特集・資材用繊維機械/いまこそ“固定観念”を捨てよう

2011年11月28日 (月曜日)

 「先進国の繊維産業が生き残る道は何か」――この古くて新しい問いに対する解として、テクテキスタイルに代表される産業資材用途の開拓との指摘は多い。従来の衣料品から、先端材料分野への参入だ。繊維機械メーカーは、こうした解を明確に意識した開発を加速させている。ユーザーが持つ技術力を新しい分野で具現化させることを目指す資材用繊維機械の現在を追う。

ユーザーの技術を具現化する

 繊維機械のユーザーが、新規に資材用途に参入することは、言葉ほど簡単なことではない。なぜなら産業用繊維資材はモノ作りのプロセス、アプリケーションとソリューションの関係が衣料とはまったく異なるからだ。衣料の場合、保有する機械の機能によって生産できる商品が演繹的に決まる。ところが先端繊維資材の場合、まず個別に生産したい部材の物性が厳然と存在し、それを具現化するために帰納的に生産工程や必要な機械が決まる。

 このため機械のユーザーは固定観念を捨てることが重要だ。自分が持つ技術力を使い、繊維でどのような物性を実現することができるのかを突き詰めること。それは、“繊維とは何か”という問いを根源的に考えることを意味する。

 こうした取り組みから、新しい地平が開ける。例えばドイツなどでは寝装機業が、その技術を応用して産業用メッシュ織物に参入したといった事例が存在する。そして、繊維機械メーカーの多くは、そういったユーザーの挑戦を待っている。だからこそ、ユーザーの技術を具現化し、資材用途への参入を可能にするソリューションを用意しているのだ。

島精機製作所/先端材料用途に新機種登場/NC裁断機「P―CAM」

 島精機製作所は、高効率・高生産性・高品質の自動裁断機「P―CAM」シリーズから、炭素繊維や複合材料(CFRP・GFRPなど)といった先端材料の裁断も可能にした新機種(NC裁断機)を開発した。

 炭素繊維や複合材料を下から吸引・固着し、超硬刃が指定通りにカット。作業者の健康や安全に配慮し、裁断時に生じる粉塵対策も講じた。パターンメーキングや高速かつ歩留まりアップを実現したネスティングソフト「オートマーキング プレミアム」を搭載したCADシステム「SDS―ONE APEX3」との組み合わせで、一貫生産システムの構築も可能だ。

 11月上旬に東京ビッグサイトで開催された「先端材料技術展2011」では、初出展ながら、大学・研究機関から民間企業まで様々な来場者の関心を集め、新規顧客開拓に手応えをつかんだ。

 P―CAMシリーズはすでに、主力のアパレルをはじめ、カーシートなどの自動車内装部品、炭素繊維やアラミド繊維などの産業資材、また家具関連など、それぞれに適した機種を多様にラインアップしている。新機種の登場で、自動車や航空業界はもちろん、多様な広がりを持つ産業界での拡大を図り、新たな柱に育てていく。

津田駒工業/緯糸挿入3方式で最適提案/WJでカーテンエアバッグも

 津田駒工業はエアージェット(AJ)、ウオータージェット(WJ)、レピアと緯糸挿入3方式をフルラインアップし、エアバッグ、タイヤコード、ガラス繊維織物、炭素繊維織物など資材用途でも最適の提案を行っている。

 9月の「ITMA2011」、津田駒工業ブースで一際注目を集めたのが、電子積極ジャカード搭載のWJ織機「ZW8100」だった。OPWカーテンエアバッグの製織実演を行ったが、これは世界初の試み。長繊維製織ではWJ方式は最もエネルギー効率が良いとされ、同社のWJ織機はモノフィラメントからフラット糸まで多彩な製織分野で活躍する。ここにOPWカーテンエアバッグが加わる意味は大きい。

 タイヤコードでは、AJ織機「ZAX9100TC」がある。テンション台から別巻き取り装置まで完備するコンプリート型専用モデルだ。毎分1000回転を超える高速生産で実働している。タイヤ関連ではチェーファ織物もZAX9100で製織できる。また、ガラス繊維関連でも900番手台の極細糸からレギュラー糸まで電子基板用で豊富な実績を持つ。近年ではアラミド繊維製織にも展開する。

 レピア織機では、炭素繊維複合材料専用モデル「CR3300」をすでに投入している。今後、需要拡大が見込める炭素繊維太番手織物に向けても開発を進めている。

神津製作所/ダブルコップで発表/アラミド用ワインダー

 炭素繊維用テークアップワインダーの世界最大手、神津製作所が、アラミドなどの高機能繊維用テークアップワインダー「ARK‐1000D」を発表した。

 テークアップワインダーは普通、シングルコップだが、ARK‐1000Dはダブルコップ。このため、省スペース、省エネルギー、効率的ランニングパフォーマンスを実現できる。一方の巻き取りでトラブルが発生しても、もう一本のコップは正常に稼働する機構もオプションで用意する。毎分1000㍍の巻き上げが可能だ。ITMAでは実機を展示するとともに、稼働状況をビデオで見せ、好評を得た。

