アウトドア特集・13春夏素材編/進化続ける高機能素材/他用途への展開、加速

2012年02月29日 (水曜日)

 素材メーカー各社の13春夏の素材提案は「より実感性の高い機能」を訴求する狙いから、従来から販売する素材をバージョンアップした打ち出しが多い。昨今のランニングブームやアウトドアブームを受け、高機能素材への注目は高まっており、より消費者目線に近づいたモノ作りや提案がポイントになった。

 ユニチカは熱遮へい素材「こかげ」で性能を10%アップした「こかげマックス」を提案、東洋紡スペシャルティズトレーディングもクーリング素材「ソニックエアー」にUVカット機能を加えた「ソニックエアーUV」を投入し、既存の機能を進化させた。また、東レは主力の吸汗速乾素材「フィールドセンサー」に、大量の発汗を伴う激しい運動に対応する「フィールドセンサー3D」を加えたほか、帝人ファイバーも遮熱素材「シーキューブ」で、要望に応じて冷感性や通気性、ドライ性を付与して展開するなど、用途やシーンに応じた機能素材を提案した。

 さらに、クラレの省エネ可染ポリエステルや旭化成せんいのケミカルリサイクル原糸、セーレンや東レのバイオマス由来繊維など、環境配慮型素材の提案強化も大きな特徴となった。

 一方、スポーツ向け機能素材の一般衣料用途への展開が加速している。素材メーカー各社は13春夏に向けてパンツやドレスシャツなどの提案を強化した。

 言うまでもなく、これは昨夏のクールビズ盛況によるものだ。夏を快適に過ごす高機能衣料に対する需要が高まるなか、スポーツ向けの機能素材にアイデアを求める動きが強まり、展開分野のすそ野がスポーツアパレルに加え、一般衣料アパレルにまで広がっている。

YKK/止水ファスナー提案/「アクアガードビスロン」も

 アウトドア分野では、雨などに濡れた場合、ジャケットの生地に防水加工を施してあっても、ファスナーのテープ部分から雨水がしみこみ、インナーが濡れることがあった。このため、YKKは撥水性能を持つ止水機能付きファスナーの開発を進めてきた。

 止水ファスナー登場以前は、雨よけのため、ファスナー部分にフラップを付けることで対応した。しかし、止水ファスナーの開発によって、ファスナーがむき出しでも問題がなくなり、アウトドアジャケットのデザインでもフラップのないものが可能になった。デザイン面で大きな変化をもたらしたと言える。

 同社は止水ファスナーを「アクアガード」シリーズと位置づける。さらに防水性が要求されるウエットスーツには「アクアシール」、水密気密性を求められる与圧服(宇宙服)には「プロシール」といった商品もそろえる。

 同社の止水ファスナーは、フィルムを張り付ける関係上、コイルファスナーの裏使いが標準仕様となり、そのフラット感に目新しさがあった。また、当初はファスナーをミシンで縫製したが、縫い目からの水の浸透もあった。このため、シームテープを張り付けたりしたが、徐々に無縫製(ホットメルト)が増えていった。

 2月からは新商品として「アクアガードビスロン」を本格販売した。同商品はテープ表面にポリウレタンをコーティングし、撥水性を持たせた止水ファスナーのビスロンタイプ。止水機能を持った独自のエレメント形状が特徴である。24色で展開し、価格は通常のビスロンファスナーの3~4倍。従来のコイルタイプのアクアガードと併せてスポーツアパレルを中心に販促を強化している。

 また、コンピュータグラフィックスでイラストやロゴ、柄などのデザインをプリントするおしゃれなファスナー「プリファ」には、止水ファスナータイプもあり、機能とファッション性を楽しめる。

東レ/ニット、織物で新素材/一般衣料向けも視野に

 東レは吸汗速乾や接触冷感、通気性、ストレッチ性など様々なシーンに対応する高機能素材をニット、織物で提案する。

 ニットでは主力の吸水速乾素材「フィールドセンサー」で、同社の素材の中では最高レベルの吸水拡散性能を発揮する「フィールドセンサー秒乾」を重点提案するほか、ドライ性を付け加えた新素材「フィールドセンサー3D」も投入した。特殊な編み組織で肌側に凹凸を持った立体的な生地構造を実現し、フィールドセンサーの吸汗速乾性に肌離れの良さも加わった。マラソンやサイクリングなど、大量の汗をかく激しい運動に対応する。

 また、接触冷感素材として「クールアプリ」を新しく投入した。肌側に吸放湿性ナイロン、表面側にポリエステルを配置した2層構造で、衣服内温度の上昇を軽減するクーリング効果と気化熱を奪うことによる接触冷感性を備えた。保湿性の高いナイロンを使用しているため、クーリング効果の持続性もある。

 織物ではバイオマス原料由来の繊維を使った4ウエーストレッチ軽量素材「フレックススキンプラス」を進化させて提案した。肌面の点接触組織を複雑な凹凸構造にすることで吸水性・ドライ性を高めた素材で、スポーツ用途だけでなく、ジャケットやパンツなどのビジネスウエア用途へ幅広い展開を視野に入れて提案した。

