『ニュースを読む』

2001年03月14日 (水曜日)

富士紡化繊撤退

 二十三日、富士紡が発表したフジボウ愛媛の化繊事業撤退。昨年七月の完全分社化後、わずか半年で撤退を決めた判断が早いのか、それとも遅いのか、意見の分れるところだが、フジボウ愛媛に生産委託や商権移管を進めていた東洋紡にとってはアテが外れた。今後、東洋紡がどう対応するのか注目されるところだ。

 富士紡、フジボウ愛媛は昨年十月から化繊対策委員会を設け、事業撤収を含めた検討を行い、一月末にはフジボウ愛媛が最終案をまとめあげていたようだ。もちろん、化繊業界では不織布用途への展開が遅れたレーヨン短繊維(生産能力・月七百トン)の撤退はある程度、予想された。しかし、九八年に同千四百トンへ能力増を行なったポリノジック「ジュンロン」も含めた事業撤退になろうとは…。今となれば、昨年十月にフジボウ愛媛が生産を担う不織布事業を本体に移管したのは化繊生産撤収の布石と取れる。

 生産撤収に加え、富士紡では台湾化繊に技術供与し、キトサン練り込みポリノジック「キトポリィ」など差別化素材も含めたOEM供給も行うことを明らかにし、富士紡本体でポリノジックのテキスタイル展開などは継続する考えを強調する。

 ただ、今年三月末でポリノジック「タフセル」の生産を休止する予定の東洋紡はあてが外れた。テキスタイル用など自社使用分はフジボウ愛媛から原綿供給を受け、0.5dのショートカットファイバー「タフレーヌ」(電池セパレーター用機能紙向け)などは技術供与も行い、商権移管を進めていた。それだけに戸惑いを隠せない様子で、現在のところ「今後、どう対応するかは未定。現時点では何も決まっていない」とコメントするにとどまっている。

 とくに、「タフレーヌ」はユーザーもフジボウ愛媛製へのテストを進めていただけに問題は多い。また、二社向けに年三百五十~四百トンの規模に過ぎず、果たして年十二~十三万トンの規模とも言われる台湾化繊が少量の「タフレーヌ」OEM生産を引き受けるかどうか。

 台湾化繊は東洋紡が撤退を決めた際、「タフセル」に興味を示したほか、旭化成が撤退するレーヨン長繊維にも触手を伸ばしたとも言われるだけに、今後どう動くのか。東洋紡は「タフレーヌ」の技術を台湾化繊に供与するのか。今後、要注目だ。

 「タフセル」を使用するあるユーザーではフジボウ愛媛の化繊事業撤収を「ある程度、予想出来たし、〝タフセル〟の在庫を積み増しはしてもらっており、他素材転換のテストも見通しがついている」と冷静な反応を示す。

 ただ、衣料や代替素材のある用途とは違い、「タフレーヌ」など簡単に素材転換ができない産業資材もある。その面で昨今、繊維業界が強化を掲げる産業資材分野だが、一方でユーザーは素材メーカーの現状や将来性を視野に入れた原料調達が重要と言えそうだ。