環境新書特集
2011年06月09日 (木曜日)
旭化成せんい/「ベンベルグ」好調/環境と人に優しい繊維
旭化成せんいの再生セルロース繊維「ベンベルグ」が好調に推移している。素材が持つ特徴が評価されると同時に、環境に優しい素材としての認知度も高まってきた。
「ベンベルグ」は原料から製造工程、商品の廃棄時までの各段階で環境に優しい繊維である。ベンベルグの原料はコットンの種子の周りに生えている未利用繊維であるコットンリンター。従来は利用されていない資源を有効活用する形で、エコマークにも認定されている。また、ベンベルグ工場はISO14001の認証を取得しており、省エネルギーの推進や工場からの廃棄物を極限まで減らすゼロエミッション活動などを推進している。
最終商品の廃棄時に環境へ与える負荷も少ない。例えば「ベンベルグ」の原料はコットンリンターであるため、焼却時の有毒ガス発生量も少ない。また、土に還る生分解性繊維であり、例えば夏場の環境(温度25℃、湿度80%)ならば約2カ月でその重量は半分以下になるという。
このように原料から製造、廃棄までライフサイクルを通じて環境に優しい繊維であると同時に、「人に優しい」素材としても注目を高めている。ベンベルグが持つ機能の1つが吸湿・放湿性であり、その機能を生かして湿度をコントロールすることで衣服内を快適な状況に保つことができる。このような特性を生かし、インナーやアウター、寝装、スポーツなど主力である裏地以外の分野での用途展開も大きく広がっている。
クラレトレーディング/「ピュアス」を新たに展開/5年後に全面置き換え目指す
クラレトレーディングの環境対応ブランド「エコトーク」は、今年1月に12番目の商品として、省エネ可染ポリエステル長繊維「ピュアス」を加えた。クラレ独自のポリマー変性技術により、汎用の分散染料で、従来温度に比べて25℃低い105度での染色を可能とした商品で、基幹素材に位置づけて、将来的には従来ポリエステルからの全面置き換えを目指す。
ピュアスは従来よりも低い温度で染色できるため、電力やボイラー重油、水などの消費量を抑え、染色工程でのCO2発生量を20%削減することが可能。物性や機能は従来品と変わりない。現在はスクールスポーツ、競技用スポーツ、ブラックフォーマルなどの分野で採用が進んでいる。今年度100トン、3年後1000トンに拡大し、5年後にポリエステルの全量を「ピュアス」に置き換える計画だ。
また、「エコトーク」ではケミカルリサイクルシステムやオゾン漂白「オゾンマスター」などが堅調に推移。とくにリサイクルシステムはスクールスポーツで順調に拡大している。
このほか、「エコトーク」では啓もう活動にも継続的に取り組んでいる。子供を対象に写真教室やキャンプを通じて「エコ」を考える機会を設けているもので、写真教室は小学校を中心に毎回4~5校で開催し、これまでに延べ800人が参加した。今年は震災からの復興支援を兼ねて、6月に石巻市で開催する計画だ。また、こども「エコトーク」キャンプは8月の第一週目の開催を予定している。
東レ/PPS繊維で海外市場開拓/中国の石炭発電所で採用増
PPS(ポリフェニレンサルファイド)繊維は耐熱性、耐薬品性に優れ、焼却炉やボイラーなどの高温の排ガスから微粒子などを取り除く「バグフィルター」として使用される。東レは1998年から「トルコン」の生産を本格化させ、2001年に米AFY(アメリカン・ファイバーズ&ヤーンズ・カンパニー)からPPS繊維の営業権を買収、積極的な海外進出でトップシェアを維持してきた。生産拠点は愛媛、東海。
当初、欧州への輸出が先行したが、中国の石炭火力発電所の建設ラッシュに伴い、バグフィルター需要が急増。さらに中国での排気基準の規制値が高まったことにより、現在は輸出の8割を中国が占める。PPS繊維事業の現在の売上規模は連結ベースで約36億円。
2004年~2005年にかけての建設ラッシュはひと段落したが、電気式の集塵機からの改造需要のほか、バグフィルターは3、4年で付け替えるため、「今後4~5年は拡大基調が安定している」(産業資材事業部機能素材課)と見る。
課題もある。原料となるPPS樹脂(熱可塑性エンジニアリングプラスチック)の需給はタイトな状況が続き、また欧州や中国で競合メーカーが台頭してきている。国内に生産基盤を置く同社はコスト競争では不利だ。先の見えない原材料の高騰も生販の負担となる。
強みとなるのは技術とノウハウの蓄積。研究会社の東麗繊維研究所(TFRC)との連携で独自の高精度のフィルターを開発したほか、担当者が直接発電所に足を運んで需要をくみとる。「TFRCの活用と海外オペレーションの強化、付加価値提案で差別化していく」(同課)と、引き続き拡大路線で市場に臨む。
