特集・小学生服/制服採用の広がりに期待/小中一貫教育の浸透背景に

2012年02月28日 (火曜日)

 小学生服の市場は、ここ数年大きな変化はないものの、新学習指導要領の全面実施に合わせ、小中一貫教育に向けた動きが各地で急速に進展しつつあるなか、制服採用で需要拡大の可能性が出てきた。また、石川県の七尾市や輪島市など一部の地域で制服導入を決める動きもあり、ほかの地域での制服着用の広がりに業界の期待が高まっている。ただ、小学校への制服導入は保護者への負担増になり、反発も少なくない。導入に対する理解を深めるにはまだまだ時間がかかりそうだ。

生徒数は過去最少も/市場広がる可能性秘める

 今月、文部科学省が発表した2011年度の学校基本調査(確定値)によると、小学校の在学者数は約10万人減の688万人と過去最少だった。昨年度から700万人を割り込み、年々減少が続いている。ところが、市場の規模が大きく落ち込んでいるとは各社ともとられていない。

 逆に、小学生服市場への販売を少しずつ伸ばしているところが多く、生徒数減少の影響は顕著に表れていない。もっとも「業界の淘汰が進んでいるだけで、それを考慮すれば決して安穏としていられない」(明石被服興業の金田伸吾スクール1部部長)のが実態だと言えそうだ。

 同時に、小中一貫教育の浸透によって一部の小学校で制服導入が進む可能性もあり、需要が少しずつ増えてくる可能性もある。需要増は各社の期待するところではあるが、小中一貫を導入しても、一つの施設で運営する「併置型」、隣接する施設をつなぐ「併設型」に比べ、圧倒的に施設が異なる「連携型」が多く、「一気に小学校にも制服を導入するような流れはなかなかない」(尾崎商事の経営企画室)との見方もある。連携型は一体感に乏しいだけにここは、“制服導入が一体感を醸成するきっかけを生む”などの訴求ポイントを逆転の発想で示していく必要がある。

 一貫化の大きな目的の一つには、中学進学時の環境変化になじめない「中1ギャップ」が原因とみられる不登校や問題行動の解消のほか、学力向上などもある。

 そういうなかで、小中一貫化という新しい教育環境に小学生服が果たせる役割はいろいろとありそうだ。

 例えば小学校高学年から中学校の制服を着用することで、中1ギャップを解消しようと取り組む事例もある。安全性などの面からも制服が果たす役割は大きいはずだ。

 地域によって制服に対する意識が違い、市場開拓が難しい分野ではあるが、「おろそかにしてはいけないターゲット」(明石被服興業の日笠秀美スクール2部兼スクール3部部長)であり、メーカーの地道な販路拡大への努力がこれからも続くことになる。

競合の壁を乗り越え/業界挙げての啓もう必要

 今年度から石川県七尾市が全小学校で制服を導入したことに続き、今春から輪島市が小学校に制服を導入するが、制服導入に対する保護者の賛否は、ほぼ伯仲していた。反対の一番の要因はやはり、制服購入の経済的な負担であり、具体的に制服と私服通学での単純なコスト比較ができないだけに難しいところだ。

 ただ、制服導入は導入コストの問題が解決されるだけでは進まない。規律を高め、よい学校環境を醸成するといった制服導入の利点を保護者へどう伝えていくかが、これからの市場開拓では重要なポイントになる。メーカーは「保護者に直接、商品を説明する機会を作るのはなかなか難しい」(オゴー産業の柿並裕章取締役営業本部長)だけに、知恵と工夫が求められる。

 トンボでは今年6月に開く展示会を前後に、小学生服導入を促進するパンフレットを作成し、学校などへ配る予定。「制服の優位性を分かりやすく伝えることで、導入のきっかけにつながれば」(花房秀樹スクール企画部部長)と期待する。

 オゴー産業では、販売を本格化する女児通学用のハーフパンツ「エンジェルパンツ」の認知度を高めるため、全国の販売店約50店舗にパネルマネキンを設置し、実際に保護者が商品に触れることで、商品の認知度を高める。

 尾崎商事は「直接的な需要は取り込めない」(経営企画室)としながらも、子どもたちの夢を応援する「カンコードリームプロジェクト」や、小学校で環境に対する勉強会を開く地球環境プロジェクト「地球教室」(朝日新聞社主催)を通じて、子どもたちを支援することで「『カンコー』ブランドを広める」考えだ。

 しかし、1社1社が個々に取り組むのは限界がある。「もっと競合の壁を取っ払って、業界全体で連携した動きをとって啓蒙活動を粘り強く続けていくしかない」(トンボの花房部長)と、今後は素材メーカーを含めて業界が一体となった動きを考えていく必要もありそうだ。