繊維機械特集/日本の繊維産業の変革を材料で支援

2010年05月25日 (火曜日)

 日本の繊維産業を取り巻く環境は厳しい。しかし、独自の技術と発想で道を切り開こうとしている企業は少なくない。そんな企業にとって機械メーカーは、重要なパートナーだ。機械メーカーにとって日本はもはや、販売規模の拡大を期待できる市場ではない。しかし、日本のユーザーの挑戦を機械の工夫で手助けすることは、自らの技術力を高めるうえでも有意義だ。日本の繊維産業への機械メーカーの販売戦略を紹介する。

化合繊製造機/中国向けにはない提案

 「中国の台頭で、成熟から縮小均衡に向かっている日本の合繊機械市場において、当社が提供する超多エンドのテイクアップワインダーを合繊メーカーが採用することは今後も難しい」。合繊製造機メーカーのTMTマシナリーはそう語る。

 同社は、日本の合繊メーカーに対して、(1)既存設備の錘間ピッチを変更することなく入れ替えできるワインダー、(2)エネルギーコストを抑えLowDPF糸が生産できる紡糸設備の改造、(3)旧設備を長く使用してもらうための制御の改造、(4)ニッチ市場に対応した特殊低速ワインダー等を中心に販売していくという。

 また、北陸の仮撚市場に対しては、従来販売のメーンであったロボット型オートドッファーではなく、単錘型オートドッファーを搭載し自由な巻き形状が制御盤で設定できる単錘ベルトトラバース、新開発単錘駆動ニップツイスターを仕様に加えた新機種を中心として販売する。

 ノズル製造の化繊ノズル製作所は、高機能繊維用ノズルの製作販売や、自社パイロット設備での特殊ノズルの独自開発に力を入れている。IT、医療、環境分野に対しても、微細孔が必要とされるパーツやユニットの販売を強化する。

 日本ノズルは、同社が得意とする湿式紡糸ノズル、乾式紡糸ノズル、スパンレースノズルの分野でのシェア拡大を目指す。紡糸の性能を左右するノズルパックの設計技術で顧客のニーズに対応し、「生産性を向上させるためのお手伝いをする」という。

紡織機/高品質、多品種化に対応

 村田機械は、「高品質と差別化によって繊維業界のトップを維持し続ける日本国内の顧客に対して、あらゆる糸種に対応できる機械を提供し続けなければならない」との姿勢を示す。その提案の一つが、今回のITMAアジア+CITME展に出展する各種スプライサーを搭載できる「21C」ワインダーだ。この導入によって「あらゆるビジネスに対応できるフレキシブルな体制を持っていただきたい」と語っている。

 豊田自動織機は、エアジェット織機について、生産コストを一層低減できるような生産性の高さを追求するとともに、高い技術を持ったユーザーの固有の要望に「短期間で応えることができるような機能を備えた装置」の開発に取り組む方針だ。

 産業資材分野には、金属製品に代わって繊維製品が採用される可能性がある部分もある。津田駒工業は、「たとえば、その分野に注力しようとしているユーザーさんと一緒にやっていくことで、新たな展開も出てくる」と指摘する。

 織布分野では、多品種、小ロット、短納期化が一段と進み、これに伴って準備工程でのロスが大きな課題になっている。藤堂製作所はこれに対応するために、多品種小ロット対応型のコーン式オートドローイング機「織鶴」を提案している。これを採用すれば、「生産ノルマの達成が可能になり、新規開発着手にも寄与する」と同社は語っている。また、長繊維分野における経糸の極細化にも着目し、新型リージング機も開発した。新たな分離方式を採用することで極細糸への負担を可能な限り減らして糸切れを防止したことに加え、2本取り防止機能も飛躍的に向上させた。

編み機/労働集約型からの開放

 福原産業貿易を中核とする福原グループの日本の丸編み機市場におけるシェアは80~90%だ。同グループの丸編み機月産能力は100台前後。その1割ほどを、日本の顧客向け生産に充てている。この割合は「過去何10年間、変わっていない」。ただ、売れ筋の機種は当然ながら変化している。日本のニッターが生き残るには、中国ではできないモノ作りを目指すしかない。当然ながら、機械に対する要望も高度化、かつ多様化している。同社はこの要望に対応し続けている。

