特集 清潔・衛生と繊維素材/不可視の世界に挑む機能加工・素材

2011年10月19日 (水曜日)

 近年、様々な機能素材に注目が集まるなか、社会的なニーズが急速に高まっているのが、抗菌、抗アレルゲン、抗かび、そして抗ウイルスなど清潔・衛生関連の繊維素材・加工・製品だ。2009年の新型インフルエンザウイルスによるパンデミック(世界的流行)は記憶に新しい。古来、細菌やウイルスなどは、人類の前に目に見えない脅威として存在し続けてきたのだ。

 こうした古くて新しい脅威に対して、身近な防御策として繊維製品への期待は大きい。素材メーカーでは様々な抗菌素材を開発してきた。最近では抗アレルゲンや抗かび、抗ウイルスなど一段と高度化した機能を持つ素材も相次いで登場する。そこで今回の特集では、抗菌、抗アレルゲン、抗かび、抗ウイルスなど清潔・衛生を守る機能素材・製品を紹介すると同時に、機能素材の普及に欠かせない公正な評価を担う認証機関、検査機関の最新動向を追った。

繊維評価技術協議会/機能性試験法をISO提案/抗菌から抗ウイルスまで

 抗菌防臭や抗かび機能素材の性能を評価・担保する「SEKマーク」。この認証機関が繊維評価技術協議会(略称=繊技協)だ。繊技協のもう一つの大きな役割が経済産業省から委託された繊維製品に関するJIS規格作成と、国際標準化機構(ISO)への提案による規格の国際標準化。現在、様々な機能性試験をISO提案しており、抗かび性試験方法に加えて、抗ウイルス性試験方法のISO化にも取り組む。

 繊技協は、2007年に抗菌性試験方法で日本から提案したATP法(発光測定法)を導入した試験方法をISO化した実績がある。さらに抗かび性試験方法、消臭機能試験方法、発がん性染料検出試験方法をISOに提案中だ。今年度中には帯電防止機能試験方法、吸汗速乾機能試験方法、そして抗ウイルス性試験方法もISOに提案する。

 現在、抗かび性試験方法はISO化に向けて繊技協が提案したATP法による試験方法が最終原案として国際投票中。早ければ年内にも採択され、12年7月頃にはISO化される見通しだ。これにより繊技協の抗かび加工SEKマークに採用されている試験方法が国際基準となる。

 また、消臭機能試験方法のISO化にも取り組んでおり、繊技協が提案した検知管法、ガスクロマトグラフィー法、濃縮サンプル分析法による試験方法が今年6月のISOの作業部会で新規案件として採択された。20、21日の両日、京都で作業部会の国際会議が開催される。ここで消臭機能試験方法の作業部会案が議論されることになる。

 この会議で、繊技協では抗ウイルス性試験方法の標準化についても方針を表明する予定だ。現在、50%組織培養感染量測定法による試験方法を検討しており、今年度内にもISOに正式提案する。試験対象ウイルスとして、インフルエンザウイルス、ネコカリシウイルス(ノロウイルス代替)、ポリオウイルスを予定する。

 社会的ニーズの高まる抗ウイルス加工・素材だが、現在のところ統一した試験方法は存在しない。繊技協が中心となって試験方法のISO化を進めることで、日本の機能素材の国際的イニシアチブが高まることが期待される。

三陽商会/花粉プロテクトウエアを強化/展開ブランド、アイテムを拡大

 三陽商会は12春夏で、今春夏で反響の高かった花粉プロテクトコートを、展開ブランドとアイテムともに大幅に拡充する。紳士服では「サンヨー」を含めた4ブランド、婦人服ではサンヨーを含めた6ブランドから発売する。

 紳士服では、今春夏はサンヨーと「ザ・スコッチハウス」で7型の展開だったが、12春夏は既存2ブランドに「アレグリ」と「イルファーロ」を加え、14型に増やす。コートだけでなくショートコートやジャケットも発売し、花粉プロテクトウエアで前年比2倍の数量の販売を計画する。

 近年、国民病とも言われる花粉症の患者数は増加の一途をたどり、花粉対策機能素材のアウターは、男性、女性を問わず、春の必需品となっている。同社では「花粉を室内に持ち込まない」をコンセプトに、花粉が付きにくく落ちやすい素材を用い、ファッション性と機能性を融合させた「花粉プロテクトコート」を、紳士服は2007年、婦人服では10年から展開を開始。素材や仕様を毎年進化させ、今では春の定番商品として指名買いも多くなってきている。

