特集 「ITMA2011」レビュー/未来を拓く繊維機械/これが有力メーカーの最新機器だ!

2011年10月21日 (金曜日)

 「ITMAは、最新の情報とネットワークのプラットフォームとして、世界で唯一の“メガ・テクノロジー展示会”だ」――欧州繊維機械製造者協会(CEMATEX)のステファン・コービス会長は強調する。コービス会長の言葉を裏付けるように、9月22日から29日までスペイン・バルセロナで開催された国際繊維機械見本市「ITMA2011」は“繊維機械のオリンピック”と称されるのにふさわしい展示会だった。そこにあったのは、繊維産業の未来を切り開く“キー・テクノロジー”たちである。

 今回のITMAには世界から1350の繊維機械メーカー・関係団体が出展し、最新の機器・ソリューションを披露。来場者は8日間の会期で延べ10万人以上に達するなど、世界最大級の繊維機械展示会の名に恥じない内容である。

 とくにインド、トルコ、ブラジル、アルゼンチンなどからの来場者が多く、なかでもインド、トルコからの来場者は前回の「ITMA2007ミュンヘン」の実績を上回る。パキスタン、スリランカ、インドネシアからの来場者もITMAミュンヘンをから増加した。また、暦的にスペインと関係の深い南米からの来場者はブラジル、アルゼンチンのほかメキシコ、ホンジュラスなども大幅増加し、南米諸国全体でITMAミュンヘンから50%以上の増加だ。

 こうした構図は、現在の世界の繊維産業構造の縮図である。発展著しい新興国の繊維産業だが、なかでもインド、トルコなどが大きなポテンシャルを発揮するだろうことが読み取れる。一方、先進国の繊維産業の未来も、ITMAから想像することが可能だ。今回のITMAでは、とくにテクテキスタイルなど先端材料分野を意識した機種が多数提案された。先進国の繊維産業が生き残る道筋を示唆している。

 バルセロナの目抜き通りであるランブラス通りを下ると、地中海が見えるポリト・ベイ地区に入る。広場の真ん中に立つのは、クリストファー・コロンブスの像。彼は、大海原のはるか向こうを指差している。バルセロナは、世界に、未知のフロンティアに、そして未来に開かれた街だ。そのバルセロナで今、繊維産業の未来への扉が開かれた。今回の特集では、有力メーカーの最新機種を振り帰りながら、繊維産業の未来への航海図を描こうと思う。

村田機械/「ボルテックス」が進化/新型ワインダー「QPRO」デビュー

 今回のITMAで、最も注目を集めたメーカーの一つが村田機械だ。満を持して特殊渦流精紡機「ボルテックス」の次世代機「ボルテックスⅢ870」、新型自動ワインダー「QPRO」をデビューさせた。さらに参考出展ながらドラムレス方式自動ワインダー「FPRO」も披露。同社の開発力の底力を見せ付けた。

 ボルテックスⅢ870は、糸品質の安定を最大のテーマに据えた。とくに精紡室のデザイン・設計を一新し、精紡室から糸を引き出すデリバリーローラーを、従来のニップローラーからフリクションローラーに変更。精紡段階の紡績テンション制御を格段に向上させ、高品質な糸を安定的に紡績することができる。

 糸のモニタリングシステムも従来の光学センサーに加え、コンタクトセンシングによるスピニングセンサーを新たに搭載することで糸テンションや状態を常時監視し、欠点発生時には瞬時に稼働を停止させることで原料ロスも大幅に低減する。ITMAではモダール・綿混紡糸40単を毎分460㍍で紡出する実演を行い、その性能を見せ付けた。

 一方、新型自動ワインダーQPROは、1錘当たり6個のステッピングモーターを搭載し、各機構を独立に駆動制御することで従来機では不可能だった挙動を実現する。ムダな挙動が排除されていることで生産性は従来機から5%向上し、糸1㌔当たりのエネルギー消費も10%低減。最速毎分1700㍍の巻き取りが可能だ。コントロールシステムも新設計の「VOSⅢ」にバージョンアップ。糸のモニタリング機能が追加された。

