特集・SEKマーク/世界に羽ばたくSEK
2011年03月15日 (火曜日)
繊維評価技術協議会(繊技協)が機能加工・素材の性能と安全性を認証する「SEKマーク」。抗菌防臭や制菌、光触媒抗菌、抗かびなど機能の信頼の証明として大きな役割を担ってきた。そのSEKマークが世界に広がる可能性が高まった。繊技協は現在、SEKマークの海外展開を推進する。日本発の機能素材認証として世界に発信することとなる。そのほか、抗かび加工認証では、試験方法のISO(国際標準規格)化が大詰めを迎える。こちらも日本発の試験方法が国際規格として世界に普及することになる。ますますその存在意義が大きくなるSEKマークの現状をまとめた。
抗菌防臭マークを世界展開
高い信頼性から世界的に評価の高い日本の機能素材・加工。厳しい安全基準と性能確認試験をクリアしたSEKマーク取得素材・製品は、その代表だ。このため以前から繊技協の会員企業からマーク付き商品を海外販売したいという要望が多数寄せられていた。ただ、繊技協ではマークの商標登録や、試買テスト・管理の困難さ、模倣品発生の危険性から、これまでは日本国内で販売される製品のみを対象とし、マーク申請者も日本国内に法人格を有する事業者に限ってきた。
しかし、海外販売の要望が一段と強まっていることから、繊技協では2009年に「SEKマーク海外展開検討分科会」(分科会リーダー=クラボウ)を設置し検討を進めた。その結果、商標を中国(24類、25類)、台湾(25類)、香港(25類)、韓国(25類、ただし防水被服のみ)で登録することに成功したことから、このほどこれらの国・地域を対象に海外販売を認める方向性を確認。「海外販売ガイドライン」の素案をまとめた。
ガイドライン案では、適用範囲を抗菌防臭加工SEKマーク(SEK青マーク)とし、海外販売はマーク認証取得法人が「自己責任で実施し、輸出に対するあらゆるトラブルは自己責任で解決しなければならない」と規定する。また順守事項として(1)マーク表示はSEKマーク英語版または「抗菌防臭加工繊維製品認証基準」第6条に従うこと(2)「SEKマーク繊維製品海外販売届出」に必要事項(販売国、現地販売責任者、現地でのマーク管理方法など)を記載し、届け出る(3)輸出国の抗菌性試験方法と基準への対応として英文の抗菌性試験報告書(JIS L1902)の準備と現地規格での抗菌性試験報告書の準備――などを決めた。
とくに注意が必要なのが中国での対応だ。中国では抗菌性試験の規格が国家基準の「GB/T20944・1」(試験方法はプレイト法)、「GB/T20944・2」(吸収法)、「GB/T20944・3」(振動法)と3種類あり、さらに業界基準としてニット製品対象の「FZ/T73023」がある。これら現地の基準も併せてクリアすることが必要だろう。
また、SEKマーク添付商品の海外販売に対する繊技協によるフォローアップとして、認証基準英訳版や英文リーフレットの作成、現地試験機関などに委託した試買テスト、模倣品など苦情処理と情報収集のための現地カウンター設置などが進められている。早ければ今年中にもSEKマーク付き繊維製品の海外販売が解禁される予定だ。
今後の課題として、どのような方法によって海外でSEKマークの認知度を高めるかという問題がある。日本でこそ広く普及するSEKマークだが、海外ではまだ無名だ。繊技協、そして会員企業には、これまで以上にSEKマークを知らしめるための積極的な宣伝・プロモーション活動が求められている。
中国を中心としたアジア地域では、日本製品に対して「安心・安全」というイメージが強い。今後、SEKマークの海外展開が進展することで、このブランド力の一層の強化が進むことが期待できる。それは同時に、日本製繊維素材・製品が、高い国際競争力を持ってアジア市場で普及することにつながる。その意味でも、SEKマークの海外展開は、極めて大きな意義があるのだ。
抗かび試験法ISO化が大詰め