 今春は、紳士服と婦人服を合わせた7ブランドから同商品を発売し、一部の商品では追加生産を行うなど好調に推移。こうした状況を受けて、12春夏は展開ブランドの拡大と、素材や仕様面など商品力をさらに強化し、売り上げ拡大を図る。

カケンテストセンター/バリア性試験も実施/抗ウイルス性試験も準備中

 機能性繊維の品質評価に欠かせないのが検査機関の存在だ。カケンテストセンターもその一つ。大阪事業所を中心に各種機能性テストを実施しており、抗菌、抗かび、防ダニ性試験のほか、バリア性試験にも力を入れる。繊技協とも連携して、抗ウイルス性試験の実施に向けた準備も進める。

 カケンでは、大阪事業所の生物テストラボで抗菌性や抗かび性試験を実施しており、とくに最近では抗かび性試験の案件が増加中だ。抗菌性試験も安定した受託が続いている。同センターはでは、とくに納期対応と正確性を最重要視し、さらにクライアントからの相談にも親身に答えるといったコンサルティング機能の強化を進めている。

 他の検査機関にない試験としては、細菌やウイルス、血液などに対する生物防御性を確認するバリア性試験がある。とくに防護服やメディカル衣料、マスクなどに使用される繊維製品の機能評価で欠かせない役割を担う。

 現在、繊技協が抗ウイルス性試験方法のISO化を進める方針だが、カケンでは他の検査機関と並んで協力しており、試験方法の確立しだい、試験を実施するための準備を進めている。ウイルスは、細菌やカビなどと比べて取り扱いが極めて難しく、検査での安全性確保も重要になる。カケンでは検査実施に向けて十分な設備も有しており、引き続き機能繊維の品質・機能評価に貢献する検査機関としての役割を担っていく方針だ。

クラボウ/冠ブランドで訴求力向上/「クリーンサイエンス」

 クラボウは機能加工を「クリーンサイエンス」として集約することで相乗効果を狙い、拡販へとつなげる。

 このほど、抗ウイルス加工「クレンゼ」に制菌(特定用途、一般用途)、抗菌防臭加工が加えられ、「クレンゼ・プラス」が誕生した。メディカルを中心に拡販に臨む。

 抗かび、制菌、抗菌防臭という3つのSEKマークを取得する「ガーディッチ」も注目の加工。食品工場やメディカル向けで「好評を得て」おり、時間をかけて認知度を上げていく意向だ。

 こうした機能加工をクリーンサイエンスとして集約し、訴求力の向上を図る。「安心」としてガーディッチ、クレンゼのほか、制菌(一般、特定)の「レムノセック」、制菌(一般)の「エアーフレイク」、抗菌の「イブリック」を用意、「清潔」では抗菌防臭、汗消臭の「シモーネ」、抗菌防臭の「クランシル」、汗消臭、加齢消臭のエアーフレイク、抗菌性、消臭性、有機物生分解性の「サンタッチ」、消臭のイブリックを集約、「快適」として防汚の「オフルージュ」、「アクアキック」、「キックオフ ネオ」を取りそろえている。

ダイワボウノイ/採用広がる「モールドバリア」/抗菌防臭+防ダニも定番に

 ダイワボウノイは、抗かび加工「モールドバリア」、抗ウイルス・抗アレル物質加工「アレルキャッチャー」、かゆみ鎮静繊維「アレルキャッチャーAD」など衛生や清潔に焦点を当てた機能素材を多彩にラインアップする。“安心・安全”は、同社が推進する「エコフレンド」プロジェクトの一環だ。

 モールドバリアは、繊技協の「抗かび加工SEKマーク」も取得した素材。水虫の原因菌である白癬菌に対する効果も証明されていることから、とくに靴下やインソールなど足回り品で採用拡大が進む。

 抗ウイルス・抗アレル物質機能を持つアレルキャッチャーも同社を代表する機能素材だ。機能マスク用途で注目を集めたが、最近ではフィルター用途で多くの家電メーカーが採用するなど、その機能の評価は高い。同じフタロシアニン加工を応用したアレルキャッチャーADのかゆみ鎮静機能は、日本アトピー協会のモニターテストでも好成績を上げており、肌着・チューブで根強い支持を受けている。

