紡績のクールビズ素材/接触冷感よりも“高通気性”
2012年05月22日 (火曜日)
今年も本格的にスタートした“クールビズ”(CB)。昨年は原発事故に端を発する節電ビズも加わり、浸透が一気に進んだ。だが、素材メーカーからすれば、昨年の節電ビズはすでに素材販売を終えた段階でキャンペーンが始まったため、波及効果は一部にとどまった。その意味で12夏は素材メーカーが十分に準備したCB素材開発・提案の真価が問われた。見えてきたのは、本当に必要とされる機能の吟味である。
昨年のCB素材でにわかに注目を集めた機能が接触冷感だった。接触冷感の指標とされるQ―max(接触冷感評価値。0・2以上で接触冷感ありとされる)の数字が注目された。だが、素材メーカーの開発担当者の間では、早くから「Q―maxは、あくまで一つの要素の指標であり、涼感や快適性を完全に担保するものではない」との指摘がなされていた。
そもそもQ―maxは、接触物から生地が奪う熱量の大小の指数である。このため、例えば熱伝導率の高い繊維を使用し、生地の密度を上げ、さらに厚地にすればQ―maxは高くなる。しかし、こういった素材が涼感を保証するとはいえないことは明瞭だ。逆に繊維が奪った熱が効率的に輻射されなければ、それは保温素材と同じことになる。
こうした面から、接触冷感以上に涼感機能の重要な要素として注目されるのが“高通気性”である。涼感の要素として瞬間的な接触冷感よりも衣服着用時の湿度に注目する考え方である。そこで衣服内の風通しの良さや発汗時のムレ感軽減が重要になる。つまり高通気性と吸水速乾・吸湿放熱が涼感機能のカギとなる。このため紡績各社とも、こうした視点の素材や商品提案を強化している。
綿100%冷感肌着「ロモスアイスドコットン」、接触冷感丸編み地「パールマイン」を販売する富士紡ホールディングスは、12夏向けからロモスアイスドコットンの編み組織を梨地組織に変更することで通気性を高めた。接触冷感機能ではQ―max値0・3前後という極めて高い性能を持つが、やはり通気性の重要性を認識している。
12夏向けで吸水速乾・吸湿放熱加工の涼感丸編み地「クールドライX」を提案したダイワボウノイは、13夏向けに「サラファスト」を投入する。編み地の特殊立体構造による高通気性とドライ感が特徴である。
校倉造り構造織組織による高通気織物「アゼック」が好評のシキボウ。13夏向けでは、さらに通気性を高めた簾構造織組織を採用した「すだれ織り」を投入するなど、やはり高通気性に焦点を当てた涼感素材の開発を進めた。
クラボウも新たに高通気織物「風織」を開発した。特殊織り構造で実現したもので、24日から時事通信ホール(東京都中央区)で開く繊維事業部展で披露する。
そもそも衣服の涼感性は複合的要素によって構成されている。CBが完全に定着した現在、従来以上に科学的で厳密な機能素材の開発と提案が必要とされている。