 参考出品した「FPRO」は、糸のガイドにドラムを使用しない方式だ。糸軌道を直接制御することでリボン巻きを完璧に防止できる。ドラム交換せずに様々な巻き取り方法をコントローラーによる設定入力だけで変更することも可能だ。毎分1700~1800㍍のワインディングが可能で、パッケージ形状もチーズ、コーン両方に対応する。

 ドラムレス方式の巻取り機構は、エリコン・シュラホーストが先行していたが。完全に追いついた形だ。村田機械の開発力の奥深さを感じさせた。

豊田自動織機/緯糸8色でも1000回転/リング精紡機も新型披露

 豊田自動織機は、AJ織機「JAT710」で緯糸8色でも毎分1000回転をクリアするなど、レピア織機に対抗する汎用性を見せ付けた。また、リング精紡機も新型「RX300」を披露。省エネなどユーザーのニーズに確実に応えると同時に、特殊糸の紡績性能も格段に向上させた。

 ITMAではAJ織機JAT710を5台実機展示。独自開発した独立駆動方式開口装置「E―シェッド」を搭載することで、ウール100%スーツ地と綿ギンガムを製織実演。とくにギンガムは緯糸8色だ。糸切れしやすい細番ウール糸や緯糸8色を毎分800~1000回転で安定的に稼働させた。ダブル幅機ではモール糸入りボイルカーテンを製織実演。極細番手糸と極太番手糸でノズルからのエア圧力を個別に制御することで安定的な緯糸挿入と空気使用量削減を実現している。タオル織機ではジャカード搭載8フィーダーを毎分800回転でデモンストレーション。機械の挙動を見る限り、まだまだ余裕がある。

 緯糸多色使いや異種異番手挿入はレピア織機が優位性を発揮してきた分野だが、JAT710は、ほぼ従来のレピア織機に対抗できるだけの汎用性を確立している。また、革新織機の永遠のテーマである省エネも緯糸挿入機構を新設計とすることで空気使用量の20%削減に成功した。

 一方、リング精紡機では新型のRX300がデビュー。RX240からモーター関連の設計を一新することで7%の省エネルギーに成功した。さらにドラフトをサーボモーターによる独立駆動方式にすることで、ショートピッチスラブなど従来のリング精紡では簡単に生産できなかった特殊ムラ糸の紡績も可能だ。1台当り最大錘数も1824錘に拡大。当然、オートドッファーも搭載し、高生産性と操作性の良さを実現している。

神津製作所/新型2機種を披露/欧州機に対抗する性能実現

 神津製作所は、衣料向け合繊用自動ワインダー「SSP―VX」、アラミド繊維など高機能用テークアップワインダー「ARK―1000D」をITMAでデビューさせた。とくにSSP―VXは、従来機から設計を一新し、競合する欧州メーカー機に対抗する性能を実現している。

 SSP―VXは、プラットフォームから設計を一新し、同社としては初のタッチパネル方式コントローラーや、コンピュータ制御を採用。モニタリングシステムによるデータ収集機能も搭載する。トラバース、スピンドルボビン、送り出しローラーが独立駆動方式となっており、コンピュータ制御で同調。毎分平均1000メートルのワインディングが可能だ。ITMAでもインドなどアジア諸国のユーザーを中心に引き合いが多数寄せられており、同社では「(SSMなど)競合する欧州メーカーの機種に対抗できる性能を実現した」と自信を深めている。

 一方、ARK―1000Dは、主にアラミド繊維を対象とした産業用高機能繊維用テークアップワインダー。高機能繊維用途では世界的にも例が少ないダブルボビンを採用することで省スペース性、省エネルギー、効率的ランニングパフォーマンスを実現した。一方の巻き取りでトラブルが発生しても、もう一方のボビンは正常に稼働させる機構もオプションで用意する。毎分1000メートルの巻き上げが可能だ。

