誕生秘話・ダーウィンの海を越えろ/帝人・「バイオフロント」(下)更に環境にやさしい素材に

2009年10月08日 (木曜日)

 帝人は耐熱性バイオプラスチック「バイオフロント」の開発に関して、ポリマーを購入して生産するのではなく、ポリマーの原料を作る段階から研究に入った。開発に関わってきた豊原清綱氏は「難しい道を選んだ分、独自性を出すことに成功した」と振り返る。04年にポリマーの研究をスタートさせ、1年後にその技術を確立。基礎段階を終えた後は商品開発が加速し、07年にマツダとの共同開発によるカーシートを発表。その後も、メガネフレームやボタンなどを商品化していった。

 ポリマーの開発は「10年仕事」とも言われるが、研究を開始して約5年でこの段階まできた。相当な急ピッチで研究を進めたわけだが、背景には環境問題への注目が年々高まっていく中で、「タイムリーに打ち出さなければならず、タイミングが遅れては意味がない」という思いがあった。

 豊原氏はこのような短期間で商品化にこぎつけることができた要因を2つ挙げる。1つは木村良晴教授、武蔵野化学研究所という帝人にない知見を持つ良いパートナーに恵まれたこと。そして2つ目は組織の面にある。持ち株会社制を敷く帝人の中で、PLAには繊維、フィルム、樹脂の事業が関わってくる。それぞれが専門分野で力を発揮するとともに、帝人のHBM推進班が全体をマネジメントする形で、グループの力を結集した。

 豊原氏も「ポリマーの研究に集中できた」と研究の経過を振り返る。HBM推進班での研究は前のテーマであった生分解性ポリエステルを含めて4人の体制でスタートしたが、ある段階からPLAに集中。プロジェクトの進捗とともに人員も拡充していった。

 バイオフロントは耐熱性・耐久性という課題をクリアすることにより、PLAにとっての新しい領域に展開することを可能とした。今後は「耐熱性」「結晶性の高さ」などの特徴が生きる用途へ広げていく段階に入り、個々の用途に求められるニーズに応じた開発に取り組んでいく。例えば電子部品分野へ広げていく予定もあるが、ここではエンプラに近いレベルにまで耐久性を高めることが必要になる。

 また、より「環境にやさしい」商品にするための研究も重視しており、生産プロセスの短縮化、エネルギーの回収・再利用のほか、LCA(ライフサイクルアセスメント)の視点から非可食の原料に変更することなども視野に入れて研究開発に取り組んでいる。