エアバッグ/かすかながら素材変化/ポリエステル一部採用
2013年02月21日 (木曜日)
ナイロン66(長繊維)唯一の成長分野であるエアバッグで、かすかながら素材変化の兆しがある。汎用合繊の代表であるポリエステル長繊維の登場だ。カーテンエアバッグの素材として、欧州のモジュールメーカーが一部採用。欧州や中国の自動車メーカーなどがポリエステル長繊維製エアバッグを搭載したと言われる。ナイロン66に比べて圧倒的なコスト競争力を持つが、物性面では劣るポリエステル長繊維。果たして、エアバッグ市場を侵食するのかどうか、それとも兆しのままで終わるのか。動向を探った。
兆しのままで終わるか
自動車の安全部品であるエアバッグ。その素材として使われるナイロン66を日本で製造販売するのは東レ、東洋紡、旭化成せんいの3社。東レ、東洋紡は生地売り、旭化成せんいは糸売りを主体とする。東レは日本とタイで原糸、日本・タイ・中国・チェコで生地を生産する。東洋紡は原糸が日本(海外は提携するPHPからの供給も受ける)だが、生地は日本・タイ・中国・米国に生産拠点を持つ。旭化成せんいは日本で原糸生産し、日本と中国の生地製造にも出資する。
3社ともナイロン66の最重点分野と位置づけ、グローバルに展開している。その市場にポリエステル長繊維が触手を伸ばし始めている。
ポリエステル長繊維が使われ始めたのは、運転席や助手席用、さらに横からの衝撃に対応するサイドエアバッグではなく、横転や転倒の際に身体を保護するカーテンエアバッグと呼ばれるもの。
運転席や助手席用のエアバッグは衝突時に一瞬に広がり、急速にしぼむ。これに対してカーテンエアバッグは横転や転倒の際に数秒間、膨張する必要があるため、求められる生地特性も異なる。エアバッグを膨らませるガスも運転席のような高温ガスである必要がない。
こうした背景から耐熱性などナイロン66に劣るポリエステル長繊維が、エアバッグ市場に入り込み始めた。東洋紡によると「数年前から将来のナイロン66の需給バランスが崩れることを懸念し、ポリエステルも使えるようにすべき」との欧米での考えがその始まりという。エアバッグの需要増に原糸の増設が追い付かないとの見方だ。
結果的にポリエステル長繊維の採用は一部にとどまっている。東レは「今後のインフレーター開発次第だが、現状のままであれば他の部位に広がることはない」と見る。東洋紡も「ポリエステル長繊維の弱点を根本的に改善する技術が開発されない限り、採用は限定的」と予測する。
ただ、限定的とは言え「カーテンエアバッグではポリエステル化が進む可能性がある」(旭化成せんい)と楽観しているわけではない。東レはすでにエアバッグ用ポリエステルの開発は完了。東洋紡も開発を進める。
もちろん「軸足はナイロン66」(東レ)、「積極的な提案は行わない」(東洋紡)など、ナイロン66がベースであることに変わりはない。仮にポリエステル長繊維化が進めば、ナイロン66事業そのものが成り立たなくなるからだ。
果たして、ナイロン66の牙城であるエアバッグでポリエステル長繊維化が進むのか。エアバッグ未参入の帝人も「ビジネスチャンス。準備は進める」と虎視眈々。今後の動向が注目される。