 欧米でのアラミド繊維増産の動きに対応し、ARK‐1000Dを売り込む方針だ。中国への販売にも期待を寄せている。

 中国の1社にテスト機を導入してもらうための交渉をすでに進めている。

イテマウィービングジャパン/ラインアップから最適機種を/「シルバー501」も投入

 イテマウィービングジャパンは、9月の「ITMA2011」でデビューした最新レピア織機「バマテックスシルバー501」を日本市場にも投入する。

 北陸産地から資材用途ですでに引き合いが寄せられるなど手応えは十分だ。

 近年、カーシート用途では大手自動車メーカーを中心に織物に軸足を移す傾向が続く。カーシート用織物では、経糸への干渉を防ぐためにガイドレスの緯糸挿入方式が必須とされる。この点でバマテックスシルバー501のガイドレスレピアによる緯糸挿入システムへの評価は高い。

 また、フラットヤーン製織などでは「ソメットアルファPGA」のガイド付きレピア方式の汎用性が力を発揮する。こちらも能登産地などから土木資材用途で引き合いが寄せられているという。緯糸挿入の安定性という点ではプロジェクタイル織機「スルテックスP7300HP―V8」の存在も忘れてはならない。ITMA2011でもポリプロピレンフラットヤーンの製織を実演。筬幅3メートルを超える広幅織物では、その緯糸挿入の安定性は圧倒的なだけに、今後は資材織物用途にも重点的に提案していく考えだ。

 バマテックスシルバー501、ソメットアルファPGA、スルテックスP7300HP―V8をラインアップすることで、ユーザーのニーズに最適の機種を提案することが同社の基本戦略となる。

ストーブリ/無限の可能性秘める「ユニバル100」/「ションヘルα400」も展開

 ストーブリの完全独立駆動型電子ジャカード「ユニバル100」への関心が高まっている。綜絖を個別制御する方式は無限の可能性を秘めているからだ。また、新型カーペット用ダブルレピア織機「ションヘルα400リーンテック」も資材用途で活躍が可能だ。

 ユニバル100は、綜絖個々をサーボモーターで個別制御する完全独立駆動型電子ジャカードだ。機械的な制約から解放されたことで理論上、あらゆる開口条件を可能にするとされる。この機構を活用すれば、複合材料基材などに使用可能な三次元立体製織なども可能だ。

 同社はサーボモーター・システムのデーモを傘下に持つ。デーモのシステムを使用すれば、既存のシャトル織機に最新の電子ジャカードを搭載し、個別駆動させた上で電子的に同調させることが可能だ。これを活用すれば、シャトル織機による耳付き織物の可能性がさらに広がる。革新機構が伝統的技術を復活させることになる。そのフィールドには当然、資材用途も入ってくるだろう。

 また、カーペット用の5メートル幅ダブルレピア織機、ションヘルα400リーンテックは、人工芝など資材織物用途でも活躍できる。まだ日本での導入実績は無いが、今後は提案を加速する考えだ。

滝沢トレーディング/積極レピアで資材用途強化/経糸テンション管理に最新機構

 滝沢トレーディングが日本代理店を務めるピカノールは、最新鋭レピア織機「オプティマックス」に積極レピア方式を導入。これにより資材用途での可能性が一段と広がった。高機能繊維の製織に威力を発揮する経糸のテンション管理機構にも最新テクノロジーを投入した。

 「ITMA2011」で披露した積極レピア方式採用のオプティマックスは筬幅540センチでポリエステルモノフィラメント製織を実演するなど、その緯糸挿入の汎用性・安定性を見せ付けた。

 さらに注目は、経糸の張力を直接制御する新機構「ダイレクト・ワープ・コントロール(DWC)」。アラミド繊維や炭素繊維など産業資材織物で欠かせない高機能繊維は糸の伸度が少ないことから、ワインディングから整経まで極めて繊細な張力管理が必要とされる。これに対しDWCは製織段階での張力管理を高度化する最新テクノロジーだ。ITMAでもDWC搭載のオプティマックスでアラミド繊維の製織を実演するなど、ピカノールの産業資材用途への意気込みが伝わる。

 オプティマックスの積極レピア化、DWCの実用化で、ピカノールの織機の資材用途での注目が一段と高まることが予想される。

伊藤忠システック/欧州の最新潮流を日本に/革新機構搭載機をラインアップ

 伊藤忠システックは、ドルニエ、バン・デ・ヴィーレ、ボーナスなど多彩なメーカーの日本輸入元を務めているが、最近では資材用途で威力を発揮する機種の紹介にも力を入れる。欧州の最新潮流を日本に紹介することが商社としての使命だからだ。

 「ITMA2011」では、ドルニエが織物に対して垂直方向に糸を織り込むことで3軸、4軸織物の生産を実現するオープンリードウィーブ(ORW)を披露し、バン・デ・ヴィーレがダブルレピア織機、トリプルレピア織機でロングパイルサンドイッチ織物による複合材料サンプルを紹介するなど、従来以上に資材用途へ重点的に取り組む姿勢が鮮明だ。伊藤忠システックでは、こうした最新動向を日本のユーザーに素早く提案している。

 なかには、マゲバの多層シャトル織機など特殊織機の輸入代理店も手掛けている。マゲバの多層シャトル織機は、ITMAではストーブリの「ユニバル100」を搭載し、シームレスチューブ織物を製織実演していたが、これを活用した三次元織物は、複合材料基材や人工血管基材など先端材料分野で大きな力を発揮することになる。

 こうした先端材料分野に日本のユーザーが参入できる環境を整えることが、商社としての役割だと同社では考えている。