11夏季総合特集Ⅰ/繊維業界を内外で支援

2011年07月20日 (水曜日)

 震災の影響は繊維産業に様々な影響を与えている。国内の需要喚起、海外市場戦略強化。企業はそれぞれの得意とする分野で生き残りを図る。そうした企業をサポートする業界もある。検査機関は試験業務で内外の機能素材を支援。副資材メーカーも衣料業界を支える。日本化学繊維協会も会員各社の多様化する事業活動に資する運営を進める。

カケンテストセンター/機能加工試験が充実/海外はアセアン強化を

 カケンテストセンターは、国内の機能加工試験を充実させる一方で、海外ではアセアン地区を強化する。

 節電ビズ商品の需要増で消臭加工試験依頼が急増している。同センターによると、一昨年くらいから増加傾向にあったが、今年は大変な勢いで増加しているようだ。シャツやビズポロだけでなく、シーツやカバーなど寝装品の依頼も増えている。

 消臭加工試験は現在、大阪、東京(川口)、一宮の事業所で行っているが、ユニフォーム分野などの依頼も増加。このため、「一宮の設備拡充とともに、まだ設備を導入していない事業所への導入検討も始める」という。

 節電ビズ関連では接触冷感素材の試験も増えており、大阪事業所で扱う。精密迅速熱物性測定装置を用いる特殊試験だ。金属は触ると冷たく、ウールは暖かい。このような皮膚感覚を「接触冷温感」と呼ぶ。試験では室温10度、または20度に加熱した測定部を室温の試料に接触させ、試料の熱吸収速度を測定。指標となるq―max(最大熱吸収速度)が大きいほど冷たく感じる。

 一方、海外には中国の上海、香港、青島、大連、寧波、無錫に試験拠点がある。韓国、台湾、インドネシア、タイ、ベトナムにも提携先を有するが、今後も「アセアン地区を強化していく」考えだ。

QTEC/定評のある羽毛試験/上海試験部門移転へ

 日本繊維製品品質技術センター(QTEC)は、「節電ビズもあり、消臭加工試験が増加」という。また、ウオームビズではダウンウエアが定着しているが、「国際的にも最大規模の羽毛試験能力を有する」と、この分野にも注力する。

 QTECはDVDを製作中だ。新人教育やセミナー向けのビデオで、試験業務の概要などを20分ほどでまとめたものである。

 最近は「羽毛関係のセミナーや展示会協力を求められることが多い」ようだ。

 羽毛試験には、羽毛の組成表示と混合率試験、かさ高性試験、ダウンウエアの羽毛吹き出し試験、羽毛の臭気試験などがある。ダウン需要が増えるほど、こうした試験依頼が増えている。

 海外では、中国の上海試験センターの試験部門が、25日から上海市普陀区常徳路1339号の金昌商務中心6階に移転する。これは現在の上海市嘉浜路539号の同センターが手狭になったため。検査部門は、事務所を現在のビルの7階にフロアを変更する。

 一方、火災の被害のあった青島試験センターは山東省青島市四方区重慶南路81号甲の中国検験認証集団山東検測有限公司(CCIC―ST)4階に移転した。「試験機は8割ほど手当てでき、業務を再開した。8月中には完全復旧する」見通しである。

ニッセンケン/本部・立石統合で機能強化/煙台事業所順調スタート

 日本染色検査協会(ニッセンケン)は、8月下旬に東京事業所本部と立石事業所を統合し、建設中の新ビル(台東区蔵前2―16―11)に移転する予定だ。これを機に、エコテックス規格100関連の分析機器や機能試験設備も増強する。

 ニッセンケンは2000年にエコテックス国際共同体に加盟して以来、日本で唯一のエコテックス認証機関として、エコテックス規格100に基づいた安全な繊維製品の認証活動を行う。繊維の全加工段階で取得可能で、有害物質に敏感な欧州市場では重要な認証ラベルである。

 試験対象項目は法律によって禁止・規制されている物質、健康を害するおそれのある物質、安全性が確認されていない物質。規制項目や基準値は毎年の国際的な技術会議、専門委員会で見直されており、ビジネスのグローバル化とともに、同ラベルの重要性が増している。

