特集・差別化ヤーン大全/差別化の基本は原糸/ユーザーは糸の情報を求めている

2011年08月29日 (月曜日)

 リーマン・ショック後の歴史的危機から、日本のモノ作りもようやく最悪期を脱した感が強い。繊維業界では、昨年に顕在化した中国での生産環境悪化を背景に、一部で国産回帰の動きもある。だが、原料相場の下落による市況低迷など、依然として新たな問題も浮上した。繊維を取り巻く環境は、依然として厳しい。こうしたなか、国内でモノ作りするテキスタイルメーカーにとって、独自性のある商品開発は死活問題だ。差別化で成果を上げることができた企業だけが生き残るといえよう。

 繊維の差別化とは何かを改めて考える。やはり、基本は糸に尽きる。織布・編組、染色加工の差別化も、個性ある原糸と組み合わさってこそ、その真価を発揮する。だからこそ、現在でも産地企業などテキスタイルメーカーは、ユニークな糸に関する情報収集に余念がない。ユーザーは、糸の情報を欲しているのだ。

 今回の特集では、そういった個性派の糸に焦点を当てた。個性的な糸作りを進める原糸メーカー、そしてユニークな企画でメーカー的役割も果たす商社にスポット当てた。

 後半では、原糸メーカーの差別化ヤーンを総覧する。モノ作りのヒント集として、保存版だ。ぜひ個性的なモノ作りに活用していただきたい。

新内外綿/機能糸シリーズに「テンセルC」

 精製セルロース繊維「テンセル」紡績糸を得意とする新内外綿。近年では機能糸のニーズが高まったことから、テンセル紡績糸でも機能糸シリーズを打ち出す。そのひとつが、このほどレンチングファイバーズが開発した新原綿「テンセルC」の紡績糸だ。

 テンセルCは、レンチング社が新たに開発したキトサン練り込みテンセル。肌の保湿など天然のモイスチャー効果が期待できるという。新内外綿では日本でいち早くテンセルCを採用。テンセルC50%・テンセルLF(ローフィブリルタイプ)50%混紡糸とテンセルC50%・綿50%混紡糸の2種類を開発した。

 同社では今後、テンセルC紡績糸と合わせて、UVカット・透け防止機能を持つ「セルテクト」、原綿加工による消臭機能糸「ショウ・シュウ・ダー」、もう一つのリヨセルメーカーである独スマートファイバー社の海藻練り込みリヨセル「シーセル」に銀イオンを付与した抗菌素材「リヨシルバー」を新内外綿の機能糸シリーズとして打ち出す。とくにリヨシルバーは、晒し加工しても銀イオンの機能低下や変色などが起こらない点を訴求し、打ち出しを強化する考え。リヨシルバーは、晒し加工しても銀イオンの機能低下や変色などが起こらない点が特徴だ。

 機能糸以外にも、細番スラブ糸やテンセル・リネン・ラメ混紡糸、テンセル・リネン混精紡交撚糸など多彩な糸を用意。産地巡回展示会を実施するなど、ユーザーとともに歩むのが同社の基本方針である。

豊島/高い機能性に注目集まる「サーモクール」

 豊島が昨年から販売に乗り出している高機能素材「アドバンサ・サーモクール」の、北陸産地などへのフィラメント供給が増えている。同素材は、吸水速乾性を持つ雲形断面のポリエステル繊維と、保温機能を持つ中空断面のポリエステル繊維の組み合わせで自然体温調整能力を発揮し、快適に過ごせる心地よさを追求した高機能素材。フィラメント、ステープルのどちらも供給でき、秋冬向けには「テンセル」やウールとの混紡、春夏向けには綿混などの素材開発が可能、オールシーズンに対応できる。

 価格は通常のポリエステルに比べ倍以上と高い点が市場開拓のネックになっているが、“自然体温調整能力”という高い機能性から、スポーツやユニフォームなど様々な用途へ販路開拓を進めており、クールビズ、ウオームビズの双方に対応できる高い機能性が好評。サーモクールの混率が織物で40%以上、編み地で50%以上であれば専用の商品タグを提供する。

 オーガニックコットン「オーガビッツ」は昨年に比べ採用ブランドが増えており、マイクロモダールとオーガビッツを混紡した「ウインターオーガビッツ」や、UVカット機能を持つポリエステルと混紡した「サマーオーガビッツ」などの機能素材も充実。節電志向が高まる中でインナーやスポーツ用途などへ商機を見いだす。

