アジア特集/チャイナ・プラスワン ベトナム編/+1の筆頭に揺るぎなし
2012年11月09日 (金曜日)
かつての貧困国ベトナムも、いまや中進国の仲間入りを果たした。経済の中心地で、全人口の1割を占める900万人が暮らすホーチミン市内では、名物である多人数乗りのバイクが行き交い、活気を呈す。同国は1986年に「ドイモイ(刷新)」と呼ばれる対外開放政策を掲げ、経済を急速に発展させてきた。1人当たりの名目GDP(国内総生産)も順調に伸び、2011年には1374ドル(約11万円)に達した。経済をけん引するのは縫製業だ。11年度の輸出品目内訳は、2位の原油(7・5%)、3位の電話機、電話機部品(7・1%)を大きく引き離して縫製品(14・5%)が君臨する。日系商社の多くが“チャイナ・プラスワン”を旗印に同国に縫製拠点を構築している。さらに近年は川上、川中への投資が進み、繊維生産地としての総合化が進む。人口は約9000万人で、近いうちに1億人を突破することが確実。人口増加を背景に、市場としての魅力も増す。
賃金は急角度で上昇/生産性上げ、さらに発展
ベトナムで縫製業に従事するワーカーの賃金は、中国の半額、ミャンマー、カンボジアの倍とされる。コストだけをとってみれば、東・東南アジアの縫製地としては「高くもないが安くもない」位置に存在するのが現在のベトナムだ。
ミャンマー、カンボジアなどと比べた際の優位性は、日系を中心に縫製工場の整備が早くから進められていたこと。品質面ではまだまだミャンマー、カンボジアの追随を許していないと、ベトナムに進出する多くの商社がみる。
同国の賃金は急拡大で上昇している。しかし、丸紅の香港繊維子会社、テキスタイル・アジア・パシフィック(MTAP)のホーチミン事務所の福原弘次所長は「まだまだベトナムでやれることはある」と強調する。国民性は、非常に明るく、素直で素朴、勤勉で物事に対して一生懸命取り組むとされ、日本人に近いと言われる。反面、南国らしく“のんびり”した面もある。この性格が影響してか歴史の違いか、縫製工場の生産性は、中国よりも2割低いとされる。この改善に取り組めば、「まだまだやれる」(福原社長)。単純な工賃比較ではミャンマー、カンボジアが有利だが、物流費や電気代、電話代などをトータルで見ると、「それほど差はない」とも話す。
帝人フロンティア・ホーチミン事務所の尾本道生所長も「カンボジアやインドネシアよりも生産性が高いのがベトナムの特徴で、ミャンマーなども人件費はたしかに安いが、インフラ経費がかさむし、少量生産には向かない」と指摘する。
日中関係の悪化などを背景に、今後“チャイナ・プラスワン”機運が高まるのは確実な情勢。ミャンマー、カンボジアなどでユニフォームなどの大量生産を、ベトナムで婦人やメンズのカジュアルをといった使い分けが進むことが予測されるが、プラスワンの第一候補がベトナムであることに異論を挟む余地はないだろう。それは、副資材、原糸、生地といった川上、川中段階が整備されつつあることからも間違いない。
川上、川中の整備進む/政府が“総合化”後押し
ベトナム最大の繊維公団、VINATEXが川上、川中への投資を強めている。ベトナム政府は08年、繊維輸出額を20年に250億ドル(11年実績は140億ドル)へ引き上げることを発表。VINATEXの川上、川中投資もこの一環だ。
帝人フロンティアのホーチミン事務所は年内の現地法人化を予定する。それを機に、「国内で副資材と生地調達を進める」(尾本所長)方針を打ち出す。副資材はモリトや東海サーモ、モリリン、コロナマルダイなどが現地生産を開始するなど「それなりに整ってきている」。台湾や韓国の紡織企業の進出も目立つ。
さらに、日本の生地商もベトナムに注目し始めた。瀧定大阪がタイ、インドネシア、ベトナムで近い将来の拠点設立を検討するほか、サンウェルなど複数の生地商が現地での生地受け渡し体制を整えている。
スミテックス・インターナショナル・ベトナムの基幹縫製工場/サミット・ガーメント・サイゴン/20年の蓄積で高品質
スミテックス・インターナショナルは今年4月、ベトナム・ホーチミンに現地法人、スミテックス・インターナショナル・ベトナム(SVL)を設立した。その基幹工場がサミット・ガーメント・サイゴン(SGS)だ。
SGSはホーチミン市内にある。タンソンニャット空港から車で約40分、ホーチミン中心市街地から車で約30分、活気あふれるチャイナタウンに近接し、交通至便な立地にある。裁断から縫製までの一貫生産のワークショップを6つ(=6工場)そろえ、ここで2000人の従業員が主に日本向けの製品を縫う。
主要製品はコート、テーラードジャケット、ブルゾン、パンツ、ジーンズ、シャツなど布帛全般で、中高級品が中心。年産枚数は約100万枚。
SGSの歴史は古く、スミテックスとの関係は20年前にさかのぼる。元国営企業であるフーギ社と、私企業であるビンソン社でそれぞれスミテックスの専用ラインを敷いていたが、この2社が2000年に統合して誕生したのがSGSだ。依頼、増設を続け、生産能力は当初のほぼ倍増となった。
今年の生産数は昨年対比10%伸びた。“チャイナ・プラスワン”に加え、長年にわたる同社の品質に対する姿勢が評価された。10%増の内訳が新規ではなく既存顧客での商量増であることが、それを証明している。