な機能性の付与できる。

 同社ではJ―ファイバーにおいて核になるブランドと位置づけており、今後、各種機能素材の登場が期待される。

ワコール/夏の新インナー「スゴ衣」/横に拡散、汗じみ防ぐ

 肌着不況の中、防寒肌着として07秋冬発売されたワコールの肌着「スゴ衣」は、マイクロアクリル糸とマイクロナイロン糸を使い“薄い、軽い、暖かい”を訴求、07秋冬93万枚、08秋冬で144万枚を売り上げるヒット商品となった。09春夏はそのスゴ衣から、夏素材を使ったスゴ衣が登場する。

 肌着需要は秋冬と春夏で7対3とされ、夏肌着の需要促進が各社の課題でもあった。夏用肌着に求められる要素として、ワコールが着目したのは脇の汗。10~50代女性654人に行った調査では「汗に関して気になる悩み」に68・8%が「汗じみ」と回答、「汗をかいたとき気になる体の部位」には85・5%が「脇」と回答、これらのニーズから汗じみを解消する新機能肌着の開発を進めた。

 商品の特徴は素材にある。肌側は吸水性を保ちながら、水分を横方向に拡散させ表面に水分がうつりにくい、通気性のある特殊な撥水加工を施した。これにより汗じみが表面に出にくくムレにくい機能を実現。スーピマ綿95%混の風合いのよいベア天竺素材で、綿そのものの肌触りと快適性を生かす。

 肌着だけでなく、アウターとして着用できるTシャツタイプや男性、ジュニア、マタニティ用もそろえ、今春夏合計で55万枚(うち婦人54万枚)の販売を計画。08秋冬に続く家族展開で夏肌着の市場シェア拡大を図る。

 肌着は冬の防寒用だけでなく、夏の汗ばむ季節を快適に過ごすアイテムとして、オフィスの冷房対策や気温差の激しい梅雨時期にも注目が高い。今夏はユニクロ、GMSのPBインナー強化など参入も加速。夏の肌着商戦から目が離せない。