用途は無限大「マジックテープ50周年」(1)新規用途開拓で事業拡大

2010年09月27日 (月曜日)

 クラレファスニングの面ファスナー「マジックテープ」(クラレの登録商標)が今年10月に50周年を迎える。発売当初は目新しいファスナー(留め具)のため、登場してから現在の事業規模を築くまでは新規用途開拓と新商品開発の歴史であり、各年代で事業を支える用途が誕生してきた。本連載ではこれまでの用途開拓への取り組みとともに、今後の成長を支える新商品・新規用途開拓を紹介する。

 面ファスナーはスイスのジョルジュ・デ・メストラル氏がゴボウのイガにヒントを得て発明した。ゴボウのイガが衣服に引っ付いてなかなか離れないのは、かぎ状のイガが衣服のループにひっかかるためだが、その仕組みを微小な鉤(フック)と輪(ループ)を持つ2本のナイロン細幅織物で再現して、合わせるだけでピッタリとつく留め具を開発しようとした。この考え方に賛同したのがスイスの織機製造業者ヤコブ・ミューラー氏で、両氏が工夫を重ねながら開発に成功し、1960年に特許が権利化された(出願は58年)。

 日本では同年4月にクラレファスニングの前身である日本ベルクロが設立された。そして同年9月には森藤商店(現モリト)が総発売元となることが決まり、10月から「マジックテープ」の商標で工業出荷を開始。そこから新規用途開拓・新商品開発を重ねて現在の事業規模を築き上げた。上山剛社長は成功の要因について「1つは『マジックテープ』という分かりやすい名称と先輩方のしっかりした商標管理。そして各年代に開発・販売の両面でポイントとなる人がいた」と話す。

 歴史を振り返ると、60年に「マジックテープ」は当時の日本では馴染みがない画期的な新商品として登場したわけだが、発売当初から順調に売れたわけではなかった。ネックとなったのは価格の高さ。77年から「マジックテープ」の販売に関わってきたモリトの大山修平常務によると「最初の数年はまったく売れず、社宅などまで在庫が積まれたと先輩方から聞いている」という。

 流れが変わったのは64年で、この年に新幹線のヘッドレストカバーに採用された。従来、類似用途にはホックが使われていたが、着脱が簡単で清掃の効率化が図れる「マジックテープ」に切り替わった。この用途は「人の目につく」ということでも効果が大きく、他用途に広がる起爆剤の1つとなった。また、組織面では同年に倉敷レイヨン(現クラレ)が日本ベルクロの全株式を取得し、新体制で事業を再スタートさせている。

 新幹線への採用を機に低空飛行を脱した後は、現在まで右肩上がりで成長を続けてきた。新幹線の後には血圧計の腕帯やスニーカーなど各年代で事業を支える用途が誕生した。大山常務によると、現在の販売量は当時の6倍の規模。顧客から「こんな使い方はできないか」という提案も受けながら様々な用途に広げていった。