帝人・ポリエステル繊維事業/松山からタイへシフト

2009年08月05日 (水曜日)

 帝人は4月に打ち出した「経営基本方針」の一環として3日、ポリエステル繊維事業の構造改革を発表した。同方針では、課題事業の構造改革を「グローバル最適生産体制の構築」「不採算事業の抜本見直し」という観点で進め、10年度当期純損益黒字化を目指していた。今回の構造改革では松山事業所のポリエステル生産を中止し、タイに生産移転するなどの策が盛り込まれた。

新SCに向け機構改革も

 亀井範雄帝人常務(帝人ファイバー社長)は、「90年代は新合繊も登場し、市場も大きく育った。しかし、2000年代はトレンドも変わり、カジュアル化の中で差別化したファッション衣料素材でも量を確保できなくなった」と背景を語る。こうした変化に「生産拠点のシフトなどが十分でなかった」ことが、ポリエステル繊維事業の大幅な営業赤字を招いたとする。

 このため、海外工場への一段の生産シフトによるコスト削減、グローバル最適生産・販売体制を構築する。これまでの各拠点別の生産・販売から、グローバルに統合された生産・販売体制に再編する考えだ。

 長繊維事業では、10年度末までに国内唯一の生産拠点である松山事業所のポリエステル長繊維の生産(年産能力6万5000トン)を中止し、タイのグループ会社に集約。テイジン〈タイランド〉(TJT)、テイジン・ポリエステル〈タイランド〉(TPL)が原糸の基幹工場となる。

 短繊維事業は、10年度に松山の生産(年産能力1万3000トン)を中止、徳山事業所に生産を一元化し、海外はタイの生産を拡充、国内外でのプロダクトミックスの最適化を図る。

 工業繊維事業は、11年度までに岩国事業所の不採算分野の生産を縮小。原料重合事業は、国内のポリエステル繊維向けの重合生産を停止し、タイに移行する。

 ポリエステル製品の原料リサイクル事業は継続するが、徳山のリサイクル生産を09年度に停止し、松山での繊維to繊維リサイクルに集中。ケミカルリサイクルは松山に残すが、チップはタイで作ることになる。

 研究開発では、松山が先端素材開発の中核拠点、タイは市場ニーズに迅速に対応する新商品開発拠点として位置づけた。

 さらにテイジン・モノフィラメント・U.S.と帝人ネステックスの解散・清算を決めた。

 亀井常務は「現在の生産・販売量からは少なくなるが、安定的収益事業に転換させるためだ。糸わたを収益とするのではなく、製品まで含めた新たなサプライチェーンを作っていく。秋を目標に国内外横断の重点市場・重要顧客対応型組織への組み換えを行う」とし、「高機能+エコ分野での再生を」図っていく。

解説 合繊業界大きな転換期/国内生産撤退相次ぐ

 帝人がついに決断を下した。3日発表したポリエステル繊維の構造改革は、ポリエステル長繊維の国内生産撤退という思い切った内容となった。ユニチカファイバーのナイロン長繊維、旭化成せんいのポリエステル長繊維の撤退など合繊業界では構造改革の発表が相次ぐ。ほかにも国内生産撤退がうわさされる。合繊業界は大きな転換期を迎えている。

 帝人は国産第2位のポリエステル長繊維メーカーだが、国内生産撤退に対し「想定内」という声が関係企業から聞こえる。日本化学繊維協会によると、国産ポリエステル長繊維の2008年ミル消費量は16万3200トン。04年の25万4000トンに比べて35%減であり、国内需要は大きく落ち込んでいる。

 需要減に原燃料価格の乱高下も加わり、帝人のポリエステル繊維事業は赤字が続いていた。それだけに、今回の決断は自然な流れかもしれない。

 需要家である北陸産地企業からも「予想したよりも早かったが、考え方は分かる」との見方が多い一方で「困るのも事実。輸入糸も含め対応策の検討を急がねばならない」との声が挙がる。

 生産をとめる松山事業所のポリエステル長繊維代替策として、タイ子会社へ生産を移管する。帝人は02年9月、松山事業所のポリエステル長繊維の生産能力を4割削減。タイ、インドネシア子会社に生産移管した際、品質トラブルが発生した。それだけに、今回の移管に関しては慎重を期す。「受け入れるタイ子会社の技術力も高まっており、日本人技術者のタイへの派遣、タイ従業員の日本での研修なども準備している」と言う。

 ユニチカファイバー、旭化成せんい、そして帝人。相次ぐ国内生産からの撤退は日本の合繊業界の大きな変化を表す。

 ただ、国内生産撤退を関連企業が当然のように受け取る風潮が強まっていることが懸念される。

旭化成せんいのOEMは何も変わらない

 旭化成せんいはポリエステル長繊維生産撤退により、帝人ファイバーへ生産委託することを明らかにしているが、帝人では「タイからの供給になるが、旭化成せんいからの受託生産は何も変わらない」としており、旭化成せんいも「アライアンスに影響はない」とコメントした。