需要伸ばす「三菱パイレン」
2000年12月18日 (月曜日)
需要伸ばす「三菱パイレン」
三菱レイヨンのポリプロピレン(PP)長繊維「三菱パイレン」は年々、事業規模を拡大している。九六年度に四千八百トンだった生産量は九九年度に六千百トンになり、今年度は六千七百トンを見込む。これまではスクラップ&ビルドなど能力増強で対応してきたが、需要が増加しているカーペット用に年産千トンのワンステップ紡糸増設を決め、来夏から立ち上げる予定。二〇〇一年度は七千五百トンを計画し「さらに一万トン体制を視野に入れ、収益力強化を伴う増産増販を進める」(坂本信一郎繊維資材事業部長)構えである。
*年1万㌧への増設視野
PP長繊維の生産規模は九九年で約五万四千トン。最大品種であるポリエステル長繊維の六分の一にも満たない小型繊維だが、生産者の数が多く構造的な供給過剰に苦しむ三大合繊を尻目に生産量は右肩上がりを続けている。
今年、モノフィラメントなどを除くマルチフィラメントの生産量は一万一千トン規模と推定されるが、そのうち「パイレン」は約六割のシェアを占める最大手である。
「パイレン」はこの四年間で四割増産となるが、けん引役はタイルカーペットや自動車用オプションマットなどカーペット類だ。タフトカーペット用の素材需要は決して増えているわけではない。業界推定では九六年に七万九千五十五トンだった投入量は九九年に六万八千五百トンと約一三%減少。三大合繊の場合、ナイロンは一六%、アクリルは一四%、ポリエステルは一九%ぞれぞれ減らした。
ところがPPは唯一三六%増やし、素材別シェアは七%から一〇%に高まっている。コストパフォーマンスに加え、極細糸や機能性付与などの商品開発が市場から認められた格好。「パイレン」はその先頭を走る。
坂本事業部長は、今後バブル期の敷き替え需要も期待できるとしながらも「カーペット市場全体が大きく伸びることはない」と厳しい認識を示す。そのうえで「コストパフォーマンス、品質、機能性などをより高めていくことが素材間競合に勝ち抜くカギになる」と語っている。
今回、増設を決めたカーペット用ワンステップ設備は伊フィルテコ社製の超高速機。着色、紡糸から延伸、捲縮加工だけでなく、二色以上の原糸に撚りをかけずに絡み合わせ混繊糸にする(インターミングル)工程まで一貫生産できるという。
*地球環境に優しい素材
年産一万トンを視野に入れた「パイレン」拡大戦略では、カーペット用途での増販に加え、新規用途開発が重要課題になっている。従来、カーペットと並ぶ用途だった資材分野では、学童鞄の製品輸入が増え、細幅織物需要が減少するなどしているからだ。
新規用途開拓では、分子構造が単純でリサイクルしやすいという特徴を生かし「地球環境に優しい素材」を前面に打ち出す。
すでに内田洋行、イトーキ、岡村製作所などオフィス家具メーカーは、いすの骨材をPP樹脂、いす張りを「パイレン」と、オールPP素材での商品展開を始めており、今後官公庁や大手企業向けの大量受注が期待される。
また自動車内装材も有望。ドアトリム、インパネなどはPP樹脂化が進んでいる。内装材は直射日光を受けるため、従来のPP繊維では難点があったが、同社このほど耐光性の強いタイプの開発に成功した。オフィスいすと同様に、樹脂と組み合わせて使うことで、使用済み品の一体リサイクルが可能になった。自動車メーカーからの関心が高いという。
坂本事業部長は「二十一世紀は地球環境保全、エコロジーがキーワードになる。生産段階から環境負荷が他の合繊に比べ小さく、リサイクルしやすい『三菱パイレン』はうってつけの素材だ」と強調する。
また、繊維の中で最も軽い(比重が水より小さい)、全く水を吸わない、防汚性にも優れるなどと物性を生かし、介護用品での需要開拓にも力が入る。九月、東京で開かれた国際福祉機器展に「『パイレン』コーナー」を出展。車いすや便座カバー、入浴用スリングなどの製品を展示し注目を集めた。
<ユーザーと「三菱パイレン」>
*アスワン
イス張り地で高い評価
アスワンが「三菱パイレン」を素材としたイス張り生地をオフィス・ルートへ向けて提案し始めたのは五年前のこと。同ルートが採用しているイス生地の多くはポリエステル製だが、同社はあえて、「パイレン」に焦点を当てた。
