ベトナム繊維産業/川上、川中の整備進む/生地商の進出に期待感

2012年11月01日 (木曜日)

 「ベトナム=縫製地」というイメージを持つ人も多いだろう。たしかに、原糸や生地の生産地としては、中国はもちろん、同じアセアンのタイやインドネシアにも大きく遅れをとる。しかし、近年は川上(糸)、川中(生地)への投資が急ピッチで進められ、タイ、インドネシアに続く総合生産地への変ぼうを遂げようとしている。さらに、現地の縫製工場をオペレーションする日系商社からは、日本の生地商がベトナムで生地を供給してくれることへの期待も聞こえており、これに呼応する生地商も出てきた。 (ホーチミンで吉田武史)

 丸紅・テキスタイル・アジア・パシフィック(MTAP)ホーチミン事務所の福原弘次所長によると、昨年5月に戦略的包括提携関係を結んだベトナム最大の繊維公団、VINATEXが川上、川中への投資を強めている。2008年、ベトナム政府は繊維輸出額を20年に250億ドル(11年実績は140億ドル)へ引き上げることを発表しており、VINATEXの川上、川中投資もこの一環を構成する。

 これまでは素材背景の弱さが同国の特徴と言えたが、これに“国”がてこを入れ始めた。現状、素材はタイのエラワン・テキスタイルやインドネシアの日系紡織企業、中国企業製など。わずかにベトナム国内の生地を使うケースもあるが、まだまだ少ない。今後はVINATEXとの提携を背景に、丸紅グループとして連携し原糸、生地の受け入れ体制を整えていく。

 帝人フロンティアのホーチミン事務所は年内の現地法人化に合わせ、「国内で副資材と生地調達を進める」(尾本道生所長)方針。副資材はモリトや東海サーモ、モリリンなどが現地生産を開始するなど「それなりに整ってきている」うえ、スポーツカジュアル衣料は現地の生地を使用するケースも多いという。台湾や韓国の紡織企業がベトナムに進出していることが背景にある。今後さらに現地調達を強めるのは、日本の小売価格が上がらないため。ベトナムでも人件費は右肩上がりを続けており、「材料費でコスト削減するしかない」との認識だ。

 川上、川中工場の整備に期待する両社に対し、スミテックス・インターナショナル・ベトナムの杉原教由社長の見解は少々異なる。縫製工場のオペレーションが主事業である同社の生地調達先は現状、7~8割が日本、残りは中国という構成。今後は「アセアンでの調達を進めたい」考えだが、そのため日本の生地商との連携を模索する。

 この声に呼応するように生地商では、瀧定大阪がタイ、インドネシア、ベトナムで近い将来の拠点設立を検討するほか、サンウェルなど複数の生地商が現地での生地受け渡し体制を整えている。このように、OEM商社と生地商の利害が“チャイン・プラスワン”で一致していることから、ベトナム国内での生地調達は今後も加速していくものと見られる。縫製だけだったベトナムの“総合化”が進む。