帝人ファイバー/シーキューブが進化/クーリング、快適テーマに

 帝人ファイバーは機能訴求に特化した素材のほか、「クーリング」と「快適性」をテーマにした素材提案を進めた。「クーリング」では太陽光線をカットする遮熱素材「シーキューブ」を軸に、冷感性・通気性・ドライ性の3つの機能を切り口にバージョンアップさせた素材を提案した。

 これは用途に応じてそれぞれの機能を付与して提案するもので、冷感性は扁平断面糸を用いることで発揮され、通気性・ドライ性は編み構造によって付与される。クーリング素材を強化するなかで同社は接触冷感性の指標であるQ―max値をスペック化するなど独自の基準を設け、それをクリアした機能素材を「より実感性の高い」ものとしてアピールした。

 「快適性」では物性・機能・風合いを兼ね備える多機能素材「デルタ」シリーズを重点素材に提案した。ニット素材「デルタ」は適度なストレッチ性と軽量性、吸汗速乾性を備えたインナー用途への提案。織物素材「デルタWV」はアウター向けの展開で、デルタシリーズの特徴である防水透湿性、ストレッチ性、軽量性をアピールするものとして打ち出した。

 機能に特化したものでは通気コントロール素材「ファイバライブ」を打ち出した。汗をかくと生地構造が変化し、通気性ををアップさせることで快適な着心地を保つ素材で、「2D」と「3D」の2タイプを提案した。

モリリン/機能とエレガント両立/「アイストーン」提案

 環境に優しい素材として世界的に注目されている「テンセル」や「レンチングモダール」などセルロース繊維を展開するモリリンのグローバルマーケティンググループのスポーツチームは、13春夏のスポーツ分野向けで機能とエレガントな要素を両立した新開発素材「Ice Tone(アイストーン)」提案する。

 同グループのスポーツチームは、原料から素材、製品まで一貫で対応し、独自商材を展開している。今回の新素材アイストーンは、レンチングモダールの複合素材として、上品なドレープ性やソフトな風合い、UVカット機能を持つ「リュクセル サン」をベースにする。リュクセル サンに夏の快適機能として欠かせない吸水速乾性などを付加し、よりシャープな質感を表現した。

 スポーツ分野では機能性に加えて着心地や風合いといった要素が重視される傾向が強まってきた。「ispo(イスポ)」など欧州展でもテンセルやレンチングモダールが活用され、「機能一辺倒から、風合いや着心地なども重視する方向に変化が見られる」(同グループ)と指摘する。

 同グループでは12春夏物の百貨店向けのエレガンス系アイテムで実績を上げているリュクセル サンを活用することで、スポーツ分野に「機能+エレガンス」な要素を取り入れた新素材を提案、拡販を図る。

ユニチカトレーディング/クーリング素材提案/「こかげマックス」軸に

 ユニチカトレーディングは遮熱効果を高めた新素材「こかげマックス」を中心に拡販を図る。クーリング素材を軸に吸放湿素材やストレッチ素材の提案を進めた。

 こかげマックスは12春夏から展開する「こかげ」を進化させた機能素材。優れた遮熱クーリング効果、高いUVカット性を濃色でも発揮するうえ、ソフトな風合いも兼ね備えている。

 芯鞘構造の芯部分に使う太陽光遮へいセラミックの面積をフルーツ状の特殊断面構造で増加させ、遮熱効果を10%アップした。

 クーリング素材としてはこのほか、気化熱を応用する「打ち水ドライ」、衣服内湿度をコントロールする「クールキャッチプラス」を提案した。ブームが続くランニングやアウトドア分野を強化していく方針だ。

 また、異型断面繊維に特殊セラミックを高濃度に練り込んだアウター向け吸水拡散・UVカット素材「ルミエースUV」やポリエステル使いのストレッチ素材「ムーブフィット」もトリコット調丸編み地で提案するなど、素材感のバリエーションを拡充した。

 同社は13春夏向け機能素材の販売で、前年比10%増を計画する。主力のゴルフシャツやアスレシャツでは吸水速乾素材などを中心に拡大するほか、好調な防風ニットなどを使った軽量ジャージ向けなどを伸ばす。

東洋紡STC/UVカットで新素材/軽量高密度織物も拡充

 東洋紡スペシャルティズトレーディング(東洋紡STC)は「レイブロック30スーパーライト」「ソニックエアーUV」の新素材のほか、軽量高密度織物「シルファイン」シリーズで「シルファイン10」を投入してバリエーションを広げた。

 レイブロック30スーパーライトは目付が1平方メートル当たり125グラム以下。これに加えて高捲縮フルダルポリエステル長繊維に特殊クリンプ加工を施すことで紫外線防止指数30を実現した。薄地・軽量でありながら優れたUVケア機能を有するニット生地と提案する。