提案に至るまでには三年間を要した。産元、アスワン、三菱レイヨンの三社でプロジェクト・チームを組み、織りに適する細く柔らかい糸を開発するところから始めた。専用糸だから、安くはない。「量が増えれば別かもしれないが、今はポリエステルよりも高い」と、中村由久ファニシング営業部長は苦笑する。それでも、同社の提案は評価された。OEM供給している「パイレン」製生地は現在、五十柄四百点に達している。これは、同社がオフィス・ルートへ供給している全イス生地種の六割に相当する。(1)汚れがつきにくく、かつ落としやすい(2)リサイクルが容易(3)製造時の環境への負荷が低い―ことなどが顧客から評価されているそうだ。
「オフィス・ルートへのポリプロピレン製品の提案ではナンバーワンだとの評価をいただいている」と中村部長は自負する。このような高い評価を得たことで同社は、厳しい市場環境の中でシェアの上昇を果たした。家庭向けも含めたファニシング営業部全体の業績はこの三年間増収で推移しているという。しかも、ここへきてオフィス市場自体に活気が出始めているそうだ。当然ながら、さらなる躍進を狙う。
*東リ
タイル敷物の売れ筋に
「GA400」。東リが製造しているタイルカーペットの一つである。タイルカーペット製造最大手の同社にとって二番目に生産量が多い商品だ。この商品のパイル素材が「三菱パイレン」である。また、一般消費者でも施工できる住宅用タイルカーペット群「パネルカーペット」の代表品種、「アタック300」にも、「パイレン」が使用されている。
「GA400」の上代は、一平方メートル当り五千三百円。価格訴求力があることと、価格の割に品質がいいことが評価され、その需要は拡大傾向が続いている。「ハード用途には勧めていないが、サブ・ユーザーの中には、ハード用途にも使えるとの声がある」と、カーペット事業部の古川恵一商品企画部長は言う。加えて、三十色という多色ぞろえを行っていることも、この商品の訴求力を高めているようだ。
「パネルカーペット」は、住宅専用に開発された商品群。今年四月に発売した「アンパンマン」キャラクターを含め、現在六品種をそろえている。「パイレン」使いの「アタック300」は、その中の売れ筋。これだけで、「パネルカーペット」全販売量の半分を占めると言う。その「300」の売れ行きの増加傾向が、今年四月以降鮮明になっている。家庭向きの明るめの色で十四色そろえた効果が「じわじわ浸透してきた」ことに加え、「アンパンマン」品と「300」を組み合わせて使うことを提案したことなどが奏功していると古川部長は語る。
*キョーワ
養生ネットすべてパイレン
「当社が販売を開始後二年で養生ネットのすべてが〝パイレン〟使いに置き換わりました」。仮設建設機材メーカーであるキョーワの吉野正人常務はいう。同社が「パイレン」を養生ネットに採用したのは十七~十八年前。それまで使用していたポリエステル、ナイロンからすべて置き換えた。その理由について、吉野常務は(1)原着による発色性の良さ(2)比重0・91と軽い(3)吸水性がないため寸法安定性に優れ、重くならない――などをあげる。
三菱レイヨンでもキョーワが求める強力、耐候性を改善させた結果、業界初のポリプロピレン製養生ネットが誕生する。通常、十五階建以上の高層建築では足場を設置できず養生ネットを使用している。
しかし、ますます高層建築が増える一方で、とび職の高齢化が進み、技術的にも未熟な若年層が増えている。その面で養生ネットの重要度は高まっており、とくに軽量性や非吸水性という特長をもつ「パイレン」製は建設現場で取り扱いやすいというメリットがある。
同社では「軽量化だけでなく、建築作業現場の美観が重視される中、原着による発色性の良さも武器になる」として、養生ネットだけではなく「パイレン」による新用途も探索中。同社と三菱レイヨン、さらに網加工場は定期的に合同会議を開き「各段階での課題をものづくりにフィードバックさせ、同業他社より一歩先んじる」体制を敷くだけに、三位一体での新たな用途開拓にも期待できそうだ。