2012秋季総合特集(5)トップインタビュー/村田機械社長・村田大介氏/消費者が“日本製”を支える

2012年10月26日 (金曜日)

 国際繊維機械見本市「ITMA2011」や「ITMAアジア+CITME2012」で特殊渦流精紡機「ボルテックスⅢ870」、自動ワインダー「QPRO」と新機種を相次いで発表した村田機械。世界的に繊維機械の市況が一服するなか、村田大介社長は「今後は新機種の販売に重点的に取り組む」と話す。世界でも高い競争力を持つ日本の繊維機械だが、村田社長は「世界一厳しい消費者がメードイン・ジャパンを支えている」と指摘する。

(むらた・だいすけ)

 1987年村田機械入社。94年取締役、97年常務取締役、2000年専務取締役。03年から社長。

新型機の拡販を推進

――繊維機械の市況も昨年から一変しました。

 世界経済を見ても、けん引役がいなくなってしまいました。欧州の債務危機に加え米国経済も勢いが落ちています。欧米向け輸出が減少したことで中国経済も踊り場となりつつあります。こうなると世界的に設備投資に対して慎重にならざるを得なくなります。当社の繊維機械販売も昨年下期から減少傾向が続いていました。そもそも昨年前半までの好調は、リーマン・ショック後の急激な需要落ち込みに対する反動で良すぎたという側面もあります。とはいえ、1㌦=90円以下の為替水準が3年続いていることで収益面では大変厳しくなっています。

――今後の対応は。

 経済情勢については先行きが見えにくい状態。各国とも問題を抱えていますし。その意味では来年も不透明ですね。引き続き調整の年となるのではないでしょうか。そうしたなか、当社では昨年に渦流精紡機「ボルテックスⅢ870」、自動ワインダー「QPRO」と新機種を相次いで発表しました。これらをしっかりと売っていくことが今後の重点課題となります。すでにボルテックスⅢ870は順調に受注を頂いています。世界的に繊維機械に対して“省エネルギー・省資源”“高生産性”を求める方向は一段と強まっていますので、この点で差別化することが基本。新機種はいずれも従来機以上に省エネ・省資源・高生産性を追求した機種です。1950年には世界の人口は約25億人でしたが、これが現在は70億人。さらに増加しています。そうなると省資源が重要になるのは必然と言えるでしょう。また、紡績分野では、まだリング精紡機のシェアが圧倒的なわけですが、これを少しでもボルテックスで置き換えることができれば、大きな市場になります。そのためにはボルテックスで生産する糸にメリットがなければなりません。すでにレーヨン紡績などでは高い評価を得てきました。最近ではポリエステル100%糸をはじめ、綿糸や混紡糸の紡績にも広がってきています。

――円高に呼応して欧州メーカーの攻勢が激しい。

 欧州メーカーと競争するためには、コストダウンを進めなければなりません。新機種を安売りするわけにはいきませんから。生産はあくまで国内で維持しながら、材料や部品の調達などは海外も含めて行う必要があります。繊維機械の世界は、販売やサービスは早くから国際化しています。今後は調達も国際化することが重要になるでしょう。その際、最も大切なのは、品質の確保です。

――日中問題が微妙になってきました。

 手続き厳格化による通関遅れなどが懸念されます。それと今回の問題は、中国自体も権力の移譲期だったことで複雑化してしまった印象がありますね。日本製品の不買運動なども起こっていますが、結局は中国の人に「日本製を売った方が、あるいは買った方が得だ」と思わせる独自商品を作り続けることが日本にとって最大の防御策でしょう。

――繊維産業でメードイン・ジャパンの魅力とは何でしょうか。

 日本は、縮小したとはいえ川上から川下まで高度な形で繊維の産業構造が維持されています。こうした国は世界でも珍しい。これを支えているのが、世界一厳しい目を持つ日本の消費者です。香港や上海で日本のファッションが評価されているという話を聞きましたが、こうした発信力があることが日本の強みでしょう。繊維機械でも同じです。やはり日本メーカーには発信力があります。キーワードは“省エネ”“省力化”“環境”など。当社の機械もそうですが、伝統的に斬新な発想が得意ですね。それと、ユーザーの使い勝手の良さにこだわって機械を作り込むのも日本の特徴です。斬新な発想と、ユーザーの使いやすさ、これを両方とも実現しようとすることが日本の強みだと言えます。そして、こうした強みは、やはり日本の厳しいユーザーとのコミュニケーションの中から生まれていると言えます。

わたしの好きなメードイン・ジャパン/やっぱり自社の機械が好き

 「手前味噌な話だが、やっぱり自社の機械が好き。使い勝手の良さというメードイン・ジャパンの精神が込められている」と村田さん。最近では欧州メーカーも渦流方式の精紡機に参入するなど競争が激化するが「欧州製に比べて使い勝手の良さが全くちがう」という自信の新型機だ。もっとも、そういった良さもユーザーに実際に使ってもらってこそ、初めて感じてもらえる。「内向きになってはいけません」と、自信を持って提案することの大切さを訴える。