津田駒工業/織機の“未来形”を示唆/WJで袋織りジャカードに挑戦

 津田駒工業は、ITMAで織機の“未来形”を示唆するコンセプトモデルを発表した。AJ織機「ZAX9100」シリーズもバージョンアップが一段と進み、レピア織機に伍する汎用性を実現する。また、WJ織機「ZW8100」では、袋織りジャカードによるサイドエアバッグ基布製織にも挑戦した。

 次世代コンセプトモデルでは、ベルト駆動部のギア化による省エネと動力伝導性向上、挿入後の緯糸をエア吸引で保持することによるキャッチコードレス化、サブノズルの1ノズル1バルブ化による空気使用量低減、日常稼働で交換することの多いガード部分やガイドロールに炭素繊維複合材料を使うことによる軽量化と作業効率向上など織機の未来形を示唆する。毎分1850回転でも挙動に余裕があるのもさすがだ。

 一方、AJ織機ZAX9100も汎用性が一段と向上した。例えばタオル織機「XZX9100テリー」では、ダブルテンプル化と緯糸挿入機構の改良でモール糸など極太番手糸の緯糸挿入への対応力を強化した。パイル長の切り替えも従来の3ピックから7ピックに拡大することで多様なデザイン製織を可能にする。電子ジャカード搭載で毎分800回転を容易にこなす。

 さらに注目を集めたのが、WJ織機ZW8100にグロッセの独立駆動方式積極電子ジャカードを搭載して袋織りジャカードによるサイドエアバッグ基布製織に挑戦したことだ。この分野はAJ織機による製織が普及しており、WJ織機による製織は初の試み。これが実用化されれば、サイドエアバッグ基布製織の生産性が一段と向上することは確実だ。

イテマウィービング/レピア、AJで新機種/プロジェクタイルは資材狙う

 イテマウィービングは、ITMAで新型レピア織機「バマテックスシルバー501」、新型AJ織機「スルテックスA9500」をデビューさせた。プロジェクタイル織機「スルテックスP7300HP―V8」は、資材用への傾斜を鮮明にする。

 バマテックスシルバー501は、従来の「シルバー」から電装関連を新設計のプラットホームに一新。レピアヘッドも既存のテープガイド付きグリッパー「EK」、テープガイド無しグリッパー「FTS」に加えて、新設計のテープガイド付きグリッパー「SK」を搭載する。緯糸カッターにはロータリーカッターを採用。安定して高密度な筬打ちを可能にする「スレイバランサー」機構も搭載した。送り出し・巻取り機構もプレッシャーローラー、バックローラーともにダブルローラー化するなど全体的に高性能化が図られた。

 スルテックスA9500は高生産性に加え、空気消費量の低減などで業界トップクラスの省エネルギーを実現。従来よりもドエルを延長することで緯糸挿入時間を延ばし、緯糸のテンション制御を強化することで厚地織物から先染め織物の製織まで汎用性が高まった。筬幅340㌢機は毎分800回転、190㌢機は1200回転で製織実演するように生産性も高い。

 「ソメットアルファPGA」も電装関係が一新。意匠糸を含む8フィーダーで毎分540回転の実演を行うなど性能は折り紙付きだ。さらに難易度の高い緯糸挿入に関しては、インバーターで回転数を毎分400以下に落とすことも可能だ。

 一方、スルテックスP7300HPは、筬幅540㌢機でポリプロピレンフラットヤーンの製織を実演。土木資材用途などでプロジェクタイル織機の圧倒的な緯糸挿入安定性を打ち出す戦略が鮮明になっている。