東洋紡STC/サトウキビ廃棄物を有効利用/石油の使用を30%削減
東洋紡スペシャルティズトレーディングはスポーツ向けで、植物由来のポリエステル繊維「ペコット」を新たに展開する。これにより同社は環境配慮型素材として、再生ポリエステルとバイオポリエステルの双方を展開する形となった。
ポリエステルはPTA70%、MEG30%を使って作られるが、「ペコット」はMEGを非可食性植物由来原料にしている。このため、従来品に比べて石油の使用量を30%削減できる。また、「ペコット」のMEGは、サトウキビから砂糖を作る過程でできる廃糖蜜や絞りかす(バガス)を使って作られる。これらは従来、食用として使用されずに捨てられる部分であり、原料を作る際に無理な伐採がされないという点も環境に優しい点である。なお、原料のさとうきびは牧草地からの転換で増産対応を行っているので、バイオポリエステルの生産数量が増えたために新たに森林を切り開くといった懸念もないという。
「ペコット」の性能はレギュラーポリエステルと同等の水準。今後は、環境負荷低減に貢献できる点を具体的な数値(環境負荷低減率など)を示しながら、エンドユーザーにも分かりやすく売り場で明確に訴求できるよう取り組む考えだ。
また、衣料用ではスポーツなどで重点提案していくが、同分野においては環境の切り口だけでなく機能性を付与していくことも必要となる。スポーツ向けでは現在、ゲームシャツ地とジャージ生地、30デニール級の薄地織物などの生地バリエーションをそろえる。今後、ゲームシャツやジャージを中心に、機能性を付与した素材開発を進めていく考えだ。
ユニチカ/ティーバッグなどで拡大/カーボンオフセット付き商品も
ユニチカのバイオマス素材「テラマック」の展開が広がっている。同社はフィルム、シート、繊維、不織布、樹脂と幅広い分野でポリ乳酸素材を展開しているのが特徴で、ティーバッグなどの用途で販売を伸ばしている。また、最近では生分解性などの特徴が評価され、埋め立て工事用のドレインシートなど不織布の土木用途などが堅調に推移しているという。
新たな取り組みでは、同社のインターネット通販ショップ「ユニチカオンラインショップ」にて、「テラマック」を使用したカーボンオフセット付きエコ商品の販売を始めた。「テラマック」はとうもろこしなど再生可能な植物資源を原料としており、廃棄時にCO2を排出しても、植物が成長する過程でCO2を吸収するため、ライフサイクル全体では排出量を抑制することができる。加えて自助努力だけでは対応しきれない部分について、温室効果ガスの吸収につながる活動によって削減された排出量(排出権)を用いて相殺することで、さらに環境に優しい商品とした。展開商品はエコバッグ2種類、水切りゴミ袋、ボディタオルの4商品で、まずはオフセットによって無効化した1トンCO2分終了までオフセット事業を行う。なお、排出権は日本国内で持続的な森林経営を行うことでCO2を吸収する森林吸収源プロジェクトから創出されたものを活用している。
また、ユニチカは「テラマック」以外にも、二酸化炭素とジアミンからバイオマス由来ポリ尿素を製造する技術を開発するなど、今後もバイオマス素材の品ぞろえを拡充していく方針である。
帝人ファイバー/バイオ由来PET/「プラントペット」展開
帝人ファイバーは、新たな環境対応素材であるバイオ由来PET繊維製品を「プラントペット」として展開する。衣料、自動車用シート・内装材、衛生材料、産業資材などに向ける。
「プラントペット」は、バイオマス(サトウキビ)から作られるバイオ燃料を原料として、PET樹脂を構成するエチレングリコールの部分をバイオ由来に置き換えたもの。
これにより、PET樹脂を構成する成分の30%強がバイオ由来となり、化石資源消費の抑制につながる。温室効果ガスの削減効果もあるが、物性、品質面においても従来の石化由来のPETと変わらない。
循環型リサイクルシステム「エコサークル」の活用により、「プラントペット」を使用した製品を化学的に分子レベルまで分解し、石油から製造するものと同等品質の製品にリサイクルすることも可能だ。現在は国内で生産しているが、12年4月からタイで本格展開する計画だ。
帝人ファイバーはエコ戦略として、独自のポリエステルテクノロジーを活用。(1)バイオマテリアル(脱石化資源)(2)リサイクル(物質循環/易リサイクル設計)(3)機能素材(環境配慮/快適性付与)(4)製造プロセス革新(環境負荷の低減)を組み合わせたハイブリッド戦略を推進する。
「環境負荷を低減するソリューションを提供する」という基本方針のもと、ポリエステル製品の循環型リサイクルシステムや環境対応素材を積極的に展開しているが、新環境対応素材「プラントペット」は、バイオマテリアルの中核素材としても位置づけられている。