クラレの新中計 「GS-3」がスタート/世界に存在感示すスペシャリティ化学企業へ

2012年05月16日 (水曜日)

長期企業ビジョン実現に向けて

クラレはこのほど、新中期経営計画「GS-3」(2012~14年度)を発表した。14年度売上高5500億円、営業利益850億円、純利益500億円、ROA14%、ROE11%を目標とする。うち繊維は800億円の売り上げ規模。18年近傍には全社売上高1兆円、営業利益1500億円をイメージする。技術革新を通じた新たな製品・用途開発を加速させるとともに、国内外を問わず、成長余地のある市場・分野で事業を拡大し、持続的な成長の実現を目指す。

 伊藤文大社長は「前中計のGS―Twinsは、リーマン・ショック直後の計画であり、収益構造回復を最重点課題に置いた。その結果、最終11年度は営業利益が10年度に引き続き目標の500億円を上回り、過去最高の547億円で着地できた」と語る。

 「GS―Twins」では、「収益構造の改善」に向けて、設備投資圧縮、固定費削減、製品価格・ポートフォリオ改善、低採算事業の構造改革に取り組んだ。その結果は11年度連結決算が示すように、過去最高の利益を計上するまで改善した。

 売上高は3690億円と目標の4500億円には達していないが、これは円高の影響を受けたもので、ドル換算では当初目標を達成できたといえる。

 また、前中計では事業拡大、成長に向けた積極的な施策も実行。「新事業の創出・拡大」として、水・環境領域でアクア事業を推進、エネルギー領域では太陽光発電向け集光レンズの事業化、リチウムイオンバッテリー(LiB)負極材事業の進出などにも着手した。

 「コア事業の世界戦略加速」では欧州でPVA(ポリビニルアルコール)・PVB(ポリビニルブチラール)増強投資、北米でEVOH(エチレンビニルアルコール共重合体)増強投資などを行った。

 リーマン・ショック後の厳しい3年間を前中計の推進によって乗り切り、「長期企業ビジョン」の示す18年近傍売上高1兆円、営業利益1500億円の実現に、「再び挑戦できる基盤が整った」と総括できる。

主要な経営戦略は

 新中計の目標数値は、18年近傍の数値が見通せることを前提に策定した。それが14年度で売上高5500億円、営業利益850億円という目標。だが、これを達成しても、18年近傍目標に対して、売上高で4500億円、営業利益で650億円の開きがある。

 伊藤社長は「15年度以降のポストGS-3では、M&Aなどで2000億円、既存事業の成長と新事業の業績伸長で2000億~2500億円をさらに上乗せしたい」と述べた。長期企業ビジョンで描く「世界に存在感を示すスペシャリティ化学企業」に向けて、新中計では5つの主要経営戦略を掲げた。(1)技術革新(2)地域拡大(3)外部資源活用(4)経営基盤強化(5)環境対応――である。

 技術革新では、新製品・用途開発の加速とプロセスイノベーションによるコスト競争力の確保に取り組む。長期ビジョンでは「独創性の高い技術により全地球的課題に効果的な解決策を提供する」という。技術革新を通じた新たな製品・用途開発を行うことで業容を拡大し、将来の成長につなげる考えだ。

 また、プロセスイノベーションで建設コスト・生産コストの両面での競争力を確保し、省エネを通じた環境貢献も実現していく。

 地域拡大ではアジア新興国に限らず、「場所を問わず、成長市場に活動を展開する」方針。この売上高を地域別に見ると、14年度で日本が2400億円と全体の44%を占める。アジアが1490億円(27%)、西欧870億円(16%)、北米510億円(9%)、その他230億円(4%)という内訳だ。日本比率が現在の50%から低下するものの金額ベースでは拡大。アジア、西欧、北米、その他地域もそれぞれ伸びていく。成長余地のある市場での活動拠点の拡充・多極化を図って、事業拡大を加速する戦略だ。

 さらに、アライアンスやM&Aといった外部資源の活用によって、事業拡大を加速していく方針だ。同社はこれまで自社開発による優れた独自素材を提供してきた。この伝統を堅持しつつも、自社技術を補完・発展しうる領域で外部資源との融合・有効活用を図る。

 国内外での規模拡大により、広域化・複雑化していく事業を支えることも重要な課題だ。経営基盤の強化ではグローバルな事業展開拡大を支える人事・CSR(企業の社会的責任)・財務等間接機能を強化する。