 ソニックエアーUVは、クーリング素材「ソニックエアー」進化版としてUVカット性を付与した素材だ。ソニックエアーは独自の編み構造で発生させた気流が、体温で温まった皮膚表面の静止空気層を動かすことで快適性が得られる仕組み。これにも特殊クリンプ加工のフルダル扁平ポリエステルを使用しており、UVカット効果も加えている。

 13春夏から本格展開を開始するシルファイン10は高強力ナイロン「シルファイン」シリーズの最軽量素材。目付26グラム、引裂強力10ニュートン、厚さ40マイクロメートルを実現した。シルファインシリーズではこのほか、Y字断面の「シルファインエール」や三角断面の「シルファインプリズム」など、糸を異型断面化して機能性や独特の光沢感を付与し、バリエーションを広げた展開に注力している。

セーレン/「シャダン」など提案/環境配慮型素材も

 セーレンは13春夏に向け遮熱ポリエステル素材「シャダン」など高機能テキスタイル、高機能素材を提案する。また、環境保全により対応するスポーツ素材も打ち出している。

 熱対策の「シャダン」は、太陽光に含まれる赤外線を反射し、紫外線をカットする芯鞘構造型コンジュゲートフィラメント「イレイド」を使用。芯部に赤外線反射セラミックを配合、鞘部に酸化チタンを配合した糸である。赤外線反射素材であるが、含まれるセラミックの熱伝導性が優れた放熱効果を発揮することが新たに分かり、遮熱ポリエステル素材として打ち出している。アウトドアやゴルフウエアに向ける。

 「ビスクールHP」は、高い加工処理温度でも耐えうる接触冷感素材。芯鞘型コンジュゲートナイロンフィラメントで、芯部の特殊化合物が高い耐熱性(190℃)を有し、吸水、吸湿、制電、冷感機能がある。インナーやシャツ地に向ける。

 植物由来の高透湿防水コーティング素材「バーレルグリーン」は、ポリウレタン樹脂の主原料の一部を植物系原料へと変換することで、環境に優しい素材にした。

 また、「ポールレンSF」は耐久撥水素材であるが、環境影響に疑いのあるPFOA(パーフルオロオクタン酸)を検出限界以下にまで抑えたフッ素系撥水素材で、従来品レベルの耐久性も備えている。

旭化成せんい/真の機能性追求/エラクションを拡充

 旭化成せんいは様々なシーンに対応する多彩な機能素材群を展開する。肌ドライ素材「シュアドライマックスβ」をはじめ、超軽量織物「インパクト」シリーズ、運動追随性ストレッチ素材「エラクション」シリーズなどを提案する。

 肌ドライ「シュアドライマックス―β」は吸水・吸湿性能に優れる「ベンベルグ」を吸水ポリエステル層と拡散ポリエステル層で挟んだ3層構造。ウオーキング程度の軽い運動から大量の汗をかく激しいスポーツ活動でもドライ感を持続させることができる。

 好調の軽量高密度織物「インパクト」シリーズでは11デシテックス使いを本格展開するほか、耐洗濯性のある制電性を備えた「インパクトAS」、100%ケミカルリサイクル原糸から作られた「インパクトエコセンサー」をラインアップして打ち出した。アウトドアスポーツを中心に、広くスポーツ分野・カジュアル分野で拡大を狙う。

 スパンデックス繊維「ロイカ」を使用したコンプレッションウエア向けストレッチファブリック「エラクション」シリーズからは「エラクション プロ」を重点提案する。経緯の伸縮バランスに優れており、体のあらゆる動きに追随する。さらに運動中の身体への負荷軽減効果や運動後の疲労回復効果確認も確認されており、13春夏ではランニング向けに6品番を提案する。これまではトリコットが主力だったが、丸編みも2品番加えた。

クラレトレーディング/「環境」への取り組み/原料の省エネ化に注力

 クラレトレーディングはスポーツ向け素材で「ソフィスタ」「スペースマスター」を主力としている。

 ソフィスタは親水基を持った繊維で、汗や水分を繊維表面で吸収、素早く拡散するほか、接触冷感性も備える。また、その原料であるエチレン―ビニルアルコール繊維は付加する物質と化学結合するため、様々な機能を付加することも可能で、しかも半永久的に持続することが特徴だ。

 スペースマスターは十字断面のポリエステル繊維でレギュラー品に比べ25%以上の軽量化を実現しているほか、肌への接触面積が小さいため、べとつき感を抑える。また、その断面形状によって効率的な毛細管現象を発揮し、吸汗速乾性にも優れる。

 従来から展開するこれらの素材を軸として、同社が注力するのは省エネ化への取り組みで、同社が展開する環境配慮型素材の提案を進めている。

 その戦略素材として昨年投入したのが省エネ可染ポリエステル「ピュアス」。汎用の分散染料を用いながら通常のポリエステルよりも25℃低い105℃で染色できるため、ボイラー重油や電力などの消費を抑える。これにより染色過程でのCO2の発生量を20%程度削減可能だ。

 同社ではポリエステルの全量をピュアスに置き換える計画を掲げており、ソフィスタやスペースマスターなどのスポーツ向け素材でも原料の省エネ化提案を今後、加速していく。