日本が開発し、提案している抗かび性試験方法が国際規格として世界に広がることになる。国際標準化機構(ISO)のTC38WG23(繊維製品の試験方法標準化を採択する技術委員会作業部会)は昨年9月に中国・北京で国際会議を開催した。日本の繊技協が一昨年5月にISOに提案し、昨年2月の東京会議で作業原案が採択されていた「繊維製品の抗かび性試験方法」の標準化について委員会原案を賛成多数で承認した。
北京会議では、東京会議で作業原案を承認した繊技協提案のATP(アデノシン三リン酸)発光測定法による「かび胞子・菌糸の発育を抗かび活性値で評価する世界初の抗かび性定量試験方法」に関して、4カ国8検査機関で実施したインターラボテストの結果を審議した。参加国の多くが有効性を評価したが、フランスがATP法ではなく、混釈平板培養法(プレートカウント法)の採用を強行に主張するなどで会議は一部紛糾したが、最終的な投票の結果、日本が提案した試験方法が「繊維製品の抗かび性試験方法パート1:発光測定法」として賛成15カ国、反対1カ国、棄権7カ国で委員会原案として採択された。
今後、委員会原案はISOでの審議を経て国際規格原案、最終国際規格原案として承認される見通しで、早ければ2011年内にISO規格として発効する予定だ。繊技協では、それに合わせてJIS(日本工業規格)の策定に向けた作業も進める。
抗かび性試験方法がISO化すれば、やはり繊技協が中心になって提案し、ISO化された抗菌性試験方法に続くものとなる。しかも、細菌と異なり、菌糸が生長増殖するカビは、日本が提案したATP法によって初めて定量的な測定が可能になったともいえる。日本の検査・評価技術が、新しい機能加工・素材を開発し、普及させる面で大きな役割を果しているわけだ。
「防汚加工」試験方法確立も最終段階
繊技協では、新たな機能加工認証として「防汚加工マーク」の創設を目指している。そのためには防汚性試験方法の確立が前提。現在、試験方法の開発も最終段階を迎えた。
繊維製品への防汚加工は、ユニフォームやインテリア製品などで根強いニーズがあるが、「JIS L 1919」で繊維製品の防汚性試験方法が規格化されているほかは、十分な機能評価基準が整備されていなかった。このため繊技協では新たに試験方法の最適化、効果基準、安全性基準、日常品質管理項目などを定め、マーク認証制度を設立することを決め、09年には検査機関9機関、加工剤メーカー7社、染工場1社、繊維素材・製品メーカー15社からなる「防汚加工マーク準備委員会」を立ち上げ、検討を進めてきた。
検討の結果、試験方法は現行の「JIS L 1919」をベースにすることになった。ただ、現行の試験方法は粗粒子汚れ対象のA1法(ピリング試験機法)、微粒子汚れ対象のA2法(同)、水性汚れ対象のB法(スプレー法)、油性汚れ対象のC法(滴下ふき取り法)の3方法で構成されているが、試験に使用する人工汚染物質が実際の繊維製品市場のニーズに対応するには不十分だ。
このため、繊技協で新たに人工汚染物質を規定し、試験用に繊技協で一括製造販売する方法を採用。すでに指定検査機関による手合わせ試験も実施している。また、安全性試験は、加工剤は急性経口毒性試験、変異原性試験、皮膚刺激性試験、皮膚感作性試験の4項目とし、加工製品はヒト皮膚貼付試験の実施が決まった。
防汚効果表示は、繊技協規定の人工汚染物質での試験によるSG(汚れが付きにくい)、SR(汚れが洗濯で落ちやすい)、SGR(汚れが付きにくく、洗濯で落ちやすい)を必須とし、赤土やワイン、果実、重油、皮脂汚れなどを希望に応じてオプション汚れとして試験結果を記載できるようにする。
今後、検査機関による手合わせ試験の結果を踏まえ評価基準の最適化を行い、繊技協の製品認証部委員会の承認を経て、早ければ11年内にも防汚マーク認証制度をスタートさせる計画だ。
SEKマーク海外検討分科会メンバー
クラボウ(リーダー)
福助(サブリーダー)
シキボウ
東レ
ダイワボウノイ
大和化学工業
東亜合成
日華化学
日本染色検査協会
事務局(繊技協)
ことば/ATP法
生物の細胞に必ず含まれる物質であるアデノシン三リン酸を化学処理により発光させ、その発光度合いから細菌などの数量を定量的に測定する方法。コロニー法など既存の一般的な検査方法と比べ正確性や迅速性が高い。