歴史的な円高局面/繊維業界に与える影響/輸出 価格以外の価値必要/輸入 コスト吸収は限定的

2011年08月04日 (木曜日)

 米債務問題は3日(現地時間2日午後)、オバマ大統領が上下両院を通過した連邦政府の「債務上限引き上げ法案」に署名し、デフォルト(債務不履行)は回避された。この間の一連の流れを受けて、円相場が歴史的な急騰を見せている。一時は震災直後(3月17日)に付けた過去最高値(1ドル=76円25銭)に迫り、77円台で推移する。円はギリシャ危機で揺れるユーロに対しても高く、1ユーロ=109円台で推移する。歴史的な円高局面が繊維業界へ与える影響を探った。

 急激な円高の進展で輸出型のビジネスは収益の悪化が危ぶまれる。なかでも主力販路が海外の繊維機械分野は影響が大きい。

 豊田自動織機は今期、中国の金融引き締め、原綿急落による紡機への投資意欲の減退に加え、円高の「三重苦が厳しい」と指摘する。対策として技術面での強みを伸ばすとともに、サービス面の強化を進め「価格競争以外での価値を高める努力を続ける」とする。

 「ドル建て商売が大半を占めるため非常に採算が悪化する。また、欧州勢との競合の中でさらに厳しい商談となっている」というのは村田機械。「ドル安分の差を埋めるべく値上げを試みている」が、今後の対応として「競合他社より優れた製品(高品質・高生産性を備えた機械)とアフターサービスによる安心を提供・提案していくほかに道はない」とする。

 主力のコンピュータ横編み機の90%以上を海外で販売する島精機製作所は、「第1四半期の時点で外貨建て資産に為替差損が発生したが、現状はそれよりも厳しい状況」とし、「今後、想定レートの見直しを考える必要があるかもしれない」とみる。

 テキスタイルなどの繊維輸出事業はどうか。伊藤忠商事は「為替予約などもあり、秋冬物など当面の影響はほとんどないが、今後の動向を注意深く見守りたい」という。一方で「価格に左右されないオンリーワン商材への集約が進んでいるため、12春夏物商談に向けても大きな影響は受けていない」と自信をみせる。

 テキスタイル貿易部を擁するNI帝人商事は、「12春夏、秋冬の商談がスタートしているが、値合わせで苦労している。このまま続くとボディーブローのように効いてくる」と現状を分析、「80円台半ばまで戻らないと金額的にも内容的にも苦しくなってくる」という。

 商社のOEMビジネスなど輸入が中心となる事業は、「経費増のクッションになっている部分はある」(住金物産)と円高メリットを受ける側面もある。しかし、今回の円高ではすでに生産に入っている11秋冬物への恩恵はほとんどない。「12春夏物に向けてメリットが出てくるかもしれないが、コスト上昇分をすべて吸収できるわけではない」とNI帝人商事は説明する。

 流通・小売りでは量販店大手や百貨店などが円高還元セールを計画する。イオンは「産業全体からすればメリット、デメリットが当然あるが、当社ではこれまで同様、お客さま第一の視点で、円高還元セールをやる。実施に向けて鋭意準備中」と円高のメリットを最大限に生かす。