ドーコーボウ/最高級原綿だけを選りすぐる

 ドーコーボウは、最高級の原綿だけを選りすぐった高級原綿使い綿糸の提案を強化している。エジプト超長綿やインド超長綿使いで「ドーコーボウの糸でしかできない商品企画への提案を進める」(安部紀光社長)考え。ここにきて高級原綿使い原糸の人気に復活の気配も。「Eアルティマ」「スビン」などを打ち出す。

 Eアルティマは、エジプト超長綿「ギザ88」を100%使用したコンパクト紡績糸。最高級グレードの原綿だけを厳選してコンパクト紡績することで毛羽が少なく、ガス焼き糸を上回る光沢を特徴とする。ハイゲージのダブルニットや極薄地織物で百貨店アパレルや通販などが採用する。Eアルティマを使用したテキスタイル、製品用に「マコンフォ」の商標も取得しており、タグなども用意している。

 スビンは最高級インド超長綿「スビン」を100%使用。インド超長綿の特徴である蝋(ろう)分の多さから生まれる独特の光沢が根強い人気を集める。繊維長の長さを生かし、極甘撚りに仕上げたことで、カットソーやセーターを柔らかな風合いで作ることができる。高密度織物に使用しても柔らかな風合いを出すことが可能だ。

 また、カジュアル用原糸としては「陽鶴ネップヤーン」も用意。上質の豪州綿を使用し、糸とネップ玉に同じ原綿を使用することで染色差が発生しにくい。丁寧に紡績することでネップ落ちが少ないのも特徴だ。

モリリン/オリジナル性高い/差別化素材が充実

 モリリン・原糸グループは、「テンセル」と東レの異型断面ポリエステル長繊維「セオアルファ」を組み合わせた長短複合精紡交撚糸「テンセルクール」をはじめとした差別化糸を軸に販売攻勢を強めている。

 テンセルクールは、夏物のニット製品に求められる“さらさらさわやかな肌触り”を実現。テンセル特有の柔らかさとひんやりした触感に、セオアルファのサラリとした風合いが加わったことで、独自のさらりとしたドライ感を生み出した。

 トリアセテートと各種スパンの長短複合精紡交撚糸「パーチェ」と、キュプラスパン100%のサイロコンパクト糸「リーナ」は中国内販でも注目を集めている素材。欧米での認知度が高く、ほとんど日本でしか生産されていないキュプラやトリアセテートなどを使った差別化糸に興味を持つケースが多く、糸売りで中国市場へ「介在していくチャンスは十分ある」との認識だ。

 他にもリネン100%のメランジトップ糸「シャングリア」や、秋冬向けのカラーウールのメランジトップ糸「オデッセイ」に加え、今期からインドで生産し、日本で備蓄販売する体制を整えた、トップ染めのポリエステル65%・レーヨン35%混糸「トップランナー」も好評。梳毛糸の価格が下がらないなか、ウール素材の代替として、引き合いが増えている。

泉工業/ダメージ加工用ラメ糸を開発

 京都金銀糸産地のラメ糸メーカー、泉工業はこのほど、ダメージ加工しても光沢が失われないダメージ加工用ラメ糸を開発した。福永均社長は「どういった用途があるか未知数なので、試験を含めて取り組み先を募集している」と話す。

 後加工してもラメの変色・剥離が起こらないラメ糸「ジョーテックス」で知られる同社。昨年はストーンウオッシュなどジーンズのダメージ加工にも対応したラメ縫製糸「ピムストTW」を開発している。その中で縫製品だけでなく、織・編み物用でもダメージ加工に対応したラメ糸の要望が多数寄せられた。そこで同社ではピムストTWの技術を応用し、織・編み物用にダメージ加工用ラメ糸を開発した。

 今回開発したラメ糸は、ストーンウオッシュ、ケミカルウオッシュ、バイオ加工、ブラスト加工など様々なダメージ加工を施してもラメの光沢感が残る。すでに一部アパレルなどに提案したところ、ジーンズNBが織ネーム用で採用に動く。現在は芯糸にポリエステルを使用しているが、綿や麻、絹、ウールなどを芯糸にして撚糸することもできる。このため天然繊維使いの織・編み物用途への提案も進める考えだ。

 同社ではこのほか、北陸産地の撚糸業、川プロと共同開発したストレッチラメ糸「ジョーテックスマイテル」の提案も進めており、現在は全国各地の技術力のある機業が商品化に向けて試織を繰り返している。