解説/帝人の高強力ポリエチレン参入/トワロンとどう住み分けるのか

2010年11月15日 (月曜日)

 「高強力ポリエチレン繊維に参入する」。帝人は10日、オランダのパラ系アラミド繊維「トワロン」の製造子会社、テイジン・アラミドに高強力ポリエチレン繊維の新設備を建設し、2011年後半からの商業生産を始めると発表した。

 なぜ、米デュポンと市場を二分するパラ系アラミド繊維大手の帝人が、すでに既存メーカーが製造販売する高強力ポリエチレン繊維に参入するのか。同社では「パラ系アラミド繊維を補完し、グローバルな顧客ニーズに応えるため」と説明する。そして、高強力ポリエチレン繊維「ダイニーマ」を製造する蘭DSMダイニーマ、東洋紡など既存メーカー品に比べて「同じ性能を維持し、コスト競争力のある商品を提供できる」として、15年には高強力ポリエチレン繊維市場において15~20%のシェア獲得を目指すという。

 同社は以前よりアラミド繊維以外の高機能繊維を何種類か開発中であることを明らかにしていた。その一つが高強力ポリエチレン繊維だったわけだ。新設備の生産能力は公表していないが、すでにテイジン・アラミドと帝人テクノプロダクツの研究施設(山口県岩国市)にパイロットプラントを置いている。

 同社はかつてDSMグループと提携し、高強力ポリエチレンフィルムを生産販売していた。それだけに、高強力ポリエチレンに関する技術があったことも繊維の事業化には関係しているかもしれない。

 ただ、業界関係者からは「なぜ」という疑問の声がある。というのも、トワロンとダイニーマなど高強力ポリエチレン繊維は競合する分野が多い。防弾チョッキはその一つで、激しいシェア争いを繰り広げている。

 仮に帝人の需要家がトワロンではなく、帝人の高強力ポリエチレン繊維を選ぶことが増えた場合、トワロンの防弾チョッキ用販売量は減る可能性もある。防護手袋向けも同様だ。もちろん、他用途でカバーする絵も描いているとは思うが、防弾チョッキはブレーキパッドなど摩擦剤に次ぐ大型用途だけに、影響は少なくないとの推測もある。その面でいかに、トワロンと高強力ポリエチレン繊維を住み分けるのかが課題だろう。

 さらに、先発の「ダイニーマ」などが黙ってみているとは思えない。中国企業も高強力ポリエチレン繊維を生産しており、生産能力だけで5000トン以上の能力があると言われ、競争は激しさを増している。

 高強力ポリエチレン繊維との競合の激しさが、今回の参入に踏み切らせたのかもしれないが「隣の芝生は青いわけではない」との見方も。それでも帝人は打って出る。そして「同じ性能を維持し、コスト競争力のある商品を提供できる」という同社の戦略は価格競争を仕掛けるとも取れる。本格生産を始める11年後半以降の動きが注目される。