2013春季総合特集 トップインタビュー・機械メーカー編/伊藤忠システック社長・園田博之氏/繊維は世界的成長産業

2013年04月26日 (金曜日)

 「円高で日本のモノ作りの力が弱まっていくことに危機感を持っていただけに、現在の円安傾向は歓迎」――伊藤忠システックの園田博之社長は話す。一方で繊維機械の輸入では円安はデメリットとなるなど表裏の関係にあるとも。「繊維産業は世界的に見れば成長産業。競争力のある地域に中心が移っていく」ことから、引き続き需要の生まれる地域を見極めながら全方位対応が可能な体制を作り上げる考えだ。

全方位対応可能な体制を

――経済政策が一新され、為替動向も大きく変わりました。

 1ドル=70円台という異常な円高で日本のモノ作りがどんどん縮小し、日本の力が弱まっていく状況に危機感を持っていましたから、現在の円安傾向は歓迎しています。産業界にとっても良かったのでは。ただ、株高はいいとして円安にはデメリットもありますから、金融当局がうまくコントロールしてほしいですね。現在の為替水準なら、体力のある企業は海外展開を伸ばし、そうでないところは国内で強みを発揮するといった形で両方が何とかやれます。

――円安のメリットとデメリットを比較すると。

 当社は繊維機械や産業用機械の輸出と輸入両方を手掛けていますからいたしかゆしといったところです。ただ、輸出の方が大きいですからチャンスです。実際に日本の織機メーカーの受注が回復してきました。輸入に関しては、国内で設備投資する企業のほとんどが計画的な投資を行っていますので、為替による影響は、それほど大きくありません。欧州から日本に機械を輸入するだけでなく、第三国に出荷するといった三国間取引も増えています。

―――2012年度を振り返ると。

 ほぼ計画通りでしたし、13年に向けた先物案件も衣料分野から資材分野まで受注できたことは良かった。昨年はパキスタンとインドで開催された展示会にも参加し、その場で成約も得るなど成果がありました。パキスタンやインドは中国への綿糸輸出が絶好調ですし、電力不足から省エネルギー性能に優れる日本製の紡機やワインダーを導入するケースがますます増えてきました。とくにインドの場合、今年4月から設備投資に対する政府助成も始まりました。

――今期の課題は。

 世界的に見れば、繊維産業は緩やかでも成長産業です。グローバルな広がりのなかで、中心が中国、インド、パキスタンといった国から、さらに競争力のある国に移っていくことになるでしょう。つまり、何かに一点張りすることが危険。マーケットを面としてとらえ、どこに対しても対応できるようにしなければなりません。国内、中国、台湾、インド、パキスタン、アセアン地区、エジプト、トルコ、中央アジアなどなど、どこで動きがあっても対応できる体制を作ります。そのために欧米にも機械のことが分かる人材を配置し、どこで新たな動きがあるのかをリサーチさせています。伊藤忠商事の繊維カンパニーとも連携し、当社のネットワークと合わせて活用します。

 もちろん国内市場を軽視するわけではありません。国内工場への投資だけでなく、国内企業が海外に設備投資するケースもありますから、そういったケースでユーザーが競争力を発揮できるような機械を提案することが求められています。同時に、ユーザーのトータルランニングコストを考慮した提案も重要。従来はすべての工程で欧州製の機械を提案するケースが一般的でしたが、今後は重要な工程は欧州の最新鋭設備を、定番的な工程は例えば台湾製を紹介するといった提案のバリエーションを増やすことも大切になってきました。やはり当社は紡織機械や不織布機械など繊維機械が主力。ユーザーに対する情報発信も強化したい。6月にドイツで開催される高機能繊維展示会「テクテキスタイル」には視察ツアーを組む予定です。当社が輸入しているバンデビーレやドルニエといったメーカーを見学するプランも立てています。

(そのだ・ひろゆき)

 1981年伊藤忠商事入社。産機ソリューション部門長補佐兼産機システム部長、産機ソリューション部門長代行などを経て2012年伊藤忠システック副社長、同年6月から社長。

私の課長時代/繊維が最も奥深い

 園田さんが初めて課長になったのは39歳の時。伊藤忠商事の産機システム部電子機械第1課長として半導体用機械を扱った。液晶ディスプレーなど電子材料産業の隆盛期。「業界が新しいから、1年も出入りすれば玄人のふりができた」とか。ところが繊維機械は歴史が古くベテランも多い。「彼らと話すと、すぐにこっちが素人だとばれてしまう。だから若手には『繊維が最も奥深い。ここで通用すればどの分野でも大丈夫』と言っています」