ドルニエ(伊藤忠システック)/3軸、4軸織物を可能に/「シンクロ・ドライブ」も披露

 伊藤忠システックが日本輸入元を務めるドルニエは、ITMAで“ウィーブ・バイ・ワイヤ”をコンセプトに、独立駆動の織機と電子ジャカードを電子制御で同調させる「シンクロ・ドライブ」を披露した。また、織物に対して垂直方向にも糸を織り込む「オープン・リード・ウィーブ(ORW)」が衝撃的デビュー。従来の織機の常識を打ち破る革新機構だ。

 今回のITMAでは、レピア織機「P1」、AJ織機「A1」をそれぞれ実機披露した。P1は棒レピアによるガイドレス積極レピア方式緯糸挿入というドルニエの特徴を生かした万能型織機。緯糸16色の衣料・インテリ用織物からモノフィラメント、高機能繊維による資材織物まで、その汎用性を発揮する。A1も緯糸挿入システムのバルブの改良などで空気使用量を低減するなどバージョンアップを図った。

 そして、最大の新機構が、開口装置と織機を独立駆動とし、電子制御で同調させるシンクロ・ドライブだ。織機停止時にジャカードを予備運転させることで織機起動時にジャカードにかかる負荷が低減されることによる耐久性向上はもちろん、織機全速稼動時に開口タイミングを電子的に調整できるなど、従来の機械式駆動では不可能だった挙動を実現する。

 もう一つ画期的な機構がP1、A1両方に搭載可能なORW。筬上部が開放されており、そこから特殊なニードルで糸を織物に対して垂直方向に織り込む機構だ。実演では刺繍糸を織り込むことで製織と同時に刺繍柄を表現した。ドルニエによると世界初の技術とのこと。ORWを駆使することで3軸、4軸の織物も生産可能だという。一般製織だけでなく、複合材料基材などテクテキスタイルの製織を視野に入れた革新機構ということができるだろう。

 そのほか、経糸テンションを均一に保つ「ダイナミック・ワープガイド」、捨て耳を大幅に削減する「デュオ・カラー」など独自機構も健在。高付加価値の衣料・インテリア用織物から、炭素繊維、アラミド繊維など高機能繊維によるテクテキスタイル生産まで、ドルニエの汎用性の高さは、“さすがドルニエ”と言える。

ピカノール(滝沢トレーディング)/積極レピア方式を導入/AJ織機「OMNプラス・サマム」デビュー

 滝沢トレーディングが日本輸入元を務めるピカノールは、最新鋭レピア織機「オプティマックス」に積極レピア方式緯糸挿入システムを導入し、超広幅織物など産業資材用途での汎用性を見せ付けた。また、新型AJ織機「OMNプラス・サマム」もITMAでデビューした。

 オプティマックスには、新たにガイド付き積極レピア方式緯糸挿入システムが導入されたことで緯糸挿入の汎用性・安定性が一段と高まった。ITMAでは筬幅540㌢機を実機展示し、ポリエステルモノフィラメントで製織を実演するなど、あきらかにターゲットは産業資材用途だ。

 注目すべきは積極レピアだけではない。経糸の張力を直接制御する新機構「ダイレクト・ワープ・コントロール(DWC)」だ。モノフィラメントに限らず、アラミド繊維や炭素繊維など産業資材織物で欠かせない高機能繊維は、いずれも糸の伸度が少ないことから、ワインディングから整経まで極めて繊細な張力管理が求められる。これに対しDWCは製織段階での張力管理を高度化する画期的な機構といえる。ITMAでもDWC搭載のオプティマックスでアラミド繊維の製織を実演するなど、ピカノールの産業資材用途への意気込みが伝わる。

 一方、AJ織機OMNプラス・サマムは、新設計の電装ユニット「ブルー・ボックス」、メーンノズルとサブノズルの空気圧を操作パネルで集中管理する「エレクトロニック・プレッシャー・レギュレーター」を搭載するなど、こちらも汎用性が一段と高まった。合繊の平織物を毎分2011回転でデモ製織するなど高生産性にも優れ、ITMA来場者の注目を集めた。