 また、一般的な用途では、得意の寝装・寝具用途で抗菌防臭加工「ミラクルセット」と防ダニ加工「ハルゼッケ」を複合した「ミラクルSH」が定番化した。

 「現在、クールビズに代表されるように、機能素材の位置づけが従来とは大きく変わった」と指摘する同社。今後も引き続き安心、安全、清潔などのニーズに対応した機能素材を提案する方針だ。

シキボウ/アジア市場の開拓進める/抗かび加工は対象素材拡大

 シキボウは、衛生や清潔をテーマにした機能加工素材の開発に力を入れてきた。抗ウイルス加工素材「フルテクト」、ノロウイルス対策繊維「アルゴン」、抗かび加工素材「ノーサム」、制菌加工素材「ノモス」などが、その成果だ。いずれも国内だけでなく、インドネシア子会社メルテックスで加工可能なことから、東南アジア市場の開拓も積極的に進める。

 近年、販売数量が大きく伸びたのがノーサムだ。「抗かび加工SEKマーク」取得で水虫の原因菌である白癬菌に対する抗かび性も確認されていることから靴下用途で採用が増加。また、今年から従来の綿だけでなくポリエステルへの加工技術も確立したことで対象素材・アイテムが拡大した。

 アルゴンも介護衣・用品や食品白衣、フキンなどに提案を進めており、新たに不織布シートも開発。嘔吐物などに対し、清掃処理が終わるまでアルゴン加工シートをかぶせることでウイルスの飛散を防止する。フルテクトもマスク用途に加えて、白衣などメディカル用途への提案を加速させた。

 東南アジア市場の開拓も戦略的に進める。例えば日本ではメディカル白衣・寝装で安定した販売が続く「ノモス」だが、インドネシア、タイ、ベトナム、中国、台湾などへの販売を目指し、メディカル関係者を集めてのセミナーなどを断続的に実施する。

 現在、繊技協を中心に抗ウイルス性試験のISO化が進められている。これを契機に、フルテクトやアルゴンの東南アジア展開も加速させる考えだ。

オーミケンシ/コンセプトは“天然由来”/レーヨンの特性を生かす

 オーミケンシは、レーヨンの特性を生かした練り込み法によって、抗菌防臭など機能レーヨンを数多く開発してきた。その基本コンセプトは“天然由来”だ。

 同社の機能レーヨンで20年にわたるロングセラーとなっているのがキチン・キトサン繊維「クラビオン」だ。キチン・キトサンを繊維化する独自技術で抗菌防臭、消臭、肌への優しさなど優れた機能を発揮してきた。現在でも肌着などで根強い人気を保っている。

 また、光触媒抗菌防臭レーヨン「サンダイヤ」は、とくにスポーツ衣料で人気。大手スポーツアパレルが積極的に採用している。ほかにも温泉成分である硫黄を活用した抗菌防臭レーヨン「シェルーナ」もラインアップ。こちらも天然由来が特徴だ。また、第四基アンモニウム塩を加工した抗菌防臭レーヨン「SKレーヨン」もあり、定番ゾーンにも対応できる。

 このほど、多機能遮熱レーヨン「サーモベール」も開発した。抗菌防臭などと合わせて、ウオームビズ、クールビズなどでますます同社の機能レーヨンの活躍の場が広がっている。

ダイワボウレーヨン/練り込み法で多彩な機能素材/ユーザー企業との取り組み重視

 ダイワボウレーヨンは、レーヨンに様々な機能材を練り込むことで多彩な機能素材をラインアップする。とくに衛生、清潔関連では機能セラミック練り込み光触媒消臭機能レーヨン「パナケイア」などを提案する。

 吸湿発熱機能素材などで秋冬素材としては存在感を高めた機能レーヨンだが、同社では現在、春夏素材としての機能レーヨン拡販に力を入れる。切り口は衛生・清潔と涼感など快適性の融合だ。パナケイアのほか、糖アルコール練り込み吸湿吸熱レーヨン「クールモード」や、機能セラミック練り込み紫外線遮断・涼感レーヨン「スキュータム」なども重点提案。

 また、原綿販売中心の同社にとって、合繊メーカー、紡績、アパレル、流通など顧客とのコラボレーションが極めて重要な戦略となる。個々の取引先とクールビズやウオームビズ、健康・快適、清潔・衛生などを切り口にした素材の共同開発を恒常的に進めることが基本方針となる。