2010秋季総合特集4Top interview/TMTマシナリー社長・美濃和彦氏/日本製だからこその信頼性
2010年10月28日 (木曜日)
合繊機械メーカーのTMTマシナリーは、アジア市場での旺盛な需要を背景に売上高を順調に伸ばす。美濃和彦社長は「新興国では内需が拡大している上に、現地素材メーカー同士の競争が激化しており、それが旺盛な設備更新・増設需要につながっている」と指摘する。化合繊機械は、大量生産用プラントである以上、品質の安定が絶対条件。だからこそ同社は「心臓部の機構は、国内でしか生産できない」と強調する。その技術力を基盤に、引き続き開発を推進する考えだ。
省エネ・省人化の開発推進
――合繊機械の需要が旺盛です。
おかげさまで今期は売上高が約480億円に達する見通しです。当社は2002年に東レエンジニアリング、村田機械、帝人製機(現ナブテスコ)が共同出資して設立したメーカーですが、設立直後の03年の売上高480億円が過去最高の数字でしたから、今期はそれに並ぶ勢いです。
この流れは、08年ごろから感じていました。もともと合繊機械は、設備関連産業の例にもれず、だいたい4年おきに需要の浮き沈みがあります。当社も03年に売上高480億円だったものが、05年には売上高が180億円まで落ち込み、収益面でも大赤字になるといった経験をしました。そのパターンで見れば、08年は苦戦を予想していました。ところが実際は、予想外に需要が落ちませんでした。そして09年後半から中国を中心に大幅な設備投資が始まります。これは“リーマンショック”以降も変りませんでした。このため現在、12年上期まで成約が埋まっており、実際の受注残も1年分ある状態です。とくにテークアップワインダーが受注の中心ですが、糸加工機も受注額は100億円規模になっています。ただ、現在の円高の関係で採算面は厳しくなってきました。
――需要拡大の要因は何でしょうか。
中国の場合、まず合繊はじめ繊維の内需がものすごい勢いで拡大していることです。加えて政府が省エネルギーや環境対策として環境負荷が大きい、あるいは環境対策が不十分な老朽設備を強制的にメーカーに廃棄させており、その更新需要が出てきたわけです。また、合繊メーカー同士の競争が激化していることから、各社とも生き残りのために最新鋭の設備を導入するによる生産規模拡大、効率化でコストダウンと生産品種の高度化・差別化を進めているわけです。こうした動きがポリエステル中心に起こっており、ナイロンでも同様の動きが起こっています。
――中国市場以外の状況はいかがですか。
インドも好調です。もともとインド市場は、競合メーカーであるエリコン・バーマーグの牙城であり、これまでは当社は中堅以下のメーカーにしか機械を納入できていませんでしたが、ようやく大手合繊メーカーへの納入に成功しました。インドでは大手合繊メーカーへの納入実績に大きなインパクトがありますから、これを足がかりに今後も積極的に提案を進めていく考えです。また、韓国や台湾の合繊メーカーも増設に動いており、こちらも市場環境は良好です。
――ただ、円高が大きな問題ですね。
まったくその通りです。今期は1ドル90円で計画を立てていたのですが、予想を上回るレベルで円高が進みました。もちろん、原材料の調達で円高も一部はメリットもあるのですが、それ以上に円ベースでの収益に悪影響を及ぼしています。当社は基本的に円建てで契約しているのですが、今期は一部をドル建てに変更することでリスク分散も図りました。それでも、最終的には円に転換する必要があるので、対応に苦慮しているところです。
――今後の見通しをお聞かせください。
楽観的に見れば、中国では今後も1人当たりの繊維使用量は増加していくでしょうから、現在の流れが続くと考えることができます。ただ、あまりに急激な増設が続いていますから、反動がきたときは大きい。そこが心配な点です。また、中国の機械メーカーが最近、インドや中東市場に進出してきました。ここで彼らが納入実績を積んでいくことになりますから、将来的には当社にとっても怖い存在になってきます。そうなると、今後は、こちらから売りに行くのではなく、ユーザーが買いに来ていただけるよう機械を開発していかなければなりません。
――どういった開発の方向性がポイントになるのでしょう。
直近のテーマは、省エネルギーと省人化です。とくに中国ではエネルギー事情の悪化と労働力不足が深刻化しているため、この二つのニーズに圧倒的なものがあります。一例を挙げると、最近、あるメーカーに納入した機種は、完全自動機です。当然その分、価格は高くなりますが、それでもコスト的にメリットがあると機械のユーザーが判断するほど、現地では人件費の高騰が深刻な問題になっています。
長期的には、革新プロセスの研究も進めなければなりません。例えば仮撚り機の場合、現在使われているFDYの加工プロセスは、開発されてから30年が経過します。その間、高速化や大容量化、自動化など様々な進化がありましたが、基本的な加工プロセス自体は変化していません。そろそろ、プロセス自体の変革に向けた研究をしなければなりません。これはテークアップワインダーでも同じことです。その場合、やはりエンドユーザーである素材メーカーなどとの協力が極めて重要になるでしょう。
――日本のメーカーとして“日本の力”とは何だとお考えですか。
やはり製品の信頼性です。例えば、テークアップワインダーの場合、1プロジェクトで1000台規模の機械を納入しますが、1000台がまったく同じ性能、同じ挙動でないといけません。仮撚り機も現在は1台が384錘ですが、これもすべて同じ品質の糸加工ができないといけないわけです。ここが、まだ中国メーカーなどが追いつけない点です。こういった信頼性は日本製だからこそです。ですから当社も、心臓部となるワインダー機構は絶対に国内生産でないと不可能だと考えています。もちろん、周辺部品などは海外でも生産する場合があります。つまり、国内工場に何の生産を残すかという判断が大切になります。それをはっきりとさせた上で、そこに集中的に投資していく。当社も今期は10億円を投資しました。そうした中から、本当に魅力のある製品ができるのではないでしょうか。
――来年2011年にはスペイン・バルセロナで4年に一度の国際繊維機械見本市「ITMA2011」が開催されますが。
もちろん当社も出展します。現在、それに向けた開発を進めています。まだ発表できませんが、テークアップワインダーで新製品を披露する予定です。
(みの・かずひこ)
1969年帝人製機(現ナブテスコ)入社。帝人製機テキスタイルマシナリー常務などを経て2002年TMTマシナリー副社長、04年ナブテスコ執行役員、05年からTMTマシナリー社長。
私の古里自慢/地元の人だけが知る味
広島市出身の美濃さん。「広島はカキが有名なように、とにかく食べ物がおいしい」と話す。なかでも美濃さんが好きなのが小イワシ。「地元では刺身にして食べます。イワシは足が速いから地元以外では食べることができません」。子供のころは、イワシ売りのおばさんが街に売りに来て「竹ベラを使って、その場でさばいてくれる様子を今でも覚えています」。いまでは広島に親戚もいなくなったため、定期的に帰省するといったことはなくなったが、それでも仕事で広島を訪れると、必ず馴染みの店で小イワシの刺身を頼むそうだ。