 島精機製作所のホールガーメントは、繊維産業を労働集約型産業から開放することを狙って開発された。このハードに加え、見本反の確認をバーチャルでできるソフトも開発した。加えて、期間限定ではあるが百貨店と組み、個人の希望を聞いてそれを製品にすることを試みている。可能性のあるビジネス・モデルを作り出すことが機械の普及につながると考えているからだ。

欧州メーカー/日本拠点通じ多彩な支援

 「スルザーテキスティール」などのイテマウィービング社製織機を日本市場へ販売しているイテマウィービングジャパンの販売台数は、08年に前年比15%減となり、09年はリーマンショックの影響で同40~50%の大幅減を余儀なくされた。

 ただし、シェアは落ちていないようだ。同社が入手した資料によると、09年に日本に据え付けられた“ジェット・ルーム以外の織機”は40数台。このうち80%以上は同社が販売したものだという。

 今年3月以降、今治タオル産地から、同社のレピア織機「スルザーテキスティールG6500F」に対する引き合いが増えている。関心を示しているのは現在のところ小、中規模メーカーだという。既に3件との契約を終えた。進行中の案件も2、3件ある。今治タオル産地以外では目立った需要回復傾向は無いが、資材関連メーカーへのピンポイント提案で数件の成約を得た。カーシート向け販売にも期待している。

 スイスを本拠とし繊維機械用装置等を製造するストーブリグループの日本法人、ストーブリの主力商品であるドビー機、カム機への需要はリーマンショック後に大きく減退したが、昨年5、6月を底に回復。現在ではリーマンショック前の7割ぐらいの水準まで戻っている。

 90年代前半にタオル用途だけで年間100台を販売した同社のジャカード機への需要は97年からかげり始めた。車両用内装材向けに回復傾向が出たものの、それもリーマンショックで減退し、底ばい状態が続いている。ただここにきて、多品種化を図るために、更新しようとする動きが出てきたという。

 同社は、ユーザーの協力を得て、ユーザーの工場で同社装置を稼働させて見せる “オープンハウス”の開催に力を入れている。これまで北陸、尾州で開催してきたが、5月には桐生でも始めて開催する。開催の目的の一つは、同社の装置をアピールすることにあるが、それだけではない。「技術と意欲を持つ企業の交流の場」にしたいとの思いもある。

 桐生産地で開いたオープンハウスでは、ジャカード機「DX100/2688口」を実演したほか、新型のジャカード機「UNIVAL100」、タイイング機「TOPMATIC」なども展示した。「DX100」は、コンパクトなことや、針の付け替えがカートリッジの着脱で簡単にできることなどが特徴。5年ほど前に発売し、日本では50台ほどの販売実績がある。「UNIVAL100」は、経糸1本ずつをサーボモーターで動かす設計になっているため、織機の性能を最大限に引き出すことが可能で、またリピートの制約を受けずに柄を描き出すことができる。03年に発売され、世界では50台、日本では2台の販売実績がある。エアバッグ織布用などとして用いられている。

 伊藤忠システックは、ドルニエやバァンデビーレのレピア織機、ボーナスのジャカード装置など欧州の機械に加え、福原精機の丸編み機など多彩な機器を日本市場へ提案している。紡績から仕上げ工程までの10人の専門スタッフを擁して行っている技術サービスも同社の魅力だ。

 10年3月期の売上高は前年比30~40%減を余儀なくされたが、「これが底」だとみる。今年度は09年3月期の水準まで戻す方針だ。福原精機のハイゲージ丸編み機の産業資材分野への展開や、ドルニエが開発したエアジェット織機など、期待材料もある。ドルニエのエアジェット織機については4月に1号機を納品した。自動車関連、人工皮革関連向けにも期待の機種をそろえた。