進む先端材料開発/バイオ繊維に新時代/PETの登場が起爆剤
2013年01月01日 (火曜日)
植物などを原料とするバイオマス(バイオ)繊維が新たな時代を迎えつつある。日本でバイオ繊維として、ポリ乳酸(PLA)繊維が登場して15年余り。物性、価格両面から繊維では伸び悩んでいた。そこに登場したのが、バイオ原料によるポリエステル繊維だ。ポリエステル原料の3割をバイオ由来にした部分バイオが発売されている。基本物性は石油由来と同じだけに、コストは別にして通常のポリエステル繊維の用途展開が可能となる。その面でバイオポリエステル繊維の登場はバイオ繊維の世界をガラリと変える可能性を秘める。
PLA繊維の限界/物性・コストで伸び悩み
植物を原料とする化学繊維はレーヨンがその代表格。旭化成せんいのキュプラ繊維「ベンベルグ」はコットンリンター、三菱レイヨン・テキスタイルのトリアセテート繊維「ソアロン」、ジアセテート繊維「リンダ」は木材パルプを原料とする。
こうした化学繊維とは異なり、植物を原料としながらも熱可塑性を持ち、溶融紡糸や射出成型などが可能となる素材が登場する。それがユニチカの「テラマック」だ。同社は1998年、トウモロコシから製造するPLAを原料に繊維、不織布、樹脂、フィルムを事業化する。これが日本のバイオ繊維の始まりになる。その後、旧カネボウ合繊、東レ(「エコディア」)、クラレ(「ジオダイナ」・撤退)、帝人(「バイオフロント」)が参入する。しかし、PLAは樹脂で一定評価を得るものの、繊維としては伸び悩んだ。
業界推定によると、米ネイチャー・ワークスが生産するPLA原料は年間10万トン(公称能力14万トン)と言われるが、日本への輸入量は5000~6000トン。その多くは食品容器などに使用されており、繊維用は少ない。
ユニチカは当初、衣料用に力を入れ、東レは自動車内装材などで商品化するが、ポリエステル繊維に代わる素材にはならなかった。それは、PLA繊維が持つ生分解性という特徴と相反する耐熱性など耐久性に劣るという問題だった。
各社とも基本物性を改善するための開発を進める。しかし、元々、原料価格が高い上、他ポリマーとの複合化(アロイ化)を行えばさらにコストは高くなる。これがPLA繊維最大のネックになった。
バイオPETが登場/石油由来と同じ物性
こうしたPLA繊維の弱点を解消したのが、バイオ原料によるポリエステル繊維だ。PLA繊維のような生分解性はないものの、通常のポリエステル繊維と同じ物性を持つ。
ポリエステル繊維は高純度テレフタル酸(PTA)とエチレングリコール(EG)を原料とする。現在、商品化されているのはEG部分をバイオ原料とする部分バイオポリエステル繊維だ。
バイオ由来のEGを生産するのはインドのインディアグリコールズ(年産9万トン)、豊田通商と台湾の中国人造繊維の合弁によるグリーンコール・タイワン・コーポレーション(GTC、年産7万トン)の2社。この原料を使い、部分バイオポリエステル繊維が製造されている。
その一つが2010年、帝人が発表した「プラントペット」だ。海外企業への生産委託により販売している。これに続き、12年には東洋紡スペシャルティズトレーディング(STC)も「ペコット」のブランドで発売する。
帝人のプラントペットは12年、日産自動車がマイナーチェンジした電気自動車「日産リーフ」のシート、内装トリムの表皮材として採用された。量産車への採用は初めてで、同社とスミノエテイジンテクノ、日産自動車との共同開発によるもの。帝人によると「石油由来に比べ化石資源の消費抑制や温室効果ガスの削減に貢献できることが評価された」。
同社では日産リーフへの採用を契機に、プラントペットの拡販を行い、15年度にカーシート・内装材のポリエステル繊維販売量の50%以上をプラントペットにする計画を組む。さらに衣料、衛生材料などへの用途開拓も推進する。
東レ完全バイオに挑戦/13年から試供、実証開始
東レも部分バイオポリエステル繊維に13年4月から本格参入する。「石油由来のEGと混ざらないように品質保証体制を確立」したうえで自社生産による発売だ。すでに、石油由来と同等の物性を確認済みで、自動車内装材、カーテン、スポーツ衣料に展開する。
同社は部分バイオにとどまらない。もう一方の原料であるPTAのバイオ化にも着手している。PTAのバイオ化はEGよりも難度が高いが「部分バイオでは本物とは言えない。需要家に訴求する上でもインパクトが違う」として、事業化に意欲を見せる。
11年には米国のジーヴォが合成した完全バイオによるパラキシレンを原料にPTAを製造、バイオEGと組み合わせた世界初の完全バイオポリエステル繊維の試作に成功している。12年6月にはジーヴォが建設するパイロットプラントによるバイオパラキシレンを一定量引き取るオフテイク契約も結んだ。これにより、完全バイオポリエステル繊維のパイロットスケールでの実証が可能となる。13年から需要家に試供し市場評価を始めるという。
石油由来を代替できるか/バイオだけでは売れない
問題はバイオ原料だから売れるとは限らない点にある。それはPLAで経験済み。もちろん、物性面では石油由来と同じだが、コスト高になるのは間違いない。その面で「機能性を持つ繊維で、しかもバイオ原料である点を訴える必要がある」(東レ)。
長期的に見れば石油価格が高止まりする可能性は高い。新興国の経済発展による世界的なエネルギー消費量の増加などがあるからだ。その面ではバイオ原料と石油原料の価格が均衡することもあり得る。その時、バイオポリエステルは石油由来に代わって主流を占めるかもしれない。バイオ繊維の時代が徐々に近づいている。