開発の軌跡・合繊メーカーの機能糸(1)東レ「キュープ」/ナイロンの強み生かす

2012年06月18日 (月曜日)

 機能繊維の開発には、革新的な技術のほかに、顧客のニーズや開発者自身のアイデアが欠かせない。それが新素材のコンセプトになったり、用途開発のヒントになったりするからだ。各社の機能素材を紹介する本連載では、開発過程にあった試行錯誤の跡に接する。

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 東レの高吸放湿性ナイロン「キュープ」は衣料用としての快適性を追求したナイロン原糸だ。1997年に販売を始めて以来、数量、用途の拡大やさらなる快適性の追求でバリエーションを広げている。現在、5つのタイプを展開し、機能ナイロン原糸の基幹ブランドになっている。

 従来、ナイロンは強度が強く、しかも柔らかな風合いを持つ。加えて、衣料用の合成繊維の中では吸放湿性が最も高い。このためパンストやインナーを中心に、肌に近い用途で多く使われている。

 キュープの開発コンセプトは、これらナイロンの強みを生かした快適性の追求にあった。風合いはもちろん、夏場に着用してもムレを解消する、さらに高い吸放湿性の実現が最大のテーマだった。

 吸放湿性の向上をどのように実現するか。ポイントはポリマーの探索だった。レギュラーナイロンにさらに吸湿性と脱湿性を付与する特殊なポリマーの発見が、キュープの最大の秘密だ。これをナイロンに均一にブレンドする技術、溶融紡糸しても機能を損なわない耐熱性の付与、最適なコストで十分な機能を発揮する含有率など、多くのハードルを越えて、5年の開発期間を要して完成した。レギュラーナイロンと比較して2倍の吸放湿性を発揮する。

 パンストや女性用インナーが主力用途だったが、顧客からの要望や開発者アイデアで、用途も広がっている。機能を持ったインナーが男性にも求められるにつれ、綿がほとんどだった市場に、合成繊維の活躍の場ができ、キュープも男性用インナーに採用、ナイロンの市場開拓に成功した。

 ふとん側地へも採用されている。羽毛代替の高保温性中わたの開発が進むなかで、ムレ感を解消するキュープの吸保湿性やソフトな風合いが評価された。

 今もキュープのテーマである快適性の追求は止まらない。高吸放湿性を軸に、ハイブリッドな機能を持った繊維として、ファミリー展開を生み出し、今後も新しい価値を創造する開発の取り組みを進めている。