 一方、2月下旬にオープンした中国の煙台事業所は山東省煙台市芝罘区機場路169号煙台科技園内にある。物性試験や堅牢度試験などを日本人3人、ナショナルスタッフ20人で対応。「煙台は繊維商社が思った以上に進出している。青島からも車で2時間と近い。納期は2泊3日を基本にして順調にスタートした」という。

YKK・ファスニング事業/アジア供給力を強化

 YKKの猿丸雅之社長は、「顧客視点を重要テーマに、実行と迅速」を徹底していく。猿丸社長は、技術力の強化推進、工機技術本部と各事業部との一体化による開発を進めながら、市場の変化に即したスピードある対応を重視している。

 この方針の下、YKKのファスニング事業は今年度、「顧客商品価値向上に向けた取組み強化による増収増益の達成」を目指す。重点課題として「顧客タイプ別取組みの深耕」「地域R&D体制による地域ニーズに適合した商品開発力の強化」「アジアにおける供給力強化」を挙げる。

 アジアの供給力強化では、今年度投資総額261億円のうちの54%をアジア向けに投資。主なものにはバングラデシュ社ダッカ工場の第3期工場増築・増設もあり、今年度中稼働を目指す。

日本化学繊維協会大八木成男会長(帝人社長)/11年度協会活動/共通プラットフォームを提供

 今年3月に発生した東日本大震災は、日本経済・社会に多大な影響を及ぼしています。中国をはじめとした新興国の急成長による国際的な枠組みの変化、過剰流動性問題、資源価格の高騰、環境問題などに加えて、今回の震災によって大きな被害を受けた日本経済は、生産活動の停滞、エネルギー政策の行き詰まり、財政問題の更なる深刻化など、多くの課題を抱え、ますます不透明感を強めています。

 日本の繊維産業は1985年のプラザ合意による円高を契機に、急激に産業規模を縮小させました。化繊生産も1992年をピークに減少を続け、近年は100万トンを割り込み、世界生産量の2%強にまでに縮小しています。

 この中で、化繊各社は従来の横並び型の対応ではなく、それぞれの方針に基づいた事業・収益構造改革によって一定の成果を上げてきました。4大合繊(ナイロン長繊維、ポリエステル長繊維、ポリエステル短繊維、アクリル短繊維)に代表される汎用繊維分野では規模の縮小を余儀なくされましたが、高機能・高性能繊維、バイオ繊維、ナノファイバーなど新素材の開発、衣料用途中心から産業用途をはじめとするテクテキスタイル分野の拡大、新興国市場開拓など成長市場へのシフト、生産拠点の再編成など、事業構造改革を進めてきました。

 とくに高機能・高性能繊維分野では、ハイレベルな先端素材を提供し世界をリードしています。近年、化繊産業の高度化を目指す韓国・台湾、繊維強国を標榜する中国の追い上げや、欧米企業が先行する川中技術など課題もありますが、これからも各社の得意分野において研究・開発を進めて優位性を維持し、有望な成長市場に先端素材を提供し続けることが、日本化繊産業を持続的に発展させる道であると認識しております。

 日本化学繊維協会は、1948年の発足以来、時代の変化に対応した活動を通して、日本化繊産業の発展に貢献してきました。

 化繊協会の使命は、会員各社が活用できる基盤を提供することで、各社の事業戦略を強力に支援することです。

 経済・社会が混迷を深め、日本化繊産業のパラダイムが大きく変化しつつある中で、化繊協会に求める機能を確認し、コスト合理性を追求して、引き続き価値ある業界団体として使命を果たしていきます。

 2011年度の活動としては、まず、化繊協会の活動領域・活動内容のあり方を検討します。時代に適合した業界団体として化繊協会の使命を果たすために、会員各社が化繊協会に求めるものは何かを確認し、一層効率的な協会運営を前提に、活動領域・活動内容のあり方について検討していきます。また、同種の業界団体との連携・効率化についても検討を行います。

 次に各社の事業活動に資する共通プラットフォームを提供します。各社が共通して必要とする情報を積極的に提供する機能を強化するとともに、事業活動を支援するために、各社が必要に応じて、公平・公正に交流・情報交換できる場の提供について検討し、整備していきます。