 環境に貢献する製品・システムに欠かせない素材・中間材を、低環境負荷で提供していくことも今後の大きな使命。

 同社は環境指標として「環境効率」(売上高/環境負荷)を取り上げ、20年度の到達目標を定めた「環境中期計画」を策定・実施する。国内事業所では地球温暖化対応として売上高/GHG(地球温暖化ガス)排出量40%向上、化学物質排出管理では売上高/化学物質排出量100%向上、資源の有効活用として売上高/廃棄物発生量10%向上を目指す。

設備投資2400億円

 設備投資はこの3年間で2400億円を見込む。年平均で約800億円の水準になる。そのうち70%強を生産能力増強に当てる計画だ。

 主要設備投資案件は、ポバール樹脂の北米新設とアジア・欧州での増設とする。PVBフィルムのアジア新設(自動車用途)、ポバールフィルムの増設、「エバール」のアジア新設、「セプトン」の北米増設、太陽光発電向け集光レンズの増設、LiB負極材の設備新設、「べクスター」増強などである。

主要な事業戦略は

 セグメント別では、繊維は14年度売上高を800億円(11年度実績634億円)、営業利益を40億円(同11億円)に設定。「クラリーノ」の構造改革完了による安定的収益の確保、ビニロンのセメント補強用との拡大、不織布「フレクスター」など新規素材の早期拡大を進める。各繊維事業の強みを生かし、持続的な収益力確保と新分野開拓に注力する。

 ビニロンはセメント補強用途を拡大。また、革新的生産プロセスの技術確立としてコンパクトな設備にし、海外生産を可能にする。人工皮革は事業構造改革の完了による安定的収益の確保を目指す。12年度には「めどがつく」とみる。不織布・ファスニングは「フレクスター」など新規素材の早期拡大を図る方針だ。

 繊維の海外売上高比率は40%だが、「今後の伸びは海外。海外売上比率はさらに上がる」見通しにある。

 樹脂セグメントでは、酢酸ビニル系事業の世界ナンバー1サプライヤーとして、新規・既存市場での拠点拡充で需要を確実につかみ、成長市場への地域戦略強化とともに、コスト競争力強化、新製品・新規用途開発も推進。化学品セグメントは、スペシャリティ化学の新製品・用途の開発力を最大限発現することで業容拡大を図る。また、安定的・優位な原料調達とオンリーワン製品の安定供給のため、海外新拠点の構築を検討する。

 環境、エネルギー、光学・電子、新素材を領域とする新事業も加速する。例えば、新規バイオ系原料(ファルネセン)液状ゴムは、ここにきてタイヤ用途を中心に拡大している。用途ターゲットは、低燃費タイヤなどで、13年度下期から販売開始を見込む。

 高速伝送回路向けLCPフィルム「ベクスター」は、高速伝送特性と薄型化を両立したもので、高性能ノートパソコン、タブレットやスマートフォンでの採用を期待。12、13年度に生産能力を増強し、13年度からの利益貢献を予定する。

 アクア事業では、独自素材(大孔径膜・ゲル)を核とした事業基盤の確立を進めるほか、有価物回収システム、バラスト水管理システム事業拡大などに取り組んでいく。

記者メモ/進んだ構造改善

 クラレの12年3月期連結決算は、売上高が3690億円(前期比1・6%増)、営業利益547億円(3・1%増)、経常利益539億円(5・6%増)、純利益315億円(9・5%増)と、増収増益だった。利益は前期に引き続き過去最高を更新した。売値改定や銘柄構成のシフト、コスト削減などによるものだが、独自性のある商品だからこそ、価格改定もできるのだろう。

 伊藤社長は12年度の重点課題として、新中期経営計画「GS-3」をスタートさせ、「技術革新を通じた新たな製品・用途開発を加速させる」と語った。

 とくに(1)耐熱性ポリアミド樹脂「ジェネスタ」用途の拡大(照明・自動車向け)(2)ビニロンの新技術開発(小型化・省エネ化)(3)アクア・エネルギー関連事業の進展――などに取り組む。

 繊維は売上高こそほぼ横ばい見通しながら、「クラリーノが黒字化するので、営業利益は前期の11億円から20億円に拡大」を見込む。ここでも事業構